蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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理想宮

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 大学の構内にバベジ教授の研究室はあった。
 入ってすぐパックは驚きの声をあげた。
 なんとそこにエイダがあったのだ。床を埋め尽くす蒸気のパイプ。垂れ下がる電線、壁に取り付けられた電気部品。それらの集積の頂点に、エイダの巨大な頭部が安置されている。
「やあ、いらっしゃい」
 バベジ教授はパックを歓迎した。
「かれの研究は自宅でやるより、大学のほうがいろいろ設備も充実できるし、わし以外の研究者の助言も受けられる。ということで大学当局にかけあって、ここにかれの研究室を設置することにしたのだよ」
 ニコラ博士は得意そうに言った。
「最初気が進まなかったのですが、こっちに来て部品もすぐ手に入るし、ほかの学部からの見学でヒントが手に入ったり、やはりこちらへ来て良かったです」
 バベジ教授はこころもち明るくなったようだ。顔色が前よりいい。
「バベジくん。エイダを動かしてくれないか。聞きたいことがあるんだ」
 ニコラ博士に頼まれたバベジはうなずいてスイッチを入れた。すぐさま壁の装置に明かりがともり、エイダの瞼が持ち上がった。
 彼女はゆっくりとあたりを見回し、パックに目を留めた。
「ひさしぶりです。パックさん」
 彼女の声は研究室内に重々しく響いた。
「ミリィを探しに行かれるのですね」
 パックは驚いた。
「おれ、なにも言っていないぜ」
「それくらい分かります。あなたの顔に、まえにお目にかかったときになかった決意の表情がありますから。しかしミリィのいる場所はマリアに伝えられるからわたしにわざわざ会いにいらっしゃったということは、ほかになにかお尋ねになりたいことがあるのでしょう?」
「なんでもお見通しなんだなあ!」
 パックはギャンのことを話した。エイダは目を閉じた。
「そのギャンという少年ですが、あきらかに魔力を持っていると思われます。ロロ村での出来事とあわせて考えますと、おそらくヘロヘロが魔王として目覚めたとき、その属性を受け継いだのではないでしょうか? 魔王となるにはきわめて破壊的な衝動、邪悪な意思が必要ですが、ギャンという少年は、そのふたつともヘロヘロより上だったのでしょう。それでヘロヘロの〝オーラ〟がギャンに移動したのではないでしょうか? 魔王の〝オーラ〟はヘロヘロよりギャンを選んだといえるかもしれません」
「ギャンが魔王の力をヘロヘロから盗んだ、というのかい? それじゃヘロヘロはそのことを知っているのか?」
「それは考えられません。ヘロヘロ自身はいまでも自分が魔王だと思っているでしょう。しかし魔王としてのちからを失い、不思議がっているかもしれません」
「これからギャンはどうなるんだろう。魔王になるのか?」
「分かりません。もともと魔王だったヘロヘロと、人間のギャンでは違いがありすぎます。人間の身体で魔王のちからを身につけるには無理があるのではないでしょうか。もしかしたら副作用があるかもしれません」
「副作用?」
 パックはパレードで見たギャンの横顔を思い出した。
 人が変わってしまったようなかれの横顔。
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