69 / 107
指導者サーク
2
しおりを挟む
「きゃああああっ!」
首領のサークに面会したアルニは、思い切り悲鳴を上げていた。顎関節が外れんばかりに大口を開け、全身を硬直させて、力一杯の悲鳴を上げてしまう。
長々と悲鳴を上げたアルニは、くた! と膝から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。
やっぱり、驚いた!
これが驚かないでいられようか! いや、絶対に無理!
サークを前に、アルニは、ぽかんと馬鹿のように口を開けていた。頭の中が真っ白になり、気絶寸前といってよかった。
その先に、サークがいた。宙森の原型の人々の指導者にして首領である、サークその人である。
「驚かせてしまったようだね」
サークは静かな声音でアルニに話しかける。声は部屋の中の小さなスピーカーから流れてくる。ごぼごぼという泡の音が、サークの身体を保護するタンクから聞こえていた。
サークの身体は透明なタンクに保護液に浸され、漂っていた。サークの全身に、生命を維持するためのチューブが差し込まれ、一刻も休むことのない監視装置が、生命を永らえさせている。
脳、脊髄、更には剥き出しの眼球、それがサークの総てである。本来の骨格、内臓、筋肉、皮膚などは、そこには存在しない。
脳から伸びた脊髄神経と、目に見えないほど細かな末梢神経が、保護液の中にぷかぷかと浮いている。脳には何本もの導線が繋がれ、サークの意思を伝えるため、部屋にはスピーカーが備わっている。
生きている脳のみ。それがサークの正体なのだった。
「あ、あ、あ、あんた……生きているのっ? そんな状態で!」
アルニは、やっと声を上げることができた。
サークの身体を保護するタンクには、小さなディスプレイが付属している。そのディスプレイに、一人の男が映し出されている。
年齢は五十前か、四十半ばで、半白の剛い髪の毛と、日焼けした逞しい印象の男であった。そのディスプレイ内の男が頷く。男の口が動き、スピーカーから声が流れてきた。
「その通り、君の目の前のタンクで浮かんでいるのが、わたしの総てだ。このディスプレイに、脳に直結した仮想現実を作り出し、こうして見せ掛けの身体を映し出しているが、本来のわたしは、このタンクに生かされているだけなのだよ。このわたしは宙森の《大校母》の指図により、脳とそれに繋がる神経組織を摘出され、本来の自分の身体は廃棄されてしまった。あわや《大校母》の進める〝楽園計画〟の一部品になるところを、仲間に救われ、こうして生きながらえている」
驚きの後には怒りが湧いてくる。
アルニの両目から、つ──と一筋の涙がこぼれ出た。
「どうして、こんな、酷いことをするの?」
「超空間ジェネレーターのためだ! ジェネレーターを起動させるためには原型が必要だが《大校母》は原型の人々が勝手気儘に過ごすことを許さず、脳だけを摘出して、宇宙船の一部品としてしか存続を認めない。怖ろしいことに、摘出された脳の前頭葉部分をロボトミー切除して、個人の意思というものさえ奪っているという話だ。完全に、我々原型を人間として認めないつもりらしい」
アルニの脳裏に、サークのようにぷかぷかとタンクに浮かび、宇宙船の超空間ジェネレーターに繋がれる原型の脳の姿が浮かんできた。
自分も、そうなる運命だったのだ!
「でも、宙森の〝種族〟は、どうしてそんな酷いことに協力するの? あたしを捕まえようとした連中は、別々の〝種族〟だったけど」
背後に立ってアルニとサークの遣り取りを見守っていたルーサンが答える。
「皆、《大校母》に操られているんだ。ボーラン人は全員そうだが、この宙森の《大校母》はボーラン人だけでなく、他の〝種族〟の人間すら、自分の思い通りに動かせる能力を持つ」
「どうして──」
その時、それまで席を外していたバングが息せき切って、その場に走りこんできた。両目が大きく見開かれ、表情には驚きが浮かんでいる。
「大変だ! 町の様子が妙なことになっている! 《大校母》の身に、なにか異変があったらしい!」
「何っ!」と、ルーサンが応じ、バングの後を追って、その場から離れる。アルニはどうしていいか分からず、立ち竦んだ。
「二人の後に従いて行きなさい。わたしも、何があったのか知りたい」
サークがスピーカーで話しかける。意味が判らず、アルニは首を傾げる。ディスプレイの中のサークは、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫、わたしはここにいても、バングの報告は受け取れる。理由は、すぐ判るよ」
首領のサークに面会したアルニは、思い切り悲鳴を上げていた。顎関節が外れんばかりに大口を開け、全身を硬直させて、力一杯の悲鳴を上げてしまう。
長々と悲鳴を上げたアルニは、くた! と膝から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。
やっぱり、驚いた!
