宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

文字の大きさ
68 / 107
指導者サーク

しおりを挟む
「ここから先は、足下が悪い。気をつけ……」
 男が言いかけた傍から、アルニは爪先を何かに引っ掛け、ずってんどうと派手な転び方をする。
「痛あい……!」と情けない声を上げ、腰を打ったのか、しきりに尻のあたりを気にしている。
「そんな靴を履いているからだ」
 ちら、と男はアルニの靴を見て、そっぽを向いた。転んだ拍子にアルニのスカートが捲れ上がり、太股の付け根まで露わになっている。
 アルニの履いている靴は、分厚い靴底の、まったく実用的とは言い難い、ロング・ブーツである。男の批判に、アルニは唇を尖らせ噛みついた。
「いったい、いつまで歩かせるつもり? この地下通路、どこまで続いているのよ?」
「もうすぐ着く」
 男は手に持ったライトを振って答える。ライトの光芒が、通路の先を照らしている。
 通路は途中から質感を変えていた。最初、潜り込んだところは、まだコンクリートの、平板な壁と床でできていたが、そのうちうねうねと曲がりくねった、自然の洞窟のような感じに変わっている。
 しかし自然の洞窟とはいえ、岩ではなく、木の幹の内側に開いたうろのような材質になっている。
 不意に男は、ライトのスイッチを切った。
 たちまち押し寄せる暗闇に、アルニの心臓は冷たい恐怖に鷲づかみにされる。「やめて!」と言いかけたが、通路の先がほんのり明るくなっているのに気付いた。男は、さっさと先へ歩いていった。
 ちょこちょことした小走りで、アルニは男の後へ続いていった。
 ぬ! と、男の行く手に一人の大男が姿を現す。通路の天井が大男には低すぎるのか、背を屈め、ぎろりと目を光らせる。
 男と目が合い、大男は頷いて見せた。
「そいつか! 監視システムに引っ掛かった娘というのは?」
 大男の問いかけに、アルニを案内してきた男は頷き、答える。
「ああ、危なく町の〝キャッチャー〟に捕まるところだった。六番街の、隠し通路で彼女を──」
 男は、改めてアルニの名前を聞いていなかったことに気付いた様子だった。問いかけるような目付きで、じろじろ見る。
 アルニは気分を害していた。どいつもこいつも、なーんであたしの名前を聞くという基本的な礼儀を、わきまえていないんだろう!
「アルニよ!」と答えると、男は淡々と続ける。
「そういう名前だそうだ。ともかく、危ないところで、おれがこのアルニを引っ張ってくることができた」
「そうか」と大男も平板な声で応える。アルニの演じた冒険も、この二人にとって、何ほどの意味も意義もない日常の一コマであるらしい。
 アルニは軽く足踏みをして、苛々を表現する。
「それで? あんたらは、なんて名前? あたしをこれから、どうするつもり?」
 畳み込むように尋ねると、大男のほうは「ぐずっ」と聞こえる笑い声を上げる。
「どうもこうもねえ……。おれはバングだ。こっちは仲間のルーサン。まあ、おれたちの名前なんぞは、どうでもいい。それよりあんた──アルニさんか……。どうやら、あんたは新規の原型らしいから、われわれの組織に登録して貰おう。おれたちはこの宙森で、すべての原型を宙森の〝種族〟から守る義務を負っている。つまり、おれたちの保護を得る代わりに、あんたが何をおれたちにしてくれるのか、考えないとな」
 大男のバングの見透かすような視線に、アルニは戸惑った。あたしが何をできるか、ですって?
 唐突にある想像が湧いて、アルニの頬に血が昇るのを感じる。
 まさか、そんな……?
 いきなり案内したほうの、ルーサンと呼ばれた男が、アルニの背中を「どん」と強く叩く。
「馬鹿! 何、変なこと考えているんだ! おれたちは、そんな連中じゃないぞ!」
「な、な、な、何よ、そんなことって?」
 アルニは、つい口走ってしまう。妙な空気が流れる。
「おほん!」とバングは、わざとらしく咳払いをすると、手招きする。
「ともかく、登録手続きといこうや!」
 通路を曲がると、そこは広々とした部屋になっていた。
 優に五~六階分の深さに掘りぬかれ、吹き抜け状の通路が取り巻いている。部屋は集会場になっている様子で、何人もの原型の人々が思い思いに座ったり、佇んでいたりして、和んだ雰囲気が漂っている。
 アルニは二人に案内され、壁に沿った回り階段を降りていく。アルニが降りていくと、その場にいた全員が見上げた。
 老若男女、様々な年齢の人々が集っているが、共通しているのは隠しきれない疲労感と、押し殺した恐怖である。身なりは、どれもこれも襤褸寸前の着衣だ。一応、洗濯はしているようだが、元の色が判らなくなるほど草臥れ、あちこち継ぎが当たっている。
 アルニの表情を読んだのか、ルーサンが話しかけた。
「この地下に、おれたち原型が隠れ住むようになって、既に十年になる……。もともと、宙森には数千人の原型がいたのだが、現在では、ここにいる百人たらずが、宙森の《大校母》も魔手から逃れてきた総てだ」
 アルニの声は、つい囁き声になる。
「その……脳を摘出って、どういうこと? なんで、原型の脳を抉り出す必要があるの? 本当に、そんな酷いことを、ここの〝種族〟の人がしたの?」
 ちら、とルーサンとバングが視線を合わせた。バングが重々しく答える。
「それについちゃ、おれたちの首領であるサークから直に聞いたほうが早い。今からサークに会わせるから、従いてきな!」
 バングは妙な目つきになり、意味ありげに囁く。ほんの少し、悪戯っぽい表情が浮かんでいるような……。
「サークに会っても、驚くなよ……と言っても無理だろうがな」
 ルーサンも頷いた。
「まあな、無理なことは判ってるがな……」
「な、何よ……!」
 二人の視線に、アルニは何だか厭な予感を覚えた。何がどうあっても、驚くまいとアルニは固く決意をする。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...