上 下
7 / 103
プロローグ

〝虚無〟との対峙

しおりを挟む
 完全な沈黙、もはや時は流れず、空間は存在しなかった。これが宇宙の終末だった。
〝虚無〟は勝利の雄叫びを上げた。
 もはや宇宙にいかなる存在もありえない。完全な終末だった。
 がニュンは残っていた。
〝虚無〟はニュンの存在に気づいた。
 空間が〝虚無〟の怒りにどよめき、きりきりとねじ曲がった。が、ニュンはもともと実体のない空間そのものだったので、まったく影響を受けなかった。
 苛立った〝虚無〟は怒りの声で空間を満たした。それは、こう叫んでいるようだった。

──お前らがいくら新たな宇宙を産み出そうと、我は必ずその宇宙を滅ぼして見せよう。宇宙に物質が存在することは許されない。永遠の無こそ、宇宙の本質なのだ!──

〝虚無〟の恫喝に、ニュンも精いっぱいの力で答えた。

──我らも必ず輪廻転生し、お前の滅びの力に対抗しよう。どんな小さな勝利でも、お前の滅びのエントロピーに勝利した時、新たな宇宙は永遠の生命を約束されるだろう──

 空間は〝虚無〟の嘲笑に振動した。

──そうか。それなら何度でも転生したお前たちを滅ぼしてやる。もし一度でも我の攻撃に勝利できれば、お前たちの宇宙は永遠の生命を得るだろう。もし、勝利できればであるがな……──

〝虚無〟との対決を終えたニュンは無限の極小の空間に潜んだ。一瞬とも、永遠とも言える時が経過した。
 ニュンが潜んだ真空の揺らぎが、次の宇宙を準備した。いわゆる〝ディラックの海〟だ。
 ニュンは自身に蓄えられたすべてのエネルギーを解放し、宇宙を産み出した。産み出された宇宙は次々とチャイルド・ユニバースを産み出し、無限の宇宙を創造した。それは無限の可能性だった。
 無限の可能性から、ニュンは一つの宇宙を選択した。ここならば、ニュンの望む知的生命を産み出す可能性が高い。
 宇宙を産み出したニュンは、ある言葉を高らかに宣言した。
「光あれ!」

 そこに光はあった。
しおりを挟む

処理中です...