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第十一章 四国連合会議
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俺は王都でも指折り料理店のシェフをしている男だ。今日は王都に新しくオープンするスィーツメインの店に来ている。
店内に入った俺は既存の店ではあり得ない革新的な店舗にスタッフに驚きつつも、冷静を装ってメニューを選ぶ事にした。
慌てるな……ここは飲食店だ、どんなに見た目が良かろうと肝心の食べ物が美味しくなければ何の意味は無い。
俺はメニューを開くと再び驚愕した。
「なんだと、食べ物の絵が載っている……メニューに絵描きでも雇っているのか?」
確かに貴族向けの飲食店のメニューには本物そっくりな絵を載せている所もあるが、大抵は名前と値段しか載っていない……しかも、周りを見る限りこのメニューと同じ物は他の客も見ているから複数あるという事か。こんな所に金をかける必要ないだろう……いったいこの店は何なんだ。
ええい、狼狽えるな、さっきも言ったとおり肝心なのは料理の味だ。俺は再びメニューを見直すとそれを吟味する。
「飲み物はもちろん、タルト……ケーキ? 知らない物も多いな……店が薦めているものもあるな。とりあえずこれを頼むとしよう……すまない、頼めるか?」
「はい、ただいま」
俺の呼びかけに直ぐ様応じる店員……今度は男性だが、先程の女性と同じように清潔な白いシャツに黒い長ズボンを身に纏っている。言葉遣いもしっかりしている。本当にここは一般市民の食べる料理店なのか。
「お薦めに載っているマスカットタルトとコーヒーをたのむ」
「畏まりました……メニューをお下げします」
「もしかしたら追加で頼むかも知れないからメニューはこのまま見ていても良いか?」
「もちろん構いません、それでは失礼致します」
綺麗な姿勢で応対した男性店員は立ち去っていくのを確認すると俺は再びメニューを見る。しかし見た事も無いものばかりだ、しかも何の材料を使った菓子なのかも簡単に書いてある。
「お待たせ致しました、マスカットタルトとコーヒーです。お砂糖とミルクをお好みでお使い下さい」
「おお、これは美しい……ん、砂糖とミルクを自由に入れて良いのか?」
「はい、コーヒーはそのままでは苦い飲み物なので……ですが、マスカットタルトの甘さには苦いままの方がお口に合うという方もいらっしゃるので、ご自身の舌に合うよう上手く調整して頂ければと思います」
「なるほど、ありがとう」
運ばれてきた皿を見る。これは本当に美しい。皿は今流行の木製食器の皿か……装飾も上品でタルトの美しさを引き立てている。そしてこのタルトの上に載っているブドウ……マスカットか。まるで宝石のような美しさだな。
俺は一緒にテーブルに置かれたフォークを手に取るとタルトに突き立てる。柔らかいフルーツの下にサクッとした感触。それを口に入れると爽やかな甘酸っぱさが広がる。
クッキーの生地もマスカットの風味を邪魔しない程度の甘さがして、口の中に美味しい甘さが順番待ちをしながら舌の上に飛び込んでくるようだ。
「こいつは……美味いな」
ふと、皿の脇にあるコーヒーが目にとまる。お薦めに任せて頼んでしまったが、この黒い色の飲み物を飲むのは抵抗があるな……とはいえなんだ? この良い香りは。
俺はカップを手に取ると恐る恐るそれを口に運び飲み込むと……おおっ、なんだこの深い味わいと香りは。苦い……だがそれがいい。
タルトの甘さで一杯になった口の中が程よい苦みと良い香りで洗い流されていく。口の中を……鼻の奥までコーヒーの香りが広がる。
そして再びタルトを口にすると爽やかな甘みが広がる、そしてコーヒーを飲む……止まらない……これはまさに至福の時と言えるだろう。
人間はただ生きていくだけじゃ無い。人生に楽しみが無いと生きているとは言えないと思う。俺はその楽しみを料理だと思って人生をかけてそれに打ち込んできた。
お菓子などは子供の物だと決めつけていた……だが、違う。これは間違いなく人間が味わうための楽しみだ。
「お客様、当店のスィーツはいかがでしょうか?」
「!? ビーン!?」
そこには元同僚のビーンが立っていた。上下白い服、頭は髪の毛全てを白い帽子に入れている。
「……お前の言っていた事がわかったよ。お菓子が下だ上だなんて関係ない。これは本当に誰にでも誇れる立派な料理だったんだな」
「ありがとうございます、そう言って頂けると頑張ってきた甲斐がありました」
昔は下積み時代、ともに料理で上を目指そうと語り合っていたのに、いつの間に互いの道が違っているかの如く認め合う事が無かった。だが、俺達の道は違ってなんかいなかった。
「なぁ、今度は俺の料理を食べてくれないか?」
「はい、喜んで……お前のとっておきを俺に食わせてくれ」
始終畏まっていた元同僚……いや、俺の友達は最後にニヤリと微笑んだのだった。
店内に入った俺は既存の店ではあり得ない革新的な店舗にスタッフに驚きつつも、冷静を装ってメニューを選ぶ事にした。
慌てるな……ここは飲食店だ、どんなに見た目が良かろうと肝心の食べ物が美味しくなければ何の意味は無い。
俺はメニューを開くと再び驚愕した。
「なんだと、食べ物の絵が載っている……メニューに絵描きでも雇っているのか?」
確かに貴族向けの飲食店のメニューには本物そっくりな絵を載せている所もあるが、大抵は名前と値段しか載っていない……しかも、周りを見る限りこのメニューと同じ物は他の客も見ているから複数あるという事か。こんな所に金をかける必要ないだろう……いったいこの店は何なんだ。
ええい、狼狽えるな、さっきも言ったとおり肝心なのは料理の味だ。俺は再びメニューを見直すとそれを吟味する。
「飲み物はもちろん、タルト……ケーキ? 知らない物も多いな……店が薦めているものもあるな。とりあえずこれを頼むとしよう……すまない、頼めるか?」
「はい、ただいま」
俺の呼びかけに直ぐ様応じる店員……今度は男性だが、先程の女性と同じように清潔な白いシャツに黒い長ズボンを身に纏っている。言葉遣いもしっかりしている。本当にここは一般市民の食べる料理店なのか。
「お薦めに載っているマスカットタルトとコーヒーをたのむ」
「畏まりました……メニューをお下げします」
「もしかしたら追加で頼むかも知れないからメニューはこのまま見ていても良いか?」
「もちろん構いません、それでは失礼致します」
綺麗な姿勢で応対した男性店員は立ち去っていくのを確認すると俺は再びメニューを見る。しかし見た事も無いものばかりだ、しかも何の材料を使った菓子なのかも簡単に書いてある。
「お待たせ致しました、マスカットタルトとコーヒーです。お砂糖とミルクをお好みでお使い下さい」
「おお、これは美しい……ん、砂糖とミルクを自由に入れて良いのか?」
「はい、コーヒーはそのままでは苦い飲み物なので……ですが、マスカットタルトの甘さには苦いままの方がお口に合うという方もいらっしゃるので、ご自身の舌に合うよう上手く調整して頂ければと思います」
「なるほど、ありがとう」
運ばれてきた皿を見る。これは本当に美しい。皿は今流行の木製食器の皿か……装飾も上品でタルトの美しさを引き立てている。そしてこのタルトの上に載っているブドウ……マスカットか。まるで宝石のような美しさだな。
俺は一緒にテーブルに置かれたフォークを手に取るとタルトに突き立てる。柔らかいフルーツの下にサクッとした感触。それを口に入れると爽やかな甘酸っぱさが広がる。
クッキーの生地もマスカットの風味を邪魔しない程度の甘さがして、口の中に美味しい甘さが順番待ちをしながら舌の上に飛び込んでくるようだ。
「こいつは……美味いな」
ふと、皿の脇にあるコーヒーが目にとまる。お薦めに任せて頼んでしまったが、この黒い色の飲み物を飲むのは抵抗があるな……とはいえなんだ? この良い香りは。
俺はカップを手に取ると恐る恐るそれを口に運び飲み込むと……おおっ、なんだこの深い味わいと香りは。苦い……だがそれがいい。
タルトの甘さで一杯になった口の中が程よい苦みと良い香りで洗い流されていく。口の中を……鼻の奥までコーヒーの香りが広がる。
そして再びタルトを口にすると爽やかな甘みが広がる、そしてコーヒーを飲む……止まらない……これはまさに至福の時と言えるだろう。
人間はただ生きていくだけじゃ無い。人生に楽しみが無いと生きているとは言えないと思う。俺はその楽しみを料理だと思って人生をかけてそれに打ち込んできた。
お菓子などは子供の物だと決めつけていた……だが、違う。これは間違いなく人間が味わうための楽しみだ。
「お客様、当店のスィーツはいかがでしょうか?」
「!? ビーン!?」
そこには元同僚のビーンが立っていた。上下白い服、頭は髪の毛全てを白い帽子に入れている。
「……お前の言っていた事がわかったよ。お菓子が下だ上だなんて関係ない。これは本当に誰にでも誇れる立派な料理だったんだな」
「ありがとうございます、そう言って頂けると頑張ってきた甲斐がありました」
昔は下積み時代、ともに料理で上を目指そうと語り合っていたのに、いつの間に互いの道が違っているかの如く認め合う事が無かった。だが、俺達の道は違ってなんかいなかった。
「なぁ、今度は俺の料理を食べてくれないか?」
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