蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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山賊

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 ゴラン皇国の徴税が厳しくなり、それまで農産物の物納で収めていた税が現金による納税に切り替わったのが十年前である。現金収入がある村はよかったが、フライ村には特に現金化できるような特産物はなく、納税に困窮した。何度かの督促があり、やがて徴税官が派遣されてきた。徴税官と村人の間に衝突があり、その闘いから逃れかれらは山奥に移り住んでいるということだった。
 かれの話しに、まわりの男たちもしんみりとしている。どうやら全員、そのフライ村の出身らしい。男たちの年令は、ドーデンと同じくらいの五十がらみから、パックとほとんど変わりないくらいの若者までいる。たぶん、幼児のころ村を離れたのかもしれない。
「どうして、ゴラン皇国はそんなに税金を課すようになったんだ?」
「戦争のためだ!」
 ドーデンの顔は厳しいものになった。
「知っての通り、皇国と帝国はむかし戦争をした。その結果、皇国の領土はおおきく削られ、生き残った将軍たちは復讐を誓った。いつか帝国に宣戦布告する時節を夢見て、戦備を充実させるため、税金を重くしたのさ!」
 パックには思い当たる話しだった。アンガスの町で、皇国の軍艦を見た話をすると、ドーデン以下、全員が目を丸くした。
「それではもう、皇国は帝国に宣戦布告するつもりなのか!」
 ドーデンはうなるようにそう言うと、腕を組んだ。なにごとか考えにふけってるらしく、口をつぐんで黙り込む。
 そこへひょろりとした上背のある若者が飛び込んできた。
「ドーデンさん! 報せだ!」
「なんだ、ジャギー。なにを慌てている」
 ドーデンは物思いから我に帰り、ジャギーと呼んだ若者に目をやり口を開いた。ジャギーはドーデンの前に前のめりになって喋った。
「キャラバンだ! この近くにキャンプをしている!」
 なに! と、全員が立ち上がった。みな興奮をあらわにしていた。真ん中で燃えていた焚き火に水をかけ、靴底で踏みにじって火を消す。
 この反応に、パックは驚いた。
「出発準備だ! みんな、油断するなよ!」
 ドーデンの叫びに「おう!」と全員が叫び返した。がちゃがちゃと得物を手にし、おたがいの防具を確認しあっている。あきらかに戦闘準備だ。
 ぽかんとしているパックに、ドーデンはにやりと笑いかけた。
「皇国のキャラバンが通りかかったんだ。ひさしぶりの獲物だぜ!」
 みなうきうきしてる。
 パックの顔にドーデンは肩をすくめた。
「そう難しい顔をするな。村を追われて生きるためにはこんなことでもしなくちゃならねえ……しかし、おれたちが獲物とするのは皇国の輸送隊だけだ。かつてのおれたちのような村を襲ったことは一度もない。なに、皇国がおれたちから奪ったものを取り返すだけさ。それに、獲物の一部はおれたちのように困っている村に渡すしな」
 快活に笑うと、かれらはぞろぞろと隊伍を組んで歩き出した。なれた行動なのか、みな無言で、足音はほとんどたてない。
 パックはマリアにうなずくとムカデに乗り込んだ。スイッチをいれ、起動させる。
 前にも記したようにムカデの動力は蒸気機関が発電させた電力である。蓄電池にじゅうぶんな電力が蓄えられていれば、蒸気機関を始動させることなく、動くことが出来る。
 蓄電池だけで動くムカデは驚くほど静かに歩くことが出来る。そろそろと歩くムカデに、盗賊たちはぎょっとしたような表情を見せた。
「おいおい……そいつでついていくつもりか?」
 ドーデンは小声でささやいた。
「いいだろ。あんたらの戦いぶりを見てみたいから……」
 パックも小声でささやき返した。ちっ、とドーデンは舌打ちをしたが、追い返す様子はなかった。ジャギーに声をかける。
「おいジャギー。案内してやれ」
「お、おれがあれに乗るのかい?」
「そうだ、さっさと乗れ」
 ドーデンにうながされ、ジャギーはおっかなびっくりムカデに乗り込んだ。マリアが手を伸ばすと、ジャギーはびくっとなったが、それでも無言で這い上がる。両目が飛び出さんばかりに見開かれていた。
「パック様……かれらの闘いに参加するつもりですか?」
 パックの背中でマリアが尋ねる。パックはさあな、と首をふった。
 いったい自分はどうしたいのだろう?
 まあ成り行きにまかせるさ、と思った。
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