蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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儀式

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「なにをしたんです?」
 パックが尋ねると、老人は満面の笑みでこたえた。
「魔法じゃよ! 炎の魔法じゃ! わしがこの山で四十年も暮らしているのも、魔法の研究をしているからじゃ。ここはかつて魔王が城をつくっただけに、魔法の力がとくに強いのじゃ」
「魔法?」
 パックはあきれた。
「でも、まさか」
 ミリィがつぶやくと、ホルスト老人は、きっと彼女を睨んだ。
「なんじゃ、じぶんの目で見て、信じられないというのか?」
「おれも信じられません。魔法なんて……」
 パックの言葉に、老人はため息をついた。
「なんということじゃ……。ご先祖様が魔王を封じたのも、魔法の力あってのことじゃ。
 魔王が封印されてからのち、魔法のわざはなぜか忘れられてしもうたが、この世に魔法の力は満ち満ちておるんじゃ。さっきわしがやったのがその証拠じゃよ」
「ほかに魔法の技をつかえるんですか?」
 老人は肩をすくめた。
「いまのところあの炎の魔法だけじゃ。それも四十年間、ずっと研究して、やっとちいさな火を熾すことに成功したくらいじゃよ。昔はもっと強力で、すばらしい効果をもつ魔法が世界にあふれていたもんじゃが……。わしはなんとかして、その魔法を、今の世に復活させたいと考えておる」
「それで、この山にこもっているんですか?」
 ミリィの質問に、老人はうなずいた。
 あたりを見回し、両手をあげ、天を仰いだ。
「この世の中には目にも見えず、においもせんが、魔法のちからが満ちている。わしにはそれが感じられるんじゃよ! 数十年前、この山に来てはじめて魔法の力を感じ、それいらい古文書をあさり、研究を続けてきた。魔法の力をただしくつかえば、人間はすばらしい存在になれるはずなんじゃ!」
 老人の身振りに、空を見上げたパックは、いつのまにか夜になっていたことに気づいた。ぱちぱちと焚き火がはぜ、こまかなオレンジ色の火の粉が天に向かってのぼっていく。
 ホルスト老人は火の粉を見上げつつ、憧れるような眼差しになって話しを続けた。
「魔法の技がこの世に満ちていたころ、人々は巨大な岩を空中に浮かべ、城や町を作ったという。さらに魔法の技で、遠く離れた場所の知人と話しをすることができ、死に瀕した病人すら、医療の魔法で治療することができたそうじゃ。今では、その言い伝えがどれが真実で、どれがたんなる伝説なのか、判らなくなっているがな……」
 魔法か……。
 パックは、老人の言う魔法が、世に溢れていたころの世界を想像しようとしたが、よくわからなかった。
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