宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

文字の大きさ
59 / 107
宙森での逃走

しおりを挟む
 猫耳を頭につけ、作り物の尻尾をふらふらさせて、アルニは宙森のメイン・ゲートから内部に続くシャフトへ歩み寄った。
 まず、この宙森という宇宙ステーションの様子を頭に入れるため、ほっつき歩くつもりだ。それに腹ごしらえもしたいし……。
 シルバーの宇宙艇《弾頭》にいれば食事も出されたろうが、アルニは腹を立てていた。
 シルバーったら、あたしの名前も知らないで、ただ超空間ジェネレーターのスイッチを押させるために連れてきたんだわ……。
 そう思うと癪に障って、ますます腹が煮えくりかえってくる。
 こんなときは、思い切り贅沢するに限る。レストランでも探して、普段は食べられないような料理を楽しもうかしら……。それくらいの金は持ち合わせている。
 メイン・ゲートを通り過ぎ、シャフトから円環部分へ続くシャトルに乗り込む。シャトルもまた、他の部分と同じように木製であった。つるりと滑らかな楕円型で、ほとんど白に近い色をしていて、目を懲らせないと木目があることが確認できない。
 内部に入り込むと、ぐるりと壁に沿うように木のベンチが向かい合う形に取り付けられている。
 シャトルにはアルニの他に、数人の乗客が乗り合わせた。皆、例外なく〝種族〟である。太ったの、細いの、背が高いの、低いの。まあ、よくもこれだけバラエティに富んだ人種が乗り合わせたものだと、感心するくらいだ。
 アルニが乗り込むと〝種族〟の乗客は意味ありげな視線を投げかけてくる。
 なにかしら? アルニの鼻はぴくぴくと動いた。
 さっきから気になっている事実。
 ここには〝種族〟しかいない。アルニのような原型の人間は一人も見かけなかった。
 これは異常な状況である、という感覚はあった。だが、なぜそうなのか、という理由は、さっぱり見当もつかない。
「お嬢さん、この宙森は、初めてですか?」
 隣に座ったゴルドン人の若者が話しかけてきた。ひょろりとした身体つきで、色は漂泊したように真っ白である。目の虹彩も白く、髪の毛もプラチナの糸のように白い。
 ゴルドン人の故郷の太陽は、ほとんど消えかけたように弱々しい光しか惑星へ投げかけない。そのため、少ない光量を皮膚の奥深くまで浸透させる目的で、ゴルドン人は色素を無くす方向へ進化してきた。普通の太陽の下では酷い火ぶくれを起こすため、ゴルドン人の旅行者は皮膚に特別なフィルムを施しておく。
 アルニの隣に座った若者も、皮膚がてらてらと光沢を放っている。
 若者の笑顔は優しげで、アルニはあるかないかの警戒心を解いていた。
 にっこりと笑い返し、答えた。
「ええ、初めてなんです! あなたは?」
 ゴルドン人の若者は唇をすぼめ、ついで飛び切りの笑顔を見せた。
「おお! 失礼、僕はゴルドン人のベータと言います。この宙森に来て、もう五年になりますよ。いいところですよ! あなたも、きっと気に入ります」
 ベータと名乗ったゴルドン人の言葉に同意するように、その場にいた〝種族〟の全員が、にっこりと笑顔を見せ、頷く。
 そこでアルニは、疑問を投げかけてみた。
「あのう……ここには原型の人たちって、いないんですか? ゲートを通っても、一人も見かけないんですけど」
 ベータの口が、にゅっ、と横に広がり、さらに笑顔が大きくなった。
「まさか! ここには沢山、原型の人間がいますよ! あなたも必ずや、ここが気に入って、宙森の一員になりたいと心から願うようになります。まあ、ここの暮らしを楽しんでください……」
 ベータの言葉に他の乗客も「そうそう」と言いたそうに首を縦に振る。同意の動きが、あまりにも揃っていて、アルニはなんだか気味が悪く思えてきた。
 その場に居合わせた全員の笑顔に、逆にアルニの胸にじわじわと不安が膨らんできた。
 トラブルの予感であった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...