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指導者サーク
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「ここから先は、足下が悪い。気をつけ……」
男が言いかけた傍から、アルニは爪先を何かに引っ掛け、ずってんどうと派手な転び方をする。
「痛あい……!」と情けない声を上げ、腰を打ったのか、しきりに尻のあたりを気にしている。
「そんな靴を履いているからだ」
ちら、と男はアルニの靴を見て、そっぽを向いた。転んだ拍子にアルニのスカートが捲れ上がり、太股の付け根まで露わになっている。
アルニの履いている靴は、分厚い靴底の、まったく実用的とは言い難い、ロング・ブーツである。男の批判に、アルニは唇を尖らせ噛みついた。
「いったい、いつまで歩かせるつもり? この地下通路、どこまで続いているのよ?」
「もうすぐ着く」
男は手に持ったライトを振って答える。ライトの光芒が、通路の先を照らしている。
通路は途中から質感を変えていた。最初、潜り込んだところは、まだコンクリートの、平板な壁と床でできていたが、そのうちうねうねと曲がりくねった、自然の洞窟のような感じに変わっている。
しかし自然の洞窟とはいえ、岩ではなく、木の幹の内側に開いた洞のような材質になっている。
不意に男は、ライトのスイッチを切った。
たちまち押し寄せる暗闇に、アルニの心臓は冷たい恐怖に鷲づかみにされる。「やめて!」と言いかけたが、通路の先がほんのり明るくなっているのに気付いた。男は、さっさと先へ歩いていった。
ちょこちょことした小走りで、アルニは男の後へ続いていった。
ぬ! と、男の行く手に一人の大男が姿を現す。通路の天井が大男には低すぎるのか、背を屈め、ぎろりと目を光らせる。
男と目が合い、大男は頷いて見せた。
「そいつか! 監視システムに引っ掛かった娘というのは?」
大男の問いかけに、アルニを案内してきた男は頷き、答える。
「ああ、危なく町の〝キャッチャー〟に捕まるところだった。六番街の、隠し通路で彼女を──」
男は、改めてアルニの名前を聞いていなかったことに気付いた様子だった。問いかけるような目付きで、じろじろ見る。
アルニは気分を害していた。どいつもこいつも、なーんであたしの名前を聞くという基本的な礼儀を、わきまえていないんだろう!
「アルニよ!」と答えると、男は淡々と続ける。
「そういう名前だそうだ。ともかく、危ないところで、おれがこのアルニを引っ張ってくることができた」
「そうか」と大男も平板な声で応える。アルニの演じた冒険も、この二人にとって、何ほどの意味も意義もない日常の一コマであるらしい。
アルニは軽く足踏みをして、苛々を表現する。
「それで? あんたらは、なんて名前? あたしをこれから、どうするつもり?」
畳み込むように尋ねると、大男のほうは「ぐずっ」と聞こえる笑い声を上げる。
「どうもこうもねえ……。おれはバングだ。こっちは仲間のルーサン。まあ、おれたちの名前なんぞは、どうでもいい。それよりあんた──アルニさんか……。どうやら、あんたは新規の原型らしいから、われわれの組織に登録して貰おう。おれたちはこの宙森で、すべての原型を宙森の〝種族〟から守る義務を負っている。つまり、おれたちの保護を得る代わりに、あんたが何をおれたちにしてくれるのか、考えないとな」
大男のバングの見透かすような視線に、アルニは戸惑った。あたしが何をできるか、ですって?
唐突にある想像が湧いて、アルニの頬に血が昇るのを感じる。
まさか、そんな……?
