宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

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宙森での逃走

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 格納庫甲板から、ゆっくりとゲートへ向かって歩き出し、シルバーは案内図を見上げた。
 宙森の全体図が、簡略化したホログラフィーで浮かび上がっている。
 今いる蕪の根っこのようなハブから円環部へ続く四本のスポーク、その内部にはシャトルが走り、シャトルから降りると円環部分の床に降り立つことになる。
 円環部分には人工重力は働いておらず、遠心力が重力の代わりとなっているため、シャトルは途中くるりと回転することとなる。だが、シャトルの床には人工重力が働いているので、乗客は何も感じることはない。
 円環は、大まかに四つの区画に分かれている。四本のスポークを中心に、市街を構成する商業区、食糧や様々な製品を送り出す生産区、宙森に住む住民のための居住区、それに〝大海〟である。円環部分の面積の内の四分の一が〝大海〟によって占められている。
 目的の《呑竜》は、どの格納庫へ降り立ったのか? 宙森のメモリー・バンクにハッキングすることもできたが、今はそんな面倒臭い手続きは無視する。
 なにしろシルバーはこの宙森を支配する《大校母》と知り合いなのだ。知り合いどころか、同業者でもある。
 つまり《大校母》の正体は宇宙海賊なのだ。この宙森は海賊の基地でもあった。よりにもよって、キャシーは海賊の巣へ飛び込んだことになる。
 だが……。
 正直、シルバーは《大校母》と交渉することに気の重さを感じていた。
 なにしろ《大校母》は、途轍もなく奇妙な主義主張を持っている。しかも、その主張の内容が、またえらく厄介なもので──。
 まあ、いい! ともかく、会いにいこう……。交渉の結果、宙森のデータを開示してもらえれば御の字、もし駄目でも、まだ打つ手は残っている。
 シルバーはアルニが潜ったゲートに近づいた。ゲートの向こうはシャトルの乗り場になっている。
 辺りを見渡したが、原型の少女、アルニの姿は見当たらなかった。すでにシャトルに乗って円環部分へと向かったのだろう。アルニが向かったのは多分、商業区に違いない。
 シルバーはシャトル乗り場をさっさと通り過ぎ、秘密の通路入口へと向かう。ここはシルバーのような、宇宙海賊仲間しか知らない入口であった。
 周囲を見回し、他人目がないことを確認して、シルバーは入口を通過した。
 こちらは、がらんとして人気が存在しない。
 通路の途中に検問所があり、警備員が立っていた。
 がっちりとした身体つきのバルト人である。身長は百五十センチにも足らず、シルバーの腹の付近にようやく頭が来るほど小柄だ。
 しかし、バルト人の故郷の重力加速度は一・五Gと強く、強い重力に対抗するために強い筋肉と、頑丈な骨格を持っている。眼前のバルト人なら、相手がたとえシルバーであっても、良い勝負をするのではないか。
 バルト人は近づいていくシルバーを、じろりと睨んだ。むっつりとした顔つきで見上げると、片手を挙げて停止を命じる。
「待て! ここから先は、許可の無いものは通行禁止だ! 引き返してもらおう」
 シルバーは目に力を込め、バルト人を睨み返した。
「おれを知らないのか? このシルバーさまを?」
 バルト人の口が、ぽかんと呆けたように開く。
「シ、シルバー……? あっ!」
 シルバーは顎を引いた。
「判ったようだな。おれは《大校母》に会う必要がある。ここを通してもらうぞ」
 さっとバルト人はシルバーに向け、敬礼した。
「失礼致しました! どうかお通り下さい!」
「うむ」と鷹揚に頷き、シルバーはバルト人の横を通り過ぎた。
 この時、シルバーはバルト人に対し、強いメッセージを送信している。海賊同士でなければ受信も送信もできない、特殊な暗号化されたメッセージ。それがバルト人の脳に直結した装置に受信され、シルバーの身分を明らかにしたのだ。
 バルト人の視界には、シルバーの頭上に「海賊同盟」のぶっちがいの大腿骨に髑髏の紋章エンブレムが輝いて見えたはずであった。しかも、その下に海賊の船長であることを示す符号が息づき、バルト人を恐れ入らせたのであった。
 通路の先に、一人乗りのシャトルが、シルバーを待っていた。乗り込むにはちょっと狭いが、我慢して座席に座り込む。座席の前には、たった一つ、ボタンがある。
 ぐい、と押すとシャトルは滑るように動き出した。
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