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輪廻転生
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芋虫は岩山に近づくと速度を落とし、チューブが岩山に接した場所へ、もぞもぞと這って行く。ぐいっ、と頭を持ち上げ、前足を掛ける。
乗り込んでいた全員、芋虫から降りて見守った。
芋虫は、のそのそとした動きで、それでも着実に、岩山をじんわりと登って行く。
岩山を構成する真四角な岩は、あちこち外へ突き出し、登攀するには苦労しそうだが、芋虫はしっかりと多足の脚部を使って、ゆっくりと登る。
じっと見つめていると、ようやく満足した箇所を見つけたのか、芋虫は不意に動かなくなった。頭部を微妙に動かし、口から糸を吐き出して、岩の面に接着する。それから芋虫の巣篭もり行動が始まった。
タバサは岩山のあちこちに視線をさ迷わせた。
その気になって観察すると、岩山には無数の蛹が貼り付いている。
ばさばさばさ……と羽音がして、タバサは顔を向けた。
巨大な蝶の羽根が、視界に飛び込んできた。羽根を動かしているものを見て、タバサは思わず「えっ?」と声を上げる。
羽根の中心にいるのは、人間……のように見える。ほっそりとした手足、白蝋のような肌をして、血の気のまったくない顔色をしていたが、どう見ても人間だ。
髪の毛はプラチナ・シルバーの銀髪、瞳は薄いブルー。目尻は吊り上がり、唇には色が付いていない。
タバサは一瞬、裸なのかと思ったが、全身が肌と同じ色の、真っ白な生地のぴったりとした衣装を身に着けている。男とも、女ともつかない中性的な顔つきの人間は、二郎を見つめ、にっこりと笑い掛け、形のいい唇が開き、声を発した。声もまた、顔つき同様、男女の区別をつけることができないものだった。
「ようこそ、客家二郎。またいらしたのですね」
呼びかけられ、二郎は笑い返した。
「やあ! ケストか! 仰せの通り、何とか無事にここまで辿り着くことができた。この六人で熱気球に乗りたいのだが、手配してくれるかね?」
ケストと呼びかけられた蝶人間は、にこやかな笑みを返した。
「今回は、お仲間をお連れになったとは! いよいよ、シャドウと対決するのですか?」
「そうさ。いよいよだ……!」
二郎は真剣な表情になった。
タバサは二郎の袖を引っ張って囁く。
「知り合いなの?」
ケストはタバサを見下ろし「にっ」と笑いかけた。タバサは「ど、どうも!」と無意味な呟きを口にし、どういう訳か自分の顔がかっと火照るのを感じていた。
ふわり、とケストは羽根を動かしてタバサの目の前に舞い降りた。微かに頭を下げ、胸に手を置いて挨拶する。
「初めまして。わたくし、ケストと申す蝶人の者です!」
慌ててタバサは自己紹介をする。
「あっ! あたし、タバサです。よろしくっ!」
ケストは小首をかしげ、しげしげとタバサを見つめてくる。ケストの凝視に、タバサはどきどきと動悸が高鳴るのを感じる。やがてケストは得心したのか、にっこりと笑った。
「なるほど! とても良いお嬢さまのようですね。《ロスト・ワールド》へ、ようこそいらっしゃいました」
何を言っていいか判らず、タバサはじっと見つめ返した。ケストの顔に「ああ」といった表情が浮かぶ。
「わたくしのことがお知りになりたいのでしょう? ご安心なさい。わたくしは正真正銘の人間のプレイヤーです。但し、〝ロスト〟したプレイヤーの、成れの果て。ここ《ロスト・ワールド》で、蝶人にされてしまいましたが」
タバサはケストの最後の言葉を聞き咎めた。
「ここで蝶人にされた?」
「そうです」とケストは背後の岩山を指差した。指先は、岩山に貼り付いている一つの蛹を示している。
示された蛹は、今にも羽化する寸前のものだった。
背中に亀裂が生じ、白い羽根の一部が覗いている。ふるふると震えながら、蛹は羽化を始め、内部から身体が抜け出してくる。
人間だった!
ケストと同じような、真っ白な身体の人間が蛹から孵ってくる。背中には巨大な羽根が生え、まだ身体が固まっていないため弱々しい印象だが、明らかに人間のプロポーションを持っていた。
「あ、あなたが……あれ……? まさか、信じられない!」
タバサは支離滅裂なセリフをしどろもどろに口にするが、ケストは大真面目に頷いた。
「そうです。わたくしも、ここで蛹から、この身体に生まれ変わったのです!」
乗り込んでいた全員、芋虫から降りて見守った。
芋虫は、のそのそとした動きで、それでも着実に、岩山をじんわりと登って行く。
岩山を構成する真四角な岩は、あちこち外へ突き出し、登攀するには苦労しそうだが、芋虫はしっかりと多足の脚部を使って、ゆっくりと登る。
じっと見つめていると、ようやく満足した箇所を見つけたのか、芋虫は不意に動かなくなった。頭部を微妙に動かし、口から糸を吐き出して、岩の面に接着する。それから芋虫の巣篭もり行動が始まった。
タバサは岩山のあちこちに視線をさ迷わせた。
その気になって観察すると、岩山には無数の蛹が貼り付いている。
ばさばさばさ……と羽音がして、タバサは顔を向けた。
巨大な蝶の羽根が、視界に飛び込んできた。羽根を動かしているものを見て、タバサは思わず「えっ?」と声を上げる。
羽根の中心にいるのは、人間……のように見える。ほっそりとした手足、白蝋のような肌をして、血の気のまったくない顔色をしていたが、どう見ても人間だ。
髪の毛はプラチナ・シルバーの銀髪、瞳は薄いブルー。目尻は吊り上がり、唇には色が付いていない。
タバサは一瞬、裸なのかと思ったが、全身が肌と同じ色の、真っ白な生地のぴったりとした衣装を身に着けている。男とも、女ともつかない中性的な顔つきの人間は、二郎を見つめ、にっこりと笑い掛け、形のいい唇が開き、声を発した。声もまた、顔つき同様、男女の区別をつけることができないものだった。
「ようこそ、客家二郎。またいらしたのですね」
呼びかけられ、二郎は笑い返した。
「やあ! ケストか! 仰せの通り、何とか無事にここまで辿り着くことができた。この六人で熱気球に乗りたいのだが、手配してくれるかね?」
ケストと呼びかけられた蝶人間は、にこやかな笑みを返した。
「今回は、お仲間をお連れになったとは! いよいよ、シャドウと対決するのですか?」
「そうさ。いよいよだ……!」
二郎は真剣な表情になった。
タバサは二郎の袖を引っ張って囁く。
「知り合いなの?」
ケストはタバサを見下ろし「にっ」と笑いかけた。タバサは「ど、どうも!」と無意味な呟きを口にし、どういう訳か自分の顔がかっと火照るのを感じていた。
ふわり、とケストは羽根を動かしてタバサの目の前に舞い降りた。微かに頭を下げ、胸に手を置いて挨拶する。
「初めまして。わたくし、ケストと申す蝶人の者です!」
慌ててタバサは自己紹介をする。
「あっ! あたし、タバサです。よろしくっ!」
ケストは小首をかしげ、しげしげとタバサを見つめてくる。ケストの凝視に、タバサはどきどきと動悸が高鳴るのを感じる。やがてケストは得心したのか、にっこりと笑った。
「なるほど! とても良いお嬢さまのようですね。《ロスト・ワールド》へ、ようこそいらっしゃいました」
何を言っていいか判らず、タバサはじっと見つめ返した。ケストの顔に「ああ」といった表情が浮かぶ。
「わたくしのことがお知りになりたいのでしょう? ご安心なさい。わたくしは正真正銘の人間のプレイヤーです。但し、〝ロスト〟したプレイヤーの、成れの果て。ここ《ロスト・ワールド》で、蝶人にされてしまいましたが」
タバサはケストの最後の言葉を聞き咎めた。
「ここで蝶人にされた?」
「そうです」とケストは背後の岩山を指差した。指先は、岩山に貼り付いている一つの蛹を示している。
示された蛹は、今にも羽化する寸前のものだった。
背中に亀裂が生じ、白い羽根の一部が覗いている。ふるふると震えながら、蛹は羽化を始め、内部から身体が抜け出してくる。
人間だった!
ケストと同じような、真っ白な身体の人間が蛹から孵ってくる。背中には巨大な羽根が生え、まだ身体が固まっていないため弱々しい印象だが、明らかに人間のプロポーションを持っていた。
「あ、あなたが……あれ……? まさか、信じられない!」
タバサは支離滅裂なセリフをしどろもどろに口にするが、ケストは大真面目に頷いた。
「そうです。わたくしも、ここで蛹から、この身体に生まれ変わったのです!」
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