いきなり案内したほうの、ルーサンと呼ばれた男が、アルニの背中を「どん」と強く叩く。
「馬鹿! 何、変なこと考えているんだ! おれたちは、そんな連中じゃないぞ!」
「な、な、な、何よ、そんなことって?」
アルニは、つい口走ってしまう。妙な空気が流れる。
「おほん!」とバングは、わざとらしく咳払いをすると、手招きする。
「ともかく、登録手続きといこうや!」
通路を曲がると、そこは広々とした部屋になっていた。
優に五~六階分の深さに掘りぬかれ、吹き抜け状の通路が取り巻いている。部屋は集会場になっている様子で、何人もの原型の人々が思い思いに座ったり、佇んでいたりして、和んだ雰囲気が漂っている。
アルニは二人に案内され、壁に沿った回り階段を降りていく。アルニが降りていくと、その場にいた全員が見上げた。
老若男女、様々な年齢の人々が集っているが、共通しているのは隠しきれない疲労感と、押し殺した恐怖である。身なりは、どれもこれも襤褸寸前の着衣だ。一応、洗濯はしているようだが、元の色が判らなくなるほど草臥れ、あちこち継ぎが当たっている。
アルニの表情を読んだのか、ルーサンが話しかけた。
「この地下に、おれたち原型が隠れ住むようになって、既に十年になる……。もともと、宙森には数千人の原型がいたのだが、現在では、ここにいる百人たらずが、宙森の《大校母》も魔手から逃れてきた総てだ」
アルニの声は、つい囁き声になる。
「その……脳を摘出って、どういうこと? なんで、原型の脳を抉り出す必要があるの? 本当に、そんな酷いことを、ここの〝種族〟の人がしたの?」
ちら、とルーサンとバングが視線を合わせた。バングが重々しく答える。
「それについちゃ、おれたちの首領であるサークから直に聞いたほうが早い。今からサークに会わせるから、従いてきな!」
バングは妙な目つきになり、意味ありげに囁く。ほんの少し、悪戯っぽい表情が浮かんでいるような……。
「サークに会っても、驚くなよ……と言っても無理だろうがな」
ルーサンも頷いた。
「まあな、無理なことは判ってるがな……」
「な、何よ……!」
二人の視線に、アルニは何だか厭な予感を覚えた。何がどうあっても、驚くまいとアルニは固く決意をする。
男が言いかけた傍から、アルニは爪先を何かに引っ掛け、ずってんどうと派手な転び方をする。
「痛あい……!」と情けない声を上げ、腰を打ったのか、しきりに尻のあたりを気にしている。
「そんな靴を履いているからだ」
ちら、と男はアルニの靴を見て、そっぽを向いた。転んだ拍子にアルニのスカートが捲れ上がり、太股の付け根まで露わになっている。
アルニの履いている靴は、分厚い靴底の、まったく実用的とは言い難い、ロング・ブーツである。男の批判に、アルニは唇を尖らせ噛みついた。
「いったい、いつまで歩かせるつもり? この地下通路、どこまで続いているのよ?」
「もうすぐ着く」
男は手に持ったライトを振って答える。ライトの光芒が、通路の先を照らしている。
通路は途中から質感を変えていた。最初、潜り込んだところは、まだコンクリートの、平板な壁と床でできていたが、そのうちうねうねと曲がりくねった、自然の洞窟のような感じに変わっている。
しかし自然の洞窟とはいえ、岩ではなく、木の幹の内側に開いた洞のような材質になっている。
不意に男は、ライトのスイッチを切った。
たちまち押し寄せる暗闇に、アルニの心臓は冷たい恐怖に鷲づかみにされる。「やめて!」と言いかけたが、通路の先がほんのり明るくなっているのに気付いた。男は、さっさと先へ歩いていった。
ちょこちょことした小走りで、アルニは男の後へ続いていった。
ぬ! と、男の行く手に一人の大男が姿を現す。通路の天井が大男には低すぎるのか、背を屈め、ぎろりと目を光らせる。
男と目が合い、大男は頷いて見せた。
「そいつか! 監視システムに引っ掛かった娘というのは?」
大男の問いかけに、アルニを案内してきた男は頷き、答える。
「ああ、危なく町の〝キャッチャー〟に捕まるところだった。六番街の、隠し通路で彼女を──」
男は、改めてアルニの名前を聞いていなかったことに気付いた様子だった。問いかけるような目付きで、じろじろ見る。
アルニは気分を害していた。どいつもこいつも、なーんであたしの名前を聞くという基本的な礼儀を、わきまえていないんだろう!
