蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

文字の大きさ
219 / 279
サイデーン

しおりを挟む
 馬車はゆっくりと聖堂に近づいていく。
 ミリィは馬車の中からその聖堂を見上げた。
 確かに巨大である。まわりの人家からすると不釣合いなほどの規模を誇っている。
 いくつもの尖塔がそびえ、複雑な文様がびっしりと壁面を覆っている。それは隙間というものを恐怖するかのようで、ありとあらゆる面には無意味と思われるほどの彫刻が施されていた。
 全体に砂岩で出来てるようで、造られてからはそんなに時間はたっていないようだが、すでに表面には風化の徴候があらわれていた。全体から受ける印象は陰鬱そのものといったものであった。しかし聖堂を見上げるワフーの顔は歓喜にみちていた。
「どうじゃ、素晴らしいじゃろう? ハルマン教皇さまの住まう聖堂だぞ! なんだか聖なるひかりがあふれてくるようじゃないか」
 ヘロヘロは皮肉そうな表情になった。
「おれの見るところ、この聖堂には人々の恨みがこめられているように思えるがな」
 ワフーはきっとなってヘロヘロをにらんだ。
「なにをいう? 罰当たりなことを……なんの根拠があるというのじゃ?」
「あんな聖堂を造り上げるには、そうとうの費用と人手が必要だったのじゃないかな? いったい、その費用はだれが負担したのかな。まさか善意の寄付なんかじゃないだろう。どう考えても税金が投入されたのにちがいない。そう考えると、これを建立するための税金は相当のものだったはずだ」
 それを聞いてワフーはぐっとつまった。
「だが人々はその負担に喜んで耐えたのじゃ。敬愛する教皇さまのためだからな」
 そうかしら、とミリィは思った。聖なる都にしては、人々の表情には暗い、絶望だけがきざまれているように思える。
 がたん、と馬車がひとゆれして停まった。
 聖堂のすぐ前だった。
 衛士が馬車の檻にまわり、鍵を開いた。
「出ろ」
 短く命令する。
 衛士たちにうながされ、ミリィたちは外へ降り立った。
 すぐさま衛士たちが槍をかまえ、ゆだんなく見張る。
 出る間もなく、ミリィたちは聖堂へと連れて行かれた。
 入り口の、巨大な両開きの扉が開け放たれている。先行する枢機卿らの馬車は見当たらなかった。すでに聖堂のなかへと入っているのだろう。
 聖堂の中は薄暗かった。
 天井近くにはステンドグラスがはめ込まれ、そこから外光が導かれている。採光は室内を明るく照らすためというより、暗がりを強調するためのようであった。
 内部に入った途端、ケイは不安そうな表情になった。
「なにかしら、頭痛がするわ……」
 そう言ってこめかみを押さえた。
 ヘロヘロを見ると、薄笑いを浮かべている。ミリィはささやいた。
「どうしたの、なにを笑っているのよ?」
「面白い……この聖堂は面白いぞ」
 ヘロヘロはつぶやいた。
「なにが面白いのよ?」
 あとで説明する、とヘロヘロはそっぽを向いた。そのヘロヘロの反応に、ミリィはかっと顔に血が上るのを感じた。
 なんてことなの! まったく頭にくる!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...