蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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 朝です、というマリアの声にパックは薄目を開けた。
 テントの入り口の隙間から、しろい朝日が筋となって差し込んでくる。
 テントから這い出したパックは、目の前に突き出された槍の穂先をまともに見ることとなった。
「動くな!」
 押し殺した男の声にパックは凍りついた。
 あわててまわりを見回すと、テントは数人の男たちによって取り囲まれていた。
「立て! ただしゆっくりとだ……」
 命令に従い、パックはのろのろと立ち上がった。ようやく自分を取り囲んだ男たちを観察する余裕が出た。
 みな薄汚いなりをしている。
 何年も着古したような色合いの服を身につけ、足もとは粗末な編み上げ靴だ。服にはあちこち継ぎ当てがあり、全員日に焼けた真っ黒な肌の男たちである。
 パックの背後からマリアが姿をあらわすと、かれらの間に動揺がはしった。
「そ、そいつはなんだ!」
 真鍮の身体を持つ彼女は、朝日を反射し、黄金色に輝いていた。
 隙を見てとったパックは、槍をかまえている男に突進し、その腕をとった。わっ、とちいさく叫んで男は槍を取り落とした。その槍をさらって、パックは構えた。
 わあ! と叫び声と共に男たちは襲い掛かってきた。ひとりが棍棒を振り下ろしたのをパックは槍で払い、ぐるりと回転させて石突でもって突いた。胸をつかれた男は、両手をふりまわして背中から地面に大の字になる。
 なにがなんだか判らないが、とにかくこの窮地を脱出しなければ。
 パックは槍を目茶目茶に振り回して囲みを破ろうと奮闘した。マリアは両手をつかって男たちを押し返す。
「パック様、後ろ!」
 マリアの声にパックはふりかえった。
 ひとりの男が棍棒を振り下ろすところだった。
 あっ、と思って槍を持った手を挙げたが遅かった。
 パックの額に棍棒が炸裂した。
 目の前に火花が散り、パックは意識を失った。
「パック様!」
 マリアの声が聞こえたが、あとは闇の中に溶け込んでしまった……。
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