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伯爵
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凝然と固まっている三人の目の前で、肖像画の青年はゆっくりと絵の中から広間の床に進み出て、立ち止まった。
顎をあげ、あたりを見回す。
その視線が三人の顔にとまる。
青年の顔がほころんだ。
白い歯がきらめき、笑顔になる。
「これはこれは、お客様とは珍しい」
青年の声は柔らかで、どこか古風な響きを持っていた。ミリィはふとエルフの館の、ラングの口調を思い起こしていた。
ゆったりと近づいた青年は、おおきく腕をふって挨拶をした。
はっ、とケイは夢から醒めたように一歩踏み出し、腰をかがめ頭を下げた。
「お騒がせして申し訳ございません。わたしどもは旅人で、この館が目にとまりつい入り込んでしまった者です。ご迷惑でしたら、いますぐにも退去いたします」
ふっ、と青年は笑った。
「ふむ、エルフのお嬢さまですな。漆黒の肌をしたエルフとは珍しい。しかし、その肌の黒さがあなたの美しさを強調しているようだ。こちらこそ、是非この館でひと時を過ごしていただきたい。なにしろ、この館を訪れるお客さまはほとんどいないような状態ですからな」
ちらりとケイの顔を見たミリィは驚いた。彼女は青年の賛辞にぼうっとなっているようだった。
ヘロヘロというと、牙を剥きぐるるる……と喉の奥で唸っていた。
「どうしたのよ? ヘロヘロ」
「気をつけろ。あいつは──危険だ!」
「危険?」
「当たり前じゃないか。絵の中から出てきたんだぞ。お前たち、それが奇妙だとは思わんのか?」
ケイは目をぱちぱちと瞬かせ、ようやく言葉を口にすることが出来た。
「あ……あの、あたしエルフのケイと申します」
ミリィも続いた。
「あたしはミリィです」
おお……、と青年はじぶんの額に手をやった。
「これは失礼した。自己紹介がまだでしたな。わたしはウルグ・フォン・グラフ・オーデヴォン伯爵。ウルグ、とだけお呼びください。もし敬称をつけたいのなら、伯爵で結構」
周りを見回し、ウルグ伯爵は眉をしかめた。
「少々、屋敷が荒れておるようですな。お客さまを迎え入れるのに、これではちと不都合です。すこしお待ちを」
そう言うと、ぱちりと指を鳴らす。
と、あっという間に家具を覆っていた埃が消え去り、天井の蜘蛛の巣や、ぼろぼろのカーテンが元通りになる。床はまるで鏡のようにぴかぴかに磨き上げられ、窓のガラスは透明さを取り戻した。
「庭も……」
伯爵が指さすと、荒れ果てていた庭園の緑が取り戻され、池には透明な水が満々とたたえられていた。
うなずくと伯爵はマントルピースを指さした。冷え切ったマントルピースに、ぼっと赤みが差しオレンジ色の炎がゆらめいた。たちまち室内は快適な暖かさを取り戻す。
「さて、お疲れでしょう。いま召し使いがまいりますから、お座りを……」
その言葉が終わらないうちにドアが開き、召し使いのお仕着せを着た数人の男女が入ってきた。召し使いは忙しく立ち働き、広間のソファやテーブルの埃をはたき、お茶の用意を始めた。
顎をあげ、あたりを見回す。
その視線が三人の顔にとまる。
青年の顔がほころんだ。
白い歯がきらめき、笑顔になる。
「これはこれは、お客様とは珍しい」
青年の声は柔らかで、どこか古風な響きを持っていた。ミリィはふとエルフの館の、ラングの口調を思い起こしていた。
ゆったりと近づいた青年は、おおきく腕をふって挨拶をした。
はっ、とケイは夢から醒めたように一歩踏み出し、腰をかがめ頭を下げた。
「お騒がせして申し訳ございません。わたしどもは旅人で、この館が目にとまりつい入り込んでしまった者です。ご迷惑でしたら、いますぐにも退去いたします」
ふっ、と青年は笑った。
「ふむ、エルフのお嬢さまですな。漆黒の肌をしたエルフとは珍しい。しかし、その肌の黒さがあなたの美しさを強調しているようだ。こちらこそ、是非この館でひと時を過ごしていただきたい。なにしろ、この館を訪れるお客さまはほとんどいないような状態ですからな」
ちらりとケイの顔を見たミリィは驚いた。彼女は青年の賛辞にぼうっとなっているようだった。
ヘロヘロというと、牙を剥きぐるるる……と喉の奥で唸っていた。
「どうしたのよ? ヘロヘロ」
「気をつけろ。あいつは──危険だ!」
「危険?」
「当たり前じゃないか。絵の中から出てきたんだぞ。お前たち、それが奇妙だとは思わんのか?」
ケイは目をぱちぱちと瞬かせ、ようやく言葉を口にすることが出来た。
「あ……あの、あたしエルフのケイと申します」
ミリィも続いた。
「あたしはミリィです」
おお……、と青年はじぶんの額に手をやった。
「これは失礼した。自己紹介がまだでしたな。わたしはウルグ・フォン・グラフ・オーデヴォン伯爵。ウルグ、とだけお呼びください。もし敬称をつけたいのなら、伯爵で結構」
周りを見回し、ウルグ伯爵は眉をしかめた。
「少々、屋敷が荒れておるようですな。お客さまを迎え入れるのに、これではちと不都合です。すこしお待ちを」
そう言うと、ぱちりと指を鳴らす。
と、あっという間に家具を覆っていた埃が消え去り、天井の蜘蛛の巣や、ぼろぼろのカーテンが元通りになる。床はまるで鏡のようにぴかぴかに磨き上げられ、窓のガラスは透明さを取り戻した。
「庭も……」
伯爵が指さすと、荒れ果てていた庭園の緑が取り戻され、池には透明な水が満々とたたえられていた。
うなずくと伯爵はマントルピースを指さした。冷え切ったマントルピースに、ぼっと赤みが差しオレンジ色の炎がゆらめいた。たちまち室内は快適な暖かさを取り戻す。
「さて、お疲れでしょう。いま召し使いがまいりますから、お座りを……」
その言葉が終わらないうちにドアが開き、召し使いのお仕着せを着た数人の男女が入ってきた。召し使いは忙しく立ち働き、広間のソファやテーブルの埃をはたき、お茶の用意を始めた。
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