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第四章
悪夢
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真兼朱美。
年齢は僕と同じ十七才。
真兼高校二年生。
クラスは違うが、僕と朱美は幼稚園からずーっと一緒に育ち、まあ俗な言い方をすれば幼友達というわけだ。
しかも許嫁。
こんな悪夢は他にない。
僕が暮らしている真兼町を逃げ出したいのは、朱美の許嫁という状況から一刻も早く脱出したいからだ。ともかく高校を卒業し、都会へ進学、あるいは就職すれば朱美から逃げ出せる。後のことは後のこと。今は大人しく真兼高校生活をやり過ごし、公明正大に真兼町を出る口実を作りたいだけだ。
朱美はぐいっと藍里に向き直り、怒鳴りつけるように命令した。
「判ったか? 流可男はオイラの許嫁だ。だから流可男を生かそうと殺そうと、オイラの勝手なんだ!」
藍里は朱美の宣言にポカンと口を開け、呆れたような声を上げた。
「生かそうと殺そうと? あなた流可男さんに何をするつもりなんです?」
朱美はニタニタ笑いを浮かべた。
「決まっているだろう。流可男は確かに具合が悪そうだ。許嫁のオイラとしては、流可男に早く元気になって貰いたいからな。オイラが特別の治療をしてやろうって話だよ!」
朱美の言葉を聞いた僕は、完全に怯え上がってしまった。
朱美が僕を治療する!
バカな!
これこそ僕の命の危機だ!
僕は藍里に訴えた。
「よせ! 藍里、僕は朱美の治療など受けたくはないぞ!」
僕の言葉に藍里はガバッと両腕を広げ、朱美から僕を守るような態勢になった。
「お帰り下さい。流可男さんに必要なのは静かな休養の時間なんです」
「何だとう……」
朱美の鼻の穴がおっ開かれ、顔面に朱が登った。たちまち臼のような巨大な顔面がゆで上がったタコのように真っ赤に染まり、蟀谷{こめかみ}にぶっ太い血管が浮き上がった。
朱美は他人から異を唱えられることが大嫌いだ。常に唯我独尊、独裁者でいることが当たり前となっている。
フーッ、フーッと鼻の穴から大きく息を吐き出し、ゴロゴロと洞窟の奥から響くような唸り声を上げた。
「そこをどけ……どかないと……」
朱美の唸り声に藍里は鋭く尋ねた。
「どうするつもり?」
藍里の問い掛けに朱美は答えず、スーッと大きく息を吸い込んだ。さらに息を吸い込み続け、制服の胸がみるみる膨らんだ。
わっ!
僕は次に起こる出来事に備え、無意識に両腕で自分の耳を押さえていた。
藍里は僕の様子に予感を覚えたのか、何度も僕と朱美を見返していた。
遂に朱美の口が開いた。
ゴーッという、ジェット機の爆音のような強烈な音が朱美のカッと開かれた口から解き放たれた。
実際、この時の朱美の叫び声はジャンボジェットのエンジン音より、はるかに巨大だったろう。
狭い保健室が朱美の叫び声にガタガタと振動し、窓ガラスが一枚残らず細かな破片となって飛び散った。天井に設置された照明もポンと大きな音を立てて弾け、ばらばらと落下した。
ハリケーンのような突風が巻き起こり、カーテンを引きちぎり、保健室の棚を一つ残らず倒してしまった。
朱美の叫び声に真正面に向かい合っていた藍里の髪の毛がブワッと逆立ち、まるで列車と衝突したように空中に浮かび上がった。おそらく朱美の叫び声は音速を超え、衝撃波として作用したのだろう。音速を超える空気の塊は、一種固体と同じ振る舞いをする。まさに列車か、トラックと衝突したような衝撃があったに違いない。
藍里は背後に飛び上がり、壁に叩きつけられてしまった。床にストンと落ちて、すらりとした全身が長々と伸びてしまった。
僕は叫んでいた。
「藍里! 大丈夫か?」
床にぐったりとなった藍里は、まったく答えなかった。気絶したのか?
僕は朱美の正面にいなかったのと、両耳を塞いでいたので被害は少ない。辛うじて気絶は免れたが、それでも朱美の叫び声に意識はぼうっとなり、クラクラと目の前が暗くなっていた。
朱美はぐいっと腕を伸ばし、僕の襟首をひっ掴んだ。
「来いっ、流可男。オイラがお前の風邪を治してやる!」
「い……嫌だあ……っ!」
僕は力なく悲鳴を上げていた。
凍り付くような恐怖に全身の力が抜け落ち、抵抗することも出来ず、僕は襟首を掴まれたままズルズルと朱美に引っ張られていった。
年齢は僕と同じ十七才。
真兼高校二年生。
クラスは違うが、僕と朱美は幼稚園からずーっと一緒に育ち、まあ俗な言い方をすれば幼友達というわけだ。
しかも許嫁。
こんな悪夢は他にない。
僕が暮らしている真兼町を逃げ出したいのは、朱美の許嫁という状況から一刻も早く脱出したいからだ。ともかく高校を卒業し、都会へ進学、あるいは就職すれば朱美から逃げ出せる。後のことは後のこと。今は大人しく真兼高校生活をやり過ごし、公明正大に真兼町を出る口実を作りたいだけだ。
朱美はぐいっと藍里に向き直り、怒鳴りつけるように命令した。
「判ったか? 流可男はオイラの許嫁だ。だから流可男を生かそうと殺そうと、オイラの勝手なんだ!」
藍里は朱美の宣言にポカンと口を開け、呆れたような声を上げた。
「生かそうと殺そうと? あなた流可男さんに何をするつもりなんです?」
朱美はニタニタ笑いを浮かべた。
「決まっているだろう。流可男は確かに具合が悪そうだ。許嫁のオイラとしては、流可男に早く元気になって貰いたいからな。オイラが特別の治療をしてやろうって話だよ!」
朱美の言葉を聞いた僕は、完全に怯え上がってしまった。
朱美が僕を治療する!
バカな!
これこそ僕の命の危機だ!
僕は藍里に訴えた。
「よせ! 藍里、僕は朱美の治療など受けたくはないぞ!」
僕の言葉に藍里はガバッと両腕を広げ、朱美から僕を守るような態勢になった。
「お帰り下さい。流可男さんに必要なのは静かな休養の時間なんです」
「何だとう……」
