蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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伯爵

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 召し使いたちに案内され、ミリィたちはソファに座った。目の前のテーブルに、茶器がセットされ、馥郁としたお茶の香りが漂った。
 付け合せの菓子が差し出され、ミリィはそのうちのひとつをとって一口かじる。
 ケイもまた口に入れた。
 おどろきにミリィと目を合わせる。
 なんという旨さ!
 ふたりはおもわず皿に出された菓子を貪るように食べていた。
 ミリィはヘロヘロを見た。
 ヘロヘロは不機嫌そうに腕を組み、出された菓子には目も呉れない。
「どうしたの? あんたも食べたら?」
 いいや、とヘロヘロはかぶりをふった。眉をしかめ、険しい顔つきである。
「おれは食わん。ここは怪しい。それに、あの伯爵も怪しいとは思わんか? 絵の中から出て来たのだぞ」
 そりゃまあ……とミリィは肩をすくめた。
 しかし目の前に出されたご馳走を無視するには腹が減りすぎていた。
 くすり──と、伯爵は笑った。
 マントルピースにもたれ、面白そうにヘロヘロを見ている。
「そこの紳士はかなり変わった御仁ですな。まあお客はなるべくなら変わった方が望ましい。いずれその方とも分かり合える日がくるでしょう。それではわたしは、別に用があるので失礼します。あとは召し使いがよろしくやってくれるでしょう」
 ちょっと敬礼のような仕草をすると、伯爵は広間を出て行った。
 あっけにとられ、ミリィとケイは伯爵の後ろ姿を見送った。なにか、慌てている様子である。
 三人の給仕をしている召し使いの一人が顔をそっとミリィに近づけ、ささやいた。
「お客さま、できるだけ早くこの屋敷からお逃げなさい。時がすぎるごとに、逃げ出すことは難しくなります」
 え? と、ミリィは顔を上げた。
 ささやいた召し使いは、年のころ五十代と思われる中年の男である。日に焼けた皺ぶかい顔つきをしていた。その目はひた、とミリィを見つめ必死の表情を浮かべていた。
 それはどういうことですか、と反問しようとしたミリィだったが、召し使いは顔をそらし立ち去ってしまった。
 ミリィは伯爵が出てきた絵を眺めた。
 窓から西日が差し込み、真っ赤な陽射しが絵にまともにさしこんでいる。絵の中にはむろん、だれもいない。
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