蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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真鍮のマリア

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 駈け寄ろうとしたパックであったが、ふと台の上の少女に目を留めた。
 かたかたかた……。
 彼女の全身はこまかく振動していた。
 パックは目を見開いた。
 少女が起き上がろうとしていた!
 ゆっくりとその上体が持ち上がる。
 ぱん!
 ぱん!
 豆がはぜるような音を立て、彼女の全身に繋がれているパイプが弾け飛んだ。
 ばしゅーっ!
 彼女の全身から白い蒸気が湧き上がる。
 その蒸気につつまれ、何も見えなくなる。
 どうしよう、とパックは迷った。
 博士はもちろん心配だ。
 しかし彼女をこのままにしていいのか?
 ごとり……。
 固いものが床に触れる音がして、金属の少女が台の傍らに降り立っていた。
 なんと彼女はじぶんの足で立っていた!
「きみ……」
 パックはおもわず口を開いていた。
 言ってから舌打ちした。
 あいてはただの金属の少女像である。
 人間ではない。
 返事など期待していなかった。
 と、少女の目が見開かれた。
 パックは驚いた。
 彼女はパックをじっと見つめている。
 そして声がもれた。
「あたし……」
 たしかに彼女は口をきいていた。
 そう言って両手をあげ、じぶんの顔にふれる。
「あたし……だれ?」
 パックはニコラ博士が名づけた少女の名前を思い出した。
「マリアだよ」
 彼女は顔をあげた。
「マリア?」
「そう、きみはマリアだ。そしておれはパック」
「パック?」
 マリアは首をかしげた。
「そう、よろしくな」
 パックは手を差し出した。
 マリアはその手を見つめ、自分の手を伸ばした。
 ふたりの手が触れ合った。彼女の手は金属なのに暖かい。蒸気のせいだ。パックはぼんやりと思った。
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