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宙森での逃走
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猫耳を頭につけ、作り物の尻尾をふらふらさせて、アルニは宙森のメイン・ゲートから内部に続くシャフトへ歩み寄った。
まず、この宙森という宇宙ステーションの様子を頭に入れるため、ほっつき歩くつもりだ。それに腹ごしらえもしたいし……。
シルバーの宇宙艇《弾頭》にいれば食事も出されたろうが、アルニは腹を立てていた。
シルバーったら、あたしの名前も知らないで、ただ超空間ジェネレーターのスイッチを押させるために連れてきたんだわ……。
そう思うと癪に障って、ますます腹が煮えくりかえってくる。
こんなときは、思い切り贅沢するに限る。レストランでも探して、普段は食べられないような料理を楽しもうかしら……。それくらいの金は持ち合わせている。
メイン・ゲートを通り過ぎ、シャフトから円環部分へ続くシャトルに乗り込む。シャトルもまた、他の部分と同じように木製であった。つるりと滑らかな楕円型で、ほとんど白に近い色をしていて、目を懲らせないと木目があることが確認できない。
内部に入り込むと、ぐるりと壁に沿うように木のベンチが向かい合う形に取り付けられている。
シャトルにはアルニの他に、数人の乗客が乗り合わせた。皆、例外なく〝種族〟である。太ったの、細いの、背が高いの、低いの。まあ、よくもこれだけバラエティに富んだ人種が乗り合わせたものだと、感心するくらいだ。
アルニが乗り込むと〝種族〟の乗客は意味ありげな視線を投げかけてくる。
なにかしら? アルニの鼻はぴくぴくと動いた。
さっきから気になっている事実。
ここには〝種族〟しかいない。アルニのような原型の人間は一人も見かけなかった。
これは異常な状況である、という感覚はあった。だが、なぜそうなのか、という理由は、さっぱり見当もつかない。
「お嬢さん、この宙森は、初めてですか?」
隣に座ったゴルドン人の若者が話しかけてきた。ひょろりとした身体つきで、色は漂泊したように真っ白である。目の虹彩も白く、髪の毛もプラチナの糸のように白い。
ゴルドン人の故郷の太陽は、ほとんど消えかけたように弱々しい光しか惑星へ投げかけない。そのため、少ない光量を皮膚の奥深くまで浸透させる目的で、ゴルドン人は色素を無くす方向へ進化してきた。普通の太陽の下では酷い火ぶくれを起こすため、ゴルドン人の旅行者は皮膚に特別なフィルムを施しておく。
アルニの隣に座った若者も、皮膚がてらてらと光沢を放っている。
若者の笑顔は優しげで、アルニはあるかないかの警戒心を解いていた。
にっこりと笑い返し、答えた。
「ええ、初めてなんです! あなたは?」
ゴルドン人の若者は唇をすぼめ、ついで飛び切りの笑顔を見せた。
「おお! 失礼、僕はゴルドン人のベータと言います。この宙森に来て、もう五年になりますよ。いいところですよ! あなたも、きっと気に入ります」
ベータと名乗ったゴルドン人の言葉に同意するように、その場にいた〝種族〟の全員が、にっこりと笑顔を見せ、頷く。
そこでアルニは、疑問を投げかけてみた。
「あのう……ここには原型の人たちって、いないんですか? ゲートを通っても、一人も見かけないんですけど」
ベータの口が、にゅっ、と横に広がり、さらに笑顔が大きくなった。
「まさか! ここには沢山、原型の人間がいますよ! あなたも必ずや、ここが気に入って、宙森の一員になりたいと心から願うようになります。まあ、ここの暮らしを楽しんでください……」
ベータの言葉に他の乗客も「そうそう」と言いたそうに首を縦に振る。同意の動きが、あまりにも揃っていて、アルニはなんだか気味が悪く思えてきた。
