蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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 パックはまわりを見わたした。
 霧にかくれ、あたりはほとんど見えない。
 どうしようか、とパックは迷った。これじゃ、先に進もうにもあぶなくて動けない。ムカデを動かして、地面に穴があったら落っこちかねない。しょうがない、霧が晴れるまで野宿しかないな、と諦めた。
 マリアに命じてキャンプの用意をさせた。
 アンガスの町でテントや寝袋を買い込んだのが役に立った。ムカデの蒸気を落とし、テントを張って中へ這いこむ。寝袋に潜り込み、目を閉じた。
 マリアがテントの中に入って、パックの側に横たわった。
「なんだ、なんだ?」
 パックはうろたえた。マリアはロボットである。眠る必要はない。これまでも、パックが寝ている間、マリアは部屋で静かに待っているだけだった。
「気温が低いです。パック様、寒さを感じていませんか」
 そりゃまあ、とパックは答えた。確かに気温は低く、こうして寝袋にじっとしていても寒さがじかに地面から伝わってきそうである。
「わたしが側にいれば暖かいと思います」
 つまりマリア自身がパックのために暖房装置になろうというのだ。たしかにマリアは蒸気を体内にめぐらせているから、触ると暖かい。彼女が寄り添っているおかげで、パックはほんのりとした温かみを感じていた。
 うん……とパックはうなずいた。
 うつら、うつらと眠りに落ちる。
 夢の中で、パックはミリィの夢を見ていた。ぼんやりとした視界の中でミリィの顔はよくわからない。
 ミリィ……! パックは夢の中で叫んでいた。
 ふりかえると、ミリィの顔はマリアのそれに変わっていた。
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