蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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真鍮のマリア

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 人形の体内には、ぎっしりと複雑そうな機械が埋め込まれていた。その配置は、どことなく人間の内臓を思わせる。
 胸の部分には、肺を思わせるふたつのタンク、心臓そっくりの形のポンプ、腹部にはうねりくねったパイプが詰め込まれている。
「ねえ、博士。このなかに詰まっている機械はなんのためにあるんです。何の役にたつんですか?」
「わしが開発した超小型の蒸気機関じゃよ。この胸にあるのはボイラー、こっちはピストン、こっちは水タンクじゃ! 燃料を入れれば独立して動力を供給できるようになっている」
 博士の説明にパックは目を輝かせた。
 しかしニコラ博士は沈痛な表情になっていた。
「今のところロボットは人間のように動き回ったり、考えたり、話すことはできん。そんなことをどうやって実現したらいいのか、研究の端緒もつかない状態なんじゃ。しかしその日のくるまで、ロボットの身体の中に、将来人間と同じような機能をする機械の雛形をいれておくことは必要だと思ったのだ。
 蒸気機関と人間の内臓は似ても似つかないが、生命活動であるということでは同じ意味を持つ。人間に流れている血液が蒸気であり、ボイラーは肺、ピストンは心臓という具合にな。
 ほれ、これを見い」
 そう言うと、博士はロボットの頭の外板を外して見せた。
 頭の中には、脳に似た金属のスポンジが詰まっている。
「これはイリジウムのスポンジなのじゃ。いつの日か、人間の脳と同様な機械が発明された日には、ロボットの頭部には、こういう形で装着されると思っておる。ほれ、スポンジからはこのように導線が繋がっておるじゃろう? これが人間で言うなら神経にあたるものじゃ」
 博士は説明を終えると、ロボットの外板を丁寧に元に戻した。それを終えると、天井を仰ぎあこがれるような眼差しになる。
「いつの日か……ロボットは自分で考え、行動し、人間の友になる……その日を目撃することはできんだろうが、けっして夢物語ではない! なあ、パック。そんな日が早く来るようお前も協力してくれよ」
「はい、博士!」とパックは答えた。
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