その場に居合わせた全員の笑顔に、逆にアルニの胸にじわじわと不安が膨らんできた。
トラブルの予感であった。
まず、この宙森という宇宙ステーションの様子を頭に入れるため、ほっつき歩くつもりだ。それに腹ごしらえもしたいし……。
シルバーの宇宙艇《弾頭》にいれば食事も出されたろうが、アルニは腹を立てていた。
シルバーったら、あたしの名前も知らないで、ただ超空間ジェネレーターのスイッチを押させるために連れてきたんだわ……。
そう思うと癪に障って、ますます腹が煮えくりかえってくる。
こんなときは、思い切り贅沢するに限る。レストランでも探して、普段は食べられないような料理を楽しもうかしら……。それくらいの金は持ち合わせている。
メイン・ゲートを通り過ぎ、シャフトから円環部分へ続くシャトルに乗り込む。シャトルもまた、他の部分と同じように木製であった。つるりと滑らかな楕円型で、ほとんど白に近い色をしていて、目を懲らせないと木目があることが確認できない。
内部に入り込むと、ぐるりと壁に沿うように木のベンチが向かい合う形に取り付けられている。
シャトルにはアルニの他に、数人の乗客が乗り合わせた。皆、例外なく〝種族〟である。太ったの、細いの、背が高いの、低いの。まあ、よくもこれだけバラエティに富んだ人種が乗り合わせたものだと、感心するくらいだ。
アルニが乗り込むと〝種族〟の乗客は意味ありげな視線を投げかけてくる。
なにかしら? アルニの鼻はぴくぴくと動いた。
さっきから気になっている事実。
ここには〝種族〟しかいない。アルニのような原型の人間は一人も見かけなかった。
これは異常な状況である、という感覚はあった。だが、なぜそうなのか、という理由は、さっぱり見当もつかない。
「お嬢さん、この宙森は、初めてですか?」
隣に座ったゴルドン人の若者が話しかけてきた。ひょろりとした身体つきで、色は漂泊したように真っ白である。目の虹彩も白く、髪の毛もプラチナの糸のように白い。
ゴルドン人の故郷の太陽は、ほとんど消えかけたように弱々しい光しか惑星へ投げかけない。そのため、少ない光量を皮膚の奥深くまで浸透させる目的で、ゴルドン人は色素を無くす方向へ進化してきた。普通の太陽の下では酷い火ぶくれを起こすため、ゴルドン人の旅行者は皮膚に特別なフィルムを施しておく。
アルニの隣に座った若者も、皮膚がてらてらと光沢を放っている。
若者の笑顔は優しげで、アルニはあるかないかの警戒心を解いていた。
にっこりと笑い返し、答えた。
「ええ、初めてなんです! あなたは?」
ゴルドン人の若者は唇をすぼめ、ついで飛び切りの笑顔を見せた。
「おお! 失礼、僕はゴルドン人のベータと言います。この宙森に来て、もう五年になりますよ。いいところですよ! あなたも、きっと気に入ります」
ベータと名乗ったゴルドン人の言葉に同意するように、その場にいた〝種族〟の全員が、にっこりと笑顔を見せ、頷く。
そこでアルニは、疑問を投げかけてみた。
「あのう……ここには原型の人たちって、いないんですか? ゲートを通っても、一人も見かけないんですけど」
ベータの口が、にゅっ、と横に広がり、さらに笑顔が大きくなった。
「まさか! ここには沢山、原型の人間がいますよ! あなたも必ずや、ここが気に入って、宙森の一員になりたいと心から願うようになります。まあ、ここの暮らしを楽しんでください……」
ベータの言葉に他の乗客も「そうそう」と言いたそうに首を縦に振る。同意の動きが、あまりにも揃っていて、アルニはなんだか気味が悪く思えてきた。
その場に居合わせた全員の笑顔に、逆にアルニの胸にじわじわと不安が膨らんできた。
トラブルの予感であった。
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