宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

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凍った時間

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「そこにいるのは、キャシーか……」
 皺枯れた、老人の優しい声音が聞こえてくる。老人はキャシーを見つめ、少し驚いた様子を見せた。
「確かにキャシーだが、大きくなったなあ……。わしの覚えているキャシーは、こんなだったのにな……」
 と老人は手を挙げ、自分の胸辺りを指し示す。にこにこと微笑を浮かべ、キャシーを見つめていた。
 キャシーは、ゆっくりと頭を振った。
「本当にお祖父ちゃんなの? お祖父ちゃんは死んだのに……」
「ふむ」と老人は呟いた。
「そうか、わしは死んだのか……。いや、済まんかった。説明するのが遅かった。わしは確かにフリント教授だが、その記憶を転写した控えに過ぎん。わしの今の姿は、ガラスの管理人の身体を使った投影といっていい。とすると、わしがここで記憶を保存した後、わしの本体は死んでしまったわけじゃな。いったい、あれから何年が経ったのか……」
 老人はちょっと顔を上げ、考え込むような表情になる。老人の目の前の空間に、ホログラフィーで文字が浮かび上がった。
 ──一〇二・〇二・一三……
 数字は年数を表示しているらしく、老人の表情に驚きが弾けた。
「なんと! 百年以上も経っているのか! それじゃ、そこにいるキャシーは……?」
「あたし、停滞フィールドに入ってたの」
 キャシーの答えに老人は「ふむふむ」と頷いた。キャシーは堪らなくなったのか、老人の立つ壇に駆け上がろうとする。それを老人は片手を挙げ、制止した。
「待て! ここには、わしのためのフィールドが構成されている。お前が来たら、フィールドが乱れて、今いるわしの再現記憶も乱れてしまう。悪いが、このままにしておくれ」
 再現されたフリント教授の言葉に、キャシーはがっくりと肩を落とした。フリント教授はジムの背後で呆然と見上げている原型の人々に目を留めた。
「その人たちは?」
 キャシーは背後の原型たちの仲間を見て、もう一度、フリント教授に向き直り、これまでの経過を説明した。シルバーの名前が出て、フリント教授は首を捻った。
「シルバー? あの下働きのロボットのことかね。どうして、海賊なんぞになろうと考えたのだ」
 キャシーは不思議そうに尋ねる。
「お爺ちゃんが超〝種族〟という研究で、シルバーの人格を新しい身体に転写させたからよ! 憶えていないの?」
 教授は首を振った。
「わしがここに記憶保存した後のことじゃからな。知らんのも、無理はない。そうか、色々あったんだなあ……」
 感慨に耽るフリント教授の投影に、それまで黙り込んでいたアルニが声を掛けた。
「ねえ、地球の秘密って、何なの? ここは何の場所なの。そろそろ聞かして欲しいわ」
 ずけずけとしたアルニの物言いに、教授は相好を崩した。
「これは失礼した! つい、個人的なことで、ほったらかしにしてしまったな! 宜しい。まず、この場所だが、ここは記録庫なのだ。あらゆる記録がここには保存されている。その記録とは、地球に存在する、ありとあらゆる生命の遺伝子をコード化したもので、この建物全体が、記憶保存庫として機能しているのだ!」
 サークが丁寧な口調で尋ねる。
「なぜ、そのような必要があるのです? それが我々と、どう関わりあうのですか?」
 フリント教授の瞳が煌いた。
「この銀河系に無数の〝種族〟が存在するが、遺伝子エッチングで生まれた〝種族〟は、どのくらい種類があるか、知っているかね?」
 教授の意外な問いかけに、全員が怪訝そうに顔を見合わせる。アルニは、あやふやに答えた。
「えーと……百! くらいかしら?」
 教授は楽しそうな笑い声を上げる。
「惜しいな。正解は、その十倍にものぼる。なんと、千以上……正しくは千と跳んで五十七の〝種族〟が、この銀河系には存在しておる。わしは一つ一つ、虱潰しに調べたのじゃよ」
 驚きの声が、その場にいた全員から上がった。しかし教授の表情には憂いがあった。
「しかも、年々歳々、新たな〝種族〟が遺伝子エッチングにより生まれてくる。わしが調べた百年前でさえ、そうなのだから、今頃はどれだけ増えたか、誰もにも判らなくなっている。この〝種族〟の無制限な増殖が、銀河系に危機を生じさせている!」
 教授の口調は真剣だった。自分の言葉が全員の胸に沁みこむのを待ち、教授はもう一度はっきり繰り返した。
「いいかね。銀河系は危機を迎えているのだ!」
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