劇ではいつも『木』の役だったわたしの異世界転生後の職業が『木』だった件……それでも大好きな王子様のために庶民から頑張って成り上がるもん!

ハイフィールド

文字の大きさ
51 / 127
第十一章 四国連合会議

51本目

しおりを挟む
 俺は王都でも指折り料理店のシェフをしている男だ。今日は王都に新しくオープンするスィーツメインの店に来ている。

 店内に入った俺は既存の店ではあり得ない革新的な店舗にスタッフに驚きつつも、冷静を装ってメニューを選ぶ事にした。
 慌てるな……ここは飲食店だ、どんなに見た目が良かろうと肝心の食べ物が美味しくなければ何の意味は無い。

 俺はメニューを開くと再び驚愕した。

「なんだと、食べ物の絵が載っている……メニューに絵描きでも雇っているのか?」

 確かに貴族向けの飲食店のメニューには本物そっくりな絵を載せている所もあるが、大抵は名前と値段しか載っていない……しかも、周りを見る限りこのメニューと同じ物は他の客も見ているから複数あるという事か。こんな所に金をかける必要ないだろう……いったいこの店は何なんだ。

 ええい、狼狽えるな、さっきも言ったとおり肝心なのは料理の味だ。俺は再びメニューを見直すとそれを吟味する。

「飲み物はもちろん、タルト……ケーキ? 知らない物も多いな……店が薦めているものもあるな。とりあえずこれを頼むとしよう……すまない、頼めるか?」

「はい、ただいま」

 俺の呼びかけに直ぐ様応じる店員……今度は男性だが、先程の女性と同じように清潔な白いシャツに黒い長ズボンを身に纏っている。言葉遣いもしっかりしている。本当にここは一般市民の食べる料理店なのか。

「お薦めに載っているマスカットタルトとコーヒーをたのむ」

「畏まりました……メニューをお下げします」

「もしかしたら追加で頼むかも知れないからメニューはこのまま見ていても良いか?」

「もちろん構いません、それでは失礼致します」

 綺麗な姿勢で応対した男性店員は立ち去っていくのを確認すると俺は再びメニューを見る。しかし見た事も無いものばかりだ、しかも何の材料を使った菓子なのかも簡単に書いてある。



「お待たせ致しました、マスカットタルトとコーヒーです。お砂糖とミルクをお好みでお使い下さい」

「おお、これは美しい……ん、砂糖とミルクを自由に入れて良いのか?」

「はい、コーヒーはそのままでは苦い飲み物なので……ですが、マスカットタルトの甘さには苦いままの方がお口に合うという方もいらっしゃるので、ご自身の舌に合うよう上手く調整して頂ければと思います」

「なるほど、ありがとう」

 運ばれてきた皿を見る。これは本当に美しい。皿は今流行の木製食器の皿か……装飾も上品でタルトの美しさを引き立てている。そしてこのタルトの上に載っているブドウ……マスカットか。まるで宝石のような美しさだな。

 俺は一緒にテーブルに置かれたフォークを手に取るとタルトに突き立てる。柔らかいフルーツの下にサクッとした感触。それを口に入れると爽やかな甘酸っぱさが広がる。
 クッキーの生地もマスカットの風味を邪魔しない程度の甘さがして、口の中に美味しい甘さが順番待ちをしながら舌の上に飛び込んでくるようだ。

「こいつは……美味いな」

 ふと、皿の脇にあるコーヒーが目にとまる。お薦めに任せて頼んでしまったが、この黒い色の飲み物を飲むのは抵抗があるな……とはいえなんだ? この良い香りは。
 俺はカップを手に取ると恐る恐るそれを口に運び飲み込むと……おおっ、なんだこの深い味わいと香りは。苦い……だがそれがいい。
 タルトの甘さで一杯になった口の中が程よい苦みと良い香りで洗い流されていく。口の中を……鼻の奥までコーヒーの香りが広がる。

 そして再びタルトを口にすると爽やかな甘みが広がる、そしてコーヒーを飲む……止まらない……これはまさに至福の時と言えるだろう。

 人間はただ生きていくだけじゃ無い。人生に楽しみが無いと生きているとは言えないと思う。俺はその楽しみを料理だと思って人生をかけてそれに打ち込んできた。
 お菓子などは子供の物だと決めつけていた……だが、違う。これは間違いなく人間が味わうための楽しみだ。

「お客様、当店のスィーツはいかがでしょうか?」

「!? ビーン!?」

 そこには元同僚のビーンが立っていた。上下白い服、頭は髪の毛全てを白い帽子に入れている。

「……お前の言っていた事がわかったよ。お菓子が下だ上だなんて関係ない。これは本当に誰にでも誇れる立派な料理だったんだな」

「ありがとうございます、そう言って頂けると頑張ってきた甲斐がありました」

 昔は下積み時代、ともに料理で上を目指そうと語り合っていたのに、いつの間に互いの道が違っているかの如く認め合う事が無かった。だが、俺達の道は違ってなんかいなかった。

「なぁ、今度は俺の料理を食べてくれないか?」

「はい、喜んで……お前のとっておきを俺に食わせてくれ」



 始終畏まっていた元同僚……いや、俺の友達は最後にニヤリと微笑んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...