これが驚かないでいられようか! いや、絶対に無理!
サークを前に、アルニは、ぽかんと馬鹿のように口を開けていた。頭の中が真っ白になり、気絶寸前といってよかった。
その先に、サークがいた。宙森の原型の人々の指導者にして首領である、サークその人である。
「驚かせてしまったようだね」
サークは静かな声音でアルニに話しかける。声は部屋の中の小さなスピーカーから流れてくる。ごぼごぼという泡の音が、サークの身体を保護するタンクから聞こえていた。
サークの身体は透明なタンクに保護液に浸され、漂っていた。サークの全身に、生命を維持するためのチューブが差し込まれ、一刻も休むことのない監視装置が、生命を永らえさせている。
脳、脊髄、更には剥き出しの眼球、それがサークの総てである。本来の骨格、内臓、筋肉、皮膚などは、そこには存在しない。
脳から伸びた脊髄神経と、目に見えないほど細かな末梢神経が、保護液の中にぷかぷかと浮いている。脳には何本もの導線が繋がれ、サークの意思を伝えるため、部屋にはスピーカーが備わっている。
生きている脳のみ。それがサークの正体なのだった。
「あ、あ、あ、あんた……生きているのっ? そんな状態で!」
アルニは、やっと声を上げることができた。
サークの身体を保護するタンクには、小さなディスプレイが付属している。そのディスプレイに、一人の男が映し出されている。
年齢は五十前か、四十半ばで、半白の剛い髪の毛と、日焼けした逞しい印象の男であった。そのディスプレイ内の男が頷く。男の口が動き、スピーカーから声が流れてきた。
「その通り、君の目の前のタンクで浮かんでいるのが、わたしの総てだ。このディスプレイに、脳に直結した仮想現実を作り出し、こうして見せ掛けの身体を映し出しているが、本来のわたしは、このタンクに生かされているだけなのだよ。このわたしは宙森の《大校母》の指図により、脳とそれに繋がる神経組織を摘出され、本来の自分の身体は廃棄されてしまった。あわや《大校母》の進める〝楽園計画〟の一部品になるところを、仲間に救われ、こうして生きながらえている」
驚きの後には怒りが湧いてくる。
アルニの両目から、つ──と一筋の涙がこぼれ出た。
「どうして、こんな、酷いことをするの?」
「超空間ジェネレーターのためだ! ジェネレーターを起動させるためには原型が必要だが《大校母》は原型の人々が勝手気儘に過ごすことを許さず、脳だけを摘出して、宇宙船の一部品としてしか存続を認めない。怖ろしいことに、摘出された脳の前頭葉部分をロボトミー切除して、個人の意思というものさえ奪っているという話だ。完全に、我々原型を人間として認めないつもりらしい」
アルニの脳裏に、サークのようにぷかぷかとタンクに浮かび、宇宙船の超空間ジェネレーターに繋がれる原型の脳の姿が浮かんできた。
自分も、そうなる運命だったのだ!
「でも、宙森の〝種族〟は、どうしてそんな酷いことに協力するの? あたしを捕まえようとした連中は、別々の〝種族〟だったけど」
背後に立ってアルニとサークの遣り取りを見守っていたルーサンが答える。
「皆、《大校母》に操られているんだ。ボーラン人は全員そうだが、この宙森の《大校母》はボーラン人だけでなく、他の〝種族〟の人間すら、自分の思い通りに動かせる能力を持つ」
「どうして──」
その時、それまで席を外していたバングが息せき切って、その場に走りこんできた。両目が大きく見開かれ、表情には驚きが浮かんでいる。
「大変だ! 町の様子が妙なことになっている! 《大校母》の身に、なにか異変があったらしい!」
「何っ!」と、ルーサンが応じ、バングの後を追って、その場から離れる。アルニはどうしていいか分からず、立ち竦んだ。
「二人の後に従いて行きなさい。わたしも、何があったのか知りたい」
サークがスピーカーで話しかける。意味が判らず、アルニは首を傾げる。ディスプレイの中のサークは、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫、わたしはここにいても、バングの報告は受け取れる。理由は、すぐ判るよ」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる