蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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真鍮のマリア

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 マリアはパックの手を握った。
「痛え!」
 パックは悲鳴をあげていた。
 マリアの握ったちからは思ったより強く、パックの手は万力に掴まれたような痛みを伝えてきたのである。
 怯えたようにマリアは手を引っ込めた。
「大変、あたし傷つけてしまった!」
 大丈夫だよと、パックは無理に笑顔を作って見せた。
 そのときニコラ博士が目を覚ました。
 ううん、とうなり首をふる。
 パックはニコラ博士のところへ跳んで行った。
「大丈夫ですか、博士?」
 ぶるっと顔を左右にふり、ニコラ博士はずれた眼鏡を調整して目を見開く。
 ぼんやりとした視界が戻ったのか、かれは立ち上がっているマリアを見た。
「あれは……」
 パックはおおきくうなずいた。
「そうです、博士! 成功です!」
 むう、とひと声唸ると博士は立ち上がった。
 つかつかとマリアに近づくとまじまじと見つめた。
「信じられん……」
 パックは首をかしげた。
「どうしてですか? 成功したんですよ。マリアはこうして立っているじゃないですか」
「それが信じられんというのだ。わしはマリアを動かすための研究を続けてきた。が、このように自立させるまでは考えておらん」
 パックはさらに判らなくなった。
「どういうことです?」
 ニコラは腕をふりまわした。
「わからんのか! このロボットが何のささえもなく立っておることを。二本の足でだぞ! とても信じることはできん!」
 パックの顔色を見てあきらかに理解していないことを悟り、博士はため息をつき説明をはじめた。
「お前は自分の足で立っているから、それがどんなに困難なことかわからんのだ。いいか、人間が二本の足で立つと言うことは、おっそろしく大変なことなんだぞ。それをなんの意識もない、人間の姿に似せたロボットにさせることは、とても出来んことだ」
「でもマリアは話します」
「なんじゃと?」
 博士は大声をあげた。
「マリア」
 そう言ってパックは彼女に向け、指を立てて招いた。
 マリアは無言でパックの側に立った。
「きみの名前は?」
「マリア」
 彼女の声にどうです、とパックは博士を見た。
 博士は卒倒しそうだった。
「こ……こ、こんな馬鹿な! ありえん!」
「でも彼女は博士の研究でしょう。自分で言ったじゃないですか。いずれロボットは人間と同等の知能を持ち、会話するようになるって」
「未来の話しじゃ! 遠い、未来ならそんなこともありうるじゃろう。じゃが、断じて今ではない。わしはその未来のため、基礎研究としてロボットを、とりあえず蒸気のちからで動かす研究をしていたのだ。今日できるのは、彼女が自分で身を起こすくらいのことじゃった。それだけでも十分成果があると考えていたんじゃ。自分で話すなど、わしの研究の範囲を超えておる! こ、こやつには知能がある!」
 パックはぼう然となった。
「それじゃマリアは?」
「わしの研究の成果ではない。それだけは確かだ! 第一、人間がどうやってものを見、考えるかなんて誰もわからん。蒸気のちからで……」
 そこで博士は口をあんぐりと開けた。
 蒸気のちから……とつぶやく。
「そうだ、そうかもしれん……それならホルストの身の上におこったことも説明がつく……」
 ぶつぶつつぶやくと、ポケットからメモを取り出しペンを走らせた。もうパックとマリアのことも念頭から消えているようだ。
 どうしたものかとパックはぼんやりと立っていた。
 と、地下室の階段の上から人影がさした。
 見上げるとホルンの顔と目が合った。
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