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儀式
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もくもくと歩くうち、パックは小屋を見つけ救われたように口を開いた。
「見ろ! ホルスト爺さんの小屋だ」
小屋は粗末な木材で出来ていて、傾いていた。その傾きを支えるため、一方の壁に柱が斜めに突き刺さっている。
小屋の前にはちいさな畑があり、数種類の野菜や、根菜が植えられていた。さらに小屋の裏手には、鶏小屋がくっついて、なかからは鶏のコッコという鳴き声が聞こえている。
小屋の屋根からは、石組みの煙突が突き出し、なにか煮炊きしているのか、薄い煙がたちのぼっていた。
ふたりは小屋に近づき、入り口の前に立った。
入り口には、一枚の布のカーテンが垂れ下がっていて、どうやらそれがドアのかわりをしているようだった。
パックは布を持ち上げ、内部を覗き込んだ。
小屋にはちいさな窓がついていたが、雨戸が降りているのか、内部は真っ暗だった。
「だれじゃ!」
だしぬけに背後から声をかけられ、パックとミリィは驚きに飛び上がった。
ふりむくと、そこにひとりの老人が立っていた。
薄汚れたフードのついたマントを身につけ、目をらんらんと輝かせた老人である。
顔の半分はまっしろな髭でおおわれ、まっくろな皮膚は、無数の皺に埋もれている。
捻じ曲がった木のステッキを手に持ち、じろりと、パックとミリィに視線をそそいでいた。
「あ、あの……ホルストさんですか?」
「いかにも、わしがホルストじゃ。お前さんは?」
「ぼく、パックと言います」
「あたしミリィです」
パックとミリィが自己紹介すると、ホルストはゆっくりと髭をしごいて、しげしげとふたりの顔を見つめた。
「ふうむ……わしの記憶に間違いがなければ、パック、お前はホルンの息子で、ミリィ、お前さんはメイサの娘じゃな。たしか今年十三になるはずじゃ」
パックは勢い込んだ。
「そうです、そうです。それで……」
ホルストはさっと手をあげ、パックの言葉をさえぎった。
「それで、お山に登りに来たんじゃな。ご先祖の剣に触れるために」
「はい!」
パックは答えると背中のバッグを降ろし、口を開け、中から用意した荷物を取り出した。
荷物は食料や調味料である。老人に会ったら手渡すよう、ホルンとメイサに言われてある。
「これ、父さんとミリィの母さんからです」
老人は軽く礼を言うと、それらを受け取り、小屋の中に運んだ。それらがホルストの報酬というわけである。
つぎつぎと手渡したパックの贈り物のなかで、刻み煙草の袋を目にしたホルストは、そのときだけ喜色を浮かべた。かれは煙草が唯一の好物なのだ。
ホルスト老人は、山に登ってきた村の子供の案内役で、この仕事をもう四十年続けてきている。小屋の番人は二、三十年に一度代替わりをしているが、ホルストはもっとも長く続けていた。
老人はとん、と杖を地面で突くと、声をはりあげた。
「さて、いよいよお山に登るときがきた! ご先祖が、この世界に真の平和をもたらせたことに感謝する儀式がこれからはじまるのじゃ! ふたりとも、覚悟は出来ておるな?」
パックとミリィは老人の前で胸に拳をあて、頭をさげ声をそろえた。
「はい、出来ています!」
よろしい、よろしいとホルスト老人は老顔をほころばせた。
すべてホルンとメイサから教えてもらっていたことである。
老人は胸をはり、山頂を見上げた。
「さあ、出発じゃ! 案内するぞ、ついてまいれ!」
老人は意外と元気な足取りで歩き出す。パックとミリィも慌てて後を追う。
「見ろ! ホルスト爺さんの小屋だ」
小屋は粗末な木材で出来ていて、傾いていた。その傾きを支えるため、一方の壁に柱が斜めに突き刺さっている。
小屋の前にはちいさな畑があり、数種類の野菜や、根菜が植えられていた。さらに小屋の裏手には、鶏小屋がくっついて、なかからは鶏のコッコという鳴き声が聞こえている。
小屋の屋根からは、石組みの煙突が突き出し、なにか煮炊きしているのか、薄い煙がたちのぼっていた。
ふたりは小屋に近づき、入り口の前に立った。
入り口には、一枚の布のカーテンが垂れ下がっていて、どうやらそれがドアのかわりをしているようだった。
パックは布を持ち上げ、内部を覗き込んだ。
小屋にはちいさな窓がついていたが、雨戸が降りているのか、内部は真っ暗だった。
「だれじゃ!」
だしぬけに背後から声をかけられ、パックとミリィは驚きに飛び上がった。
ふりむくと、そこにひとりの老人が立っていた。
薄汚れたフードのついたマントを身につけ、目をらんらんと輝かせた老人である。
顔の半分はまっしろな髭でおおわれ、まっくろな皮膚は、無数の皺に埋もれている。
捻じ曲がった木のステッキを手に持ち、じろりと、パックとミリィに視線をそそいでいた。
「あ、あの……ホルストさんですか?」
「いかにも、わしがホルストじゃ。お前さんは?」
「ぼく、パックと言います」
「あたしミリィです」
パックとミリィが自己紹介すると、ホルストはゆっくりと髭をしごいて、しげしげとふたりの顔を見つめた。
「ふうむ……わしの記憶に間違いがなければ、パック、お前はホルンの息子で、ミリィ、お前さんはメイサの娘じゃな。たしか今年十三になるはずじゃ」
パックは勢い込んだ。
「そうです、そうです。それで……」
ホルストはさっと手をあげ、パックの言葉をさえぎった。
「それで、お山に登りに来たんじゃな。ご先祖の剣に触れるために」
「はい!」
パックは答えると背中のバッグを降ろし、口を開け、中から用意した荷物を取り出した。
荷物は食料や調味料である。老人に会ったら手渡すよう、ホルンとメイサに言われてある。
「これ、父さんとミリィの母さんからです」
老人は軽く礼を言うと、それらを受け取り、小屋の中に運んだ。それらがホルストの報酬というわけである。
つぎつぎと手渡したパックの贈り物のなかで、刻み煙草の袋を目にしたホルストは、そのときだけ喜色を浮かべた。かれは煙草が唯一の好物なのだ。
ホルスト老人は、山に登ってきた村の子供の案内役で、この仕事をもう四十年続けてきている。小屋の番人は二、三十年に一度代替わりをしているが、ホルストはもっとも長く続けていた。
老人はとん、と杖を地面で突くと、声をはりあげた。
「さて、いよいよお山に登るときがきた! ご先祖が、この世界に真の平和をもたらせたことに感謝する儀式がこれからはじまるのじゃ! ふたりとも、覚悟は出来ておるな?」
パックとミリィは老人の前で胸に拳をあて、頭をさげ声をそろえた。
「はい、出来ています!」
よろしい、よろしいとホルスト老人は老顔をほころばせた。
すべてホルンとメイサから教えてもらっていたことである。
老人は胸をはり、山頂を見上げた。
「さあ、出発じゃ! 案内するぞ、ついてまいれ!」
老人は意外と元気な足取りで歩き出す。パックとミリィも慌てて後を追う。
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