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第十六章 悪役令嬢の誕生!?

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 第一話より過去、学習院編入前にさかのぼります。
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 ここはアルヴァリス王立学習院の女子寮の一室。

 わたしが五年間過ごすお部屋だ。既に手荷物は開いて片付けは済んでいる……ほとんどマリナがやってくれたんだけどね。そんなわたしは鏡を見ながらやるべき事を確認していた。

 わたしは学習院の編入生として明日から貴族学部の学院生の仲間入りをする……正式には成人後に男爵となるんだけどね。
 いくら学院に身分は関係ない名目があるとは言え、悪目立ちすると出る杭は打たれてしまうと思う。
 だからあくまで大人しく目立たないように過ごす……そして愛しの第二王子様まーくんとは忍ぶ恋をするの。うっとり。

 たとえば、秘密の場所で待ち合わせなんかしちゃったりして……

「(低めの声で)待たせてすまないアーリャ……貴族のご令嬢達から逃れるのに時間が掛かってしまった」

「マクシス様、あなたを待つ時間はわたしにとって幸せな時間……ちっとも苦ではありません」

「(低めの声で)あぁ、なんて健気なアーリャだ……俺にとっても君といられる短い時間が幸福の時だ」

「マクシス様……」

「(低めの声で)アーリャ……」

「(マリナの声で)お嬢……」

「マリナ……え? マリナ?」

「お嬢、お芝居の練習をしているところ申し訳無いですが、明日のお召し物の準備をしておきたいんです」

「み~た~な~!!」

「最初からいましたから。お嬢は突然自分の世界に入るのも程々にしておきましょうね」

 わたしの目の前であきれている侍女の格好をしている女性はマリナ。身の回りのお世話や細かい用事を受け持ってくれるんだけど、仕事以外では信頼出来るお姉さんみたいな存在だ。

 実家の商家の従業員だったのだけどわたしの専属になって、そのままの流れで侍女の真似事をすることになったのだ……あれ? そういえば契約上どうなっていたっけ? 一応わたしが直にお給金を払う事になっているけど、まだお店の従業員だった気がする。

「それは後で良いですから、このお召し物に着替えてください」

 言われるがままにマリナから渡された服を着てそれに合わせたアクセサリを着けてはあーでもないこーでもないと着せ替え人形になったのでした。


□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


「やっと終わったよ~」

「お疲れ様でした。ところでお嬢、目立つつもりは無いと言いながら色々と準備を進めていますね。そちらに使った金額も結構な量ですよ」

「うん、いくら目立たないようにとは言え、庶民から成り上がった貴族には苛めはつきものだよ。ここぞとばかりに悪役令嬢が現れてか弱い庶民のわたしを目の敵にしてくる……これは物語の定番だよ」

「はぁ、そうなんですか? 生憎そんな物語を見た事無いですけど……」

 前世ではいっぱいあったの! 説明してもわからないだろうけどね。

 そう、わたしアーリャは日本から転生してきた女子高生の長谷川 亜里奈 はせがわありな。容姿も勉強も運動もスポーツも平均的な普通の女の子だった。
 まぁ、幼稚園から高校生までに演じてきた劇の役が全部『木』だったと言うところはチョッピリ普通じゃ無いかもだけど……何か文句あるの?

 ひょんな事からこのファンタジーな世界に転生して商人の家に生まれてきたの。この世界には神様もいて魔法もある不思議な世界……そして子供はみんな三歳になると古代ローマ風の神殿で洗礼式が行われて、全員神様から祝福の『ギフトジョブ』という能力が貰えるの。

 『ギフトジョブ』が『剣士』だったら剣の扱いが上手になるし、『商人』だったら商才があって商人として大成しやすかったり……とは言え、よくあるWEB小説のように期待の職業じゃなかったら家を追い出されたり迫害されるわけでも無く、必ずその職業に就く必要は無い。

 そしてわたしの貰った『ギフトジョブ』は……『木』でした。

 『木』って何よ!! 職業ですら無いよ!! 当初はわたしは憤慨し、お父さんは唖然とし、神殿の神父さんは目を逸らしたのでした。とりあえず過去に無いジョブと言う事で名目上木を育てる特性がある『林業師』として周知することになった。

 まぁ、今となってはこれ以上に無いほど便利なギフトジョブだったわけだから神様にはすっごく感謝しているよ。

 そして運命の五歳の日、アルヴァリス王国の第二王子様お披露目の儀で見つけたの……前世で大好きだった幼馴染みの桜庭舞斗 さくらばまいと……まーくんが第二王子マクシス様として生まれ変わっていたの。
 何があったわけでも無く、神様から説明されたからでも無く、容姿も全く違うのにわたしには彼がまーくんだとわかった。

 でも、わたしから見たまーくんは一人だけど、まーくんからみたわたしは民衆に紛れた一庶民……気付いて貰えるわけが無かった。

 きっとわたしを見て貰えれば気付いて貰える! そんな一縷いちるの望みをかけてわたしは王子様の目に止まれるような立場になる事を決意したのでした。

 わたしの『ギフトジョブ』である『木』は、前世を含めて過去に触った事のある木をWPウッドポイント……能力を使うために必要な数値で勝手にそう呼んでいます……を消費する事によって生やしたり、形を自由に加工したり、近くの木を伝って遠くの様子を知ったりと、とんでもなく優秀チートでした。

 わたしはその能力を自重せずに使って、木製の食器や植物紙、前世の高級なフルーツやチョコレートにコーヒーなどを作り、資金や有力貴族との繋がりを得てやがて国の重要な交流会でわたしの作品が使われるまでとなったのです。

 他にも第一王子様アレウス様と交流を持つようになったりと色々あったけど、特に大事な出来事として『予知能力』を使えるギフトジョブをもつまーくんが隣国へ誘拐されようとしたの。
 間一髪わたしは冒険者の幼馴染みの協力を得て助ける事が出来たんだけど、その時に使用された魔道具のせいでまーくんは記憶を失ってしまった。

 せっかくまーくんに会えたと思った矢先にその出来事……わたしはショックで立ち上がれなくなりそうだった。
 でもまーくんはわたし宛に『日本語』で手紙を残してくれていて、会えなくてもわたしの存在をこの世界に感じていてくれて……そしてわたしに再び立ち上がる事が出来る力を与えてくれた。

 その後、わたしは今までの国への貢献とまーくんを救った功績も合わせて貴族の位を得る事が出来た。五年後の成人の暁には男爵となる。それまでは身分相応の知識を身に付けるために王立学習院に通う事になったのでした。

 いま、わたしのやるべき事はみっつ。

 ひとつ。 まーくんの記憶を取り戻す手がかりを探す。

 ふたつ。 無事に学習院を卒業して、貴族の位を上げてまーくんの隣に並べる身分になる。

 みっつ。 学習院でまーくんとより仲良くなる……あわよくばラブラブ学院生活を送る。



「大変で難しいかも知れないけど、何としてでも成し遂げるんだから!!」

「お嬢、ベッドの上に立ち上がるのは止めてください、お行儀悪いですよ」

「はっ!?」



 ……こうして決意を新たにしたわたしの学院生活開始前夜は更けていくのでした。
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