河童戦記

万卜人

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狸御殿の巻

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 遠くから狸の腹鼓が聞こえてくる。
 時太郎とお花、芝右衛門と刑部狸たちは、宴会場から離れた別室で向かい合っていた。
 刑部狸は巨大な身体を持て余すようにして、どてっ、と座り込んでいる。股座またぐらから八畳敷きの睾丸を広げて、座布団の替わりにしていた。
「まったく、我が娘ながら、何を考えておるのか、さっぱり判らん! 選りに選って烏天狗を婿にするとはな!」
 苦々しげに呟いた。
 芝右衛門は困惑した表情で刑部狸を見上げた。
「いかがいたしましょう? このまま宴会を続けましょうか?」
 じろり、と刑部狸は芝右衛門を見つめた。
「お前、どう思うのだ。烏天狗が我が娘の婿に相応ふさわしいか! どうなのだ!」
「そ、それは……なんとも申し上げかねます。拙者も姫さまの気紛れには……」
「ふん」と、刑部狸は鼻を鳴らした。
「まあ、よい。あれのやりたいようにやらせてやれ! どうせ気紛れだ。いずれ烏天狗など、婿にはならぬと観念するだろう。婿探しは、その時になって改めてすればよい」
「それは、困るわ!」
 お花が叫んだ。
「あたしたち、京の都に着かなければならないのよ! こんなところで足止めを食っているわけにはいかないわ!」
 刑部狸は首を振った。
「おぬしらの都合など、知らぬ! 婚儀はすでに始まっておる。ともかく、姫が諦めるまで、烏天狗の翔一とやらは、ここに留まって貰う」
「そんな、勝手な……」
 時太郎も呆れていた。
「それじゃ、姫さまが翔一に飽きるまで、ってことかい? 馬鹿にしてらあ!」
 芝右衛門は慌てた。
「これ、そのような無礼な物言い、ちと身分をわきまえんか」
 刑部狸は芝右衛門を押さえた。
「待て。その小僧の言うことももっともである。確かに姫の気紛れは、わしも手に負えぬ。だが、問題は婿殿が来ぬ、ということだ。つまりは、婿殿がこの狸御殿に来て、姫との婚儀を滞りなく行えばよいのだ」
 時太郎とお花は顔を見合わせた。
「それじゃ、婿殿を連れてくればいいんだな? そういうことか?」
 芝右衛門が眉を寄せた。
「おぬし、何を言い出すのじゃ?」
「おれが姫さまの婿殿を連れてくるって、ことさ! 狸穴に出かけて、連れてくる!」
 刑部狸は、にやりと笑った。
「よくぞ申した! 時太郎とやら、おぬし狸穴に向かい、なんとしても婿殿を連れ帰ってこい! それなら翔一とやらも、おぬしらの旅を続けることができるであろう」
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