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宙森での逃走
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アルニは必死になって駈けていた。追跡者を振り切るため、後ろを何度も振り返り、人ごみを掻き分け、路地を抜け、階段を駆け下り、駆け上がった。
ベータと名乗ったゴルドン人の若者は、シャトルから降りると、なぜかしつこく「どこへ行くのか? 何か当てはあるのか? よかったら自分が町を案内しよう」と何度も誘った。
だが、その熱意があまりに押し付けがましく、またベータの目付きがアルニにとって、怖くなりそうなほど真剣だったので、断ったのである。
シャトルの乗降口から降りると、そこは商業区の真ん中で、スポークを中心に様々な店が並んでいる。宙森の人口はどのくらいか知らないが、アルニはここに大部分の人口が集まっているのではないか、と思われた。
ゴルドン人のベータの案内の申し出を断り、アルニは目の前のショッピング・モールを歩き出した。
最初は目に入るもの総てが珍しく、また客寄せのホログラフィ・コマーシャルも目を引いて、しばらくの間は、あれこれと店先で品定めをしているだけだった。そこに何の怪しむ点も無かったのである。
しかし、モールを歩いていると、やはりここにも原型の人間が一人も見当たらないのに気付いた。
アルニはシルバーの《鉄槌》に乗り込む前は、ある程度まで様々な星系を巡り歩き、それなりの見聞を広めてきた。
その経験から考えても、今まで原型が一人も見当たらない、という状況は無かった。どんな辺境の星にも、原型の人間は必ず見受けられる。
町を歩く〝種族〟の人々がアルニに向ける視線も気になった。
どういうのだろう……。じっとアルニの一挙手一投足を見守る〝種族〟の視線は、粘っこく、さりげなくだが視界から外れるまで、しつこく追いかけてくる。まるで品定めしているような感覚であった。商店の店主の視線も、そうであった。
徐々に、アルニは恐怖を感じつつあった。
やがて──
視界の外れに白いものを捕捉したとき、アルニは総毛立った。
ベータであった! ゴルドン人のベータが、路地の片隅で、じっと物陰に隠れ、アルニを見つめていたのである。
ベータの周りには、同じ頃の年頃と思える数人の〝種族〟の男女が、ベータと同じように、アルニを見つめていた。
慌ててアルニは視線を外し、その時たまたま目の前にあった店先の商品を覗き込む振りをして、窓ガラスに映る彼らを注視した。
ふらり──と、ベータがアルニのいるところへ歩き出す。周りの男女も、さっと散開して、アルニの背後を取り囲むような動きをとるのが判った。
その瞬間、アルニは走り出していた。
ばたばたっ、と背後で慌てたような足音が交錯する。
振り返ると背後を取り囲むようにしていた〝種族〟の男女とベータが、アルニの反応に瞬時に反応し、急いで大股で追いかけ始めたのである。
アルニは、全速力で走り出す。
ショッピング・モールは複雑な構造になっている。幾重にも階層が重なり、その間を階段、エスカレーター、空中通路が繋いでいた。そこを無数の〝種族〟の人々が、思い思いの方向へ歩き去り、あるいは立ち止まり、アルニの行く手を塞いだ。
逃走を続けるアルニは、ぞっとなっていた。
まるで宙森総ての住人がここに──アルニのいるここに集まってきているのではないか。偶然を装い、目的はまるで別のことなのに、実はアルニの逃走を邪魔するために、彼らだけに感じる何かの合図に突き動かされ、この場所に集合しつつある──。
馬鹿な想像だと思ってはいたが、その妄想は、しつこくアルニの脳裏に浮かんでは消えた。
「どいて! どいてよお……!」
半べそになりながら、アルニは夢中になって眼前に立ちふさがる〝種族〟の人々を掻き分け、すり抜けて走っていく。
わざとではないのであろうが──いや、やはり、わざとであろうか──人々は、まるでアルニの行く手を塞ぐために現れたかに思えた。
やっと人ごみから離れ、アルニは狭い路地に入り込んでいた。
商店の裏側にあたる路地である。上を見上げると、両側から無愛想な壁面が聳え、壁面にところどころ空いた窓が、アルニを見下ろしている。
ばたばた……と、足音が迫る。
はっ、とアルニは前方を見た。
行き止まりだ! 逃げられない!
アルニは壁に背をぴったりと押し付け、じりじりと移動した。
がたん! 唐突に背中の壁がへこみ、アルニを呑みこんだ。
「きゃあっ!」というアルニの絶叫は、たちまち背後から回る手の平に塞がれた。
耳もとで囁き声がする。
「静かに! 奴らに聞かれるとまずい。逃げたくはないのか?」
ベータと名乗ったゴルドン人の若者は、シャトルから降りると、なぜかしつこく「どこへ行くのか? 何か当てはあるのか? よかったら自分が町を案内しよう」と何度も誘った。
だが、その熱意があまりに押し付けがましく、またベータの目付きがアルニにとって、怖くなりそうなほど真剣だったので、断ったのである。
シャトルの乗降口から降りると、そこは商業区の真ん中で、スポークを中心に様々な店が並んでいる。宙森の人口はどのくらいか知らないが、アルニはここに大部分の人口が集まっているのではないか、と思われた。
ゴルドン人のベータの案内の申し出を断り、アルニは目の前のショッピング・モールを歩き出した。
最初は目に入るもの総てが珍しく、また客寄せのホログラフィ・コマーシャルも目を引いて、しばらくの間は、あれこれと店先で品定めをしているだけだった。そこに何の怪しむ点も無かったのである。
しかし、モールを歩いていると、やはりここにも原型の人間が一人も見当たらないのに気付いた。
アルニはシルバーの《鉄槌》に乗り込む前は、ある程度まで様々な星系を巡り歩き、それなりの見聞を広めてきた。
その経験から考えても、今まで原型が一人も見当たらない、という状況は無かった。どんな辺境の星にも、原型の人間は必ず見受けられる。
町を歩く〝種族〟の人々がアルニに向ける視線も気になった。
どういうのだろう……。じっとアルニの一挙手一投足を見守る〝種族〟の視線は、粘っこく、さりげなくだが視界から外れるまで、しつこく追いかけてくる。まるで品定めしているような感覚であった。商店の店主の視線も、そうであった。
徐々に、アルニは恐怖を感じつつあった。
やがて──
視界の外れに白いものを捕捉したとき、アルニは総毛立った。
ベータであった! ゴルドン人のベータが、路地の片隅で、じっと物陰に隠れ、アルニを見つめていたのである。
ベータの周りには、同じ頃の年頃と思える数人の〝種族〟の男女が、ベータと同じように、アルニを見つめていた。
慌ててアルニは視線を外し、その時たまたま目の前にあった店先の商品を覗き込む振りをして、窓ガラスに映る彼らを注視した。
ふらり──と、ベータがアルニのいるところへ歩き出す。周りの男女も、さっと散開して、アルニの背後を取り囲むような動きをとるのが判った。
その瞬間、アルニは走り出していた。
ばたばたっ、と背後で慌てたような足音が交錯する。
振り返ると背後を取り囲むようにしていた〝種族〟の男女とベータが、アルニの反応に瞬時に反応し、急いで大股で追いかけ始めたのである。
アルニは、全速力で走り出す。
ショッピング・モールは複雑な構造になっている。幾重にも階層が重なり、その間を階段、エスカレーター、空中通路が繋いでいた。そこを無数の〝種族〟の人々が、思い思いの方向へ歩き去り、あるいは立ち止まり、アルニの行く手を塞いだ。
逃走を続けるアルニは、ぞっとなっていた。
まるで宙森総ての住人がここに──アルニのいるここに集まってきているのではないか。偶然を装い、目的はまるで別のことなのに、実はアルニの逃走を邪魔するために、彼らだけに感じる何かの合図に突き動かされ、この場所に集合しつつある──。
馬鹿な想像だと思ってはいたが、その妄想は、しつこくアルニの脳裏に浮かんでは消えた。
「どいて! どいてよお……!」
半べそになりながら、アルニは夢中になって眼前に立ちふさがる〝種族〟の人々を掻き分け、すり抜けて走っていく。
わざとではないのであろうが──いや、やはり、わざとであろうか──人々は、まるでアルニの行く手を塞ぐために現れたかに思えた。
やっと人ごみから離れ、アルニは狭い路地に入り込んでいた。
商店の裏側にあたる路地である。上を見上げると、両側から無愛想な壁面が聳え、壁面にところどころ空いた窓が、アルニを見下ろしている。
ばたばた……と、足音が迫る。
はっ、とアルニは前方を見た。
行き止まりだ! 逃げられない!
アルニは壁に背をぴったりと押し付け、じりじりと移動した。
がたん! 唐突に背中の壁がへこみ、アルニを呑みこんだ。
「きゃあっ!」というアルニの絶叫は、たちまち背後から回る手の平に塞がれた。
耳もとで囁き声がする。
「静かに! 奴らに聞かれるとまずい。逃げたくはないのか?」
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