蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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旧友

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 パックはおもわず大声をあげそうになり、あわててじぶんの口を押さえた。
 ミリィの父親の名前だ。
 そうだ、確かに間違いない。
 ロロ村の墓場には、その名が刻まれた墓があるはずである。
 死んではなかったのか──。
 それが生きていてホルンに会いにきたらしい。
 どういうことだろう?
 ようやく人心地がついたのか、ガゼはふうっとため息をついて天井を見上げた。
 パックは思わず首をすくめたが、ガゼは背中を向けているので見られる心配はなかった。
「なぜ生きているなら知らせない?」
 ホルンは小声であるが、怒気を声にふくませてなじった。
 ガゼは肩をすくめた。
「おれはお尋ね者だからな。すくなくとも帝国にとっては。おれが死んだことになっていれば、メイサに迷惑をかけることもない」
「娘のことは知っているのか?」
「ああ、あの戦いの最中に生まれたということは聞いているよ。あんたにも息子がいるそうじゃないか。おめでとう」
「おれのことはいい。お前、これからどうするつもりなんだ。それに、なぜ今、おれに会いに来たんだ?」
 ガゼの顔が真剣になった。
「決まってる。決起のときが近づいているんだ。共和国のため、戦うときがな」
 ホルンは渋面になった。
「まだそんなこと言っているのか。戦争はおわった。決着はついた。共和国はほろび、ロロ村は帝国領になった。もう、スリン共和国なんてものは存在しないんだ。おまえは存在しないもののために戦おうというのか?」
「スリン人民軍の、ホルン大佐との言葉とも思えないな。共和国はまだほろんじゃいない。元首の、バタン・スリン閣下はまだ生きておられる。閣下がおられるかぎり、共和国は健在なのだ! お前は帝国の圧制に賛成なのか?」
 ホルンは静かに答えた。
「圧制? 帝国には圧制などないよ。それがあったのは、共和国のほうじゃないか?」
 ガゼは叫んだ。
「馬鹿いうな! 皇帝などというまがいものの権威によりかかるような帝国に圧制がないなんて!
 人民を解放するための蜂起がせまっているんだぞ。共和国には優秀な将軍が必要だ。お前が適任なんだ。なあ、おれと一緒に来てくれ。お前のちからが欲しい」
 ホルンは哀しげに首をふった。
「おれは二度と戦争はごめんだ。それにお前の言う、共和国の戦争には大儀などない。どんなに説得されようが、おれは行く気はないからな」
 どん、とガゼはテーブルをたたいた。
「そうか、わかった! もう頼まん」
 立ち上がり、玄関にむかう。
 その背中にホルンが声をかけた。
「これからどうするつもりなんだ?」
「軍を編成する。そしていつか帝国を打倒し、人民のための政府を立ち上げる。近いうち、帝国は人民の足に踏みにじられ、皇帝とその側近の貴族たちは、人民の搾取のむくいをうけるだろう!」
 ホルンはふたたび首をふった。
「そうか……死ぬなよ」
 ガゼは無言でドアを開き、出て行った。
 しばらくそれを見送っていたホルンは、ふいに顔をあげ、口を開いた。
「パック、盗み聞きはよくないな」
 うへえ……! とっくに気づかれていたのか。
 立ち上がると、まともにホルンと目が合う。
「パック、いまのことはメイサに言うなよ。もちろん、ミリィにもだ」
 ああ、わかったよとうなずくと、ホルンもうなずきかえす。
「もう寝ろ。明日も学校があるんだろ」
 いろいろ質問したいことはあったが、いまのホルンには、何を尋ねても無駄だろう。
 パックは部屋に戻った。
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