「アルニよ!」と答えると、男は淡々と続ける。
「そういう名前だそうだ。ともかく、危ないところで、おれがこのアルニを引っ張ってくることができた」
「そうか」と大男も平板な声で応える。アルニの演じた冒険も、この二人にとって、何ほどの意味も意義もない日常の一コマであるらしい。
アルニは軽く足踏みをして、苛々を表現する。
「それで? あんたらは、なんて名前? あたしをこれから、どうするつもり?」
畳み込むように尋ねると、大男のほうは「ぐずっ」と聞こえる笑い声を上げる。
「どうもこうもねえ……。おれはバングだ。こっちは仲間のルーサン。まあ、おれたちの名前なんぞは、どうでもいい。それよりあんた──アルニさんか……。どうやら、あんたは新規の原型らしいから、われわれの組織に登録して貰おう。おれたちはこの宙森で、すべての原型を宙森の〝種族〟から守る義務を負っている。つまり、おれたちの保護を得る代わりに、あんたが何をおれたちにしてくれるのか、考えないとな」
大男のバングの見透かすような視線に、アルニは戸惑った。あたしが何をできるか、ですって?
唐突にある想像が湧いて、アルニの頬に血が昇るのを感じる。
まさか、そんな……?
いきなり案内したほうの、ルーサンと呼ばれた男が、アルニの背中を「どん」と強く叩く。
「馬鹿! 何、変なこと考えているんだ! おれたちは、そんな連中じゃないぞ!」
「な、な、な、何よ、そんなことって?」
アルニは、つい口走ってしまう。妙な空気が流れる。
「おほん!」とバングは、わざとらしく咳払いをすると、手招きする。
「ともかく、登録手続きといこうや!」
通路を曲がると、そこは広々とした部屋になっていた。
優に五~六階分の深さに掘りぬかれ、吹き抜け状の通路が取り巻いている。部屋は集会場になっている様子で、何人もの原型の人々が思い思いに座ったり、佇んでいたりして、和んだ雰囲気が漂っている。
アルニは二人に案内され、壁に沿った回り階段を降りていく。アルニが降りていくと、その場にいた全員が見上げた。
老若男女、様々な年齢の人々が集っているが、共通しているのは隠しきれない疲労感と、押し殺した恐怖である。身なりは、どれもこれも襤褸寸前の着衣だ。一応、洗濯はしているようだが、元の色が判らなくなるほど草臥れ、あちこち継ぎが当たっている。
アルニの表情を読んだのか、ルーサンが話しかけた。
「この地下に、おれたち原型が隠れ住むようになって、既に十年になる……。もともと、宙森には数千人の原型がいたのだが、現在では、ここにいる百人たらずが、宙森の《大校母》も魔手から逃れてきた総てだ」
アルニの声は、つい囁き声になる。
「その……脳を摘出って、どういうこと? なんで、原型の脳を抉り出す必要があるの? 本当に、そんな酷いことを、ここの〝種族〟の人がしたの?」
ちら、とルーサンとバングが視線を合わせた。バングが重々しく答える。
「それについちゃ、おれたちの首領であるサークから直に聞いたほうが早い。今からサークに会わせるから、従いてきな!」
バングは妙な目つきになり、意味ありげに囁く。ほんの少し、悪戯っぽい表情が浮かんでいるような……。
「サークに会っても、驚くなよ……と言っても無理だろうがな」
ルーサンも頷いた。
「まあな、無理なことは判ってるがな……」
「な、何よ……!」
二人の視線に、アルニは何だか厭な予感を覚えた。何がどうあっても、驚くまいとアルニは固く決意をする。
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