蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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それぞれの道

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 ホテルの部屋に帰ると、ホルストが窓際に椅子を出して座っていた。パックたちがドアを開けると、気のない様子で顔をあげる。
「ああ、お帰り」
 どこか上の空である。
 じっと窓際に顔を向け、外を見ている。
 どうかしたのかな、とパックは思った。やっぱりひとり残ったのが面白くないのだろうか?
 ホルンはベッドに腰かけ腕を組んだ。
「さて……」
 口を開く。
 が、それ以上言葉を重ねることはできないようだ。
「パック……」
 パックはホルンを見た。
「なに?」
「お前、これからどうする?」
「どうするって、どういうことさ。決まってる。これからミリィを探しに出かけるさ。マリアを通じて、あのエイダっていう思考機械の援けも受けられるしね」
 そうか、とホルンはうなずいた。
「わしは賛成できないな」
 それを聞いたパックは大声をあげた。
「賛成できないとはどういうことさ?」
「お前ひとりが旅をするということさ。お前は子供だ。やはり帝国軍に頼んで、捜索してもらったほうがいい。おれはそろそろ村に帰ろうと思う。なにしろこれが」
 と、財布を取り出した。
「もう残り僅かだからな。お前だってそうだ。子供のお前がどうやって旅の費用を稼ぐつもりなんだ?」
 それを聞いていたサンディが叫んだ。
「これがあるわ!」
 そう言って、宝石類が詰まった革袋を取り出す。袋の口を開き、中身をテーブルにあけた。ざらざらと音を立て、まばゆい輝きをはなつ宝石や、装飾品がぶちまけられた。
 目をまるくするパックに、サンディは気取って話しかけた。
「言ったでしょ、あたしミリィを探す手伝いをするって! これを売れば、旅の費用になるわね」
 ホルンは首をふった。
「お嬢さん、それはいけない! それはあんたの家から持ち出したものだろう? それを使うと、パックは泥棒と同じことになる」
「違う、これはあたしのものなの! 所有者はあたしなんだから、泥棒にはならないわ」
「しかし子供のあなたがそんなものを所有しているなんてことは信じられない。どう考えても、家のものを黙って持ち出したとしか思えんが」
「だってそうだもん! お父さまがあたしにって、誕生日のたびにくれたものを宮殿の……」
 そこでサンディははっ、と口を押さえた。
 ホルンは彼女の目をじっと見つめた。
「宮殿? あなたは宮殿にお住まいだったのか」
「し、知らないわ! とにかく、これはあたしのものだから、処分するのはあたしの勝手なの! 判ったわね、あたしはパックと一緒にミリィを探すわ!」
「父さん」
 パックはホルンに話しかけた。
「父さん、心配するなよ。サンディのものには手をつけないよ。金のことなら心配ない。おれの見るところ、このボーラン市にはたくさんの蒸気エンジンを利用する機械や設備がそろっている。蒸気エンジンの修理だったら、おれは自信がある。それらを修理して金を稼ぐ。だから、おれひとりにさせてくれ」
「パック……」
 ホルンの眉がさがる。
 首をふり、苦い笑みを浮かべた。
「わかった、お前はおれの思っているより大人なんだな」
「わしもここに残るよ」
 だしぬけにホルストが口を開いた。
 え、とホルンとパックがホルストを見た。
「実は……」
 と、ホルストは昼間の出来事を話した。
 ホルストはにやりと笑った。
「奇術師の代役、面白そうじゃないか! わしは一度そんなことをやってみたいと思っていたんじゃよ! わしの魔法が、どのように観客にうつるか、試してみたい」
「わしも残ろう」
 ニコラ博士が話しだし、みなびっくりした。
「あのバベジ教授の思考機械、わしは感銘を受けた。わしはかれに申し出て、〝魔素〟の共同研究を提案してみるつもりじゃ。じつはロロ村にやって来る前、わしはボーラン市の大学に招かれていた。そのときの教授たちとは、いまでも手紙のやりとりなどやっておって、わしの研究成果を知らせておった。だからすぐにでも教授職につくことができるから、生活のほうは心配ない」
「まったく……!」
 ホルンは肩をすくめた。
「あんたら勝手な人間だ! まあいい。おれはロロ村へ帰ろうと思う。しかしあのムカデはどうするね? ここに残しておくのかね?」
 ニコラは首をふった。
「いや、あれはパックに預けよう。マリアの蒸気を補給するにも必要だからな。それにパックに任せておけば、整備もちゃんとやってくれるだろうから」
「そうか、村に帰るのはおれひとりか……」
 ホルンは笑った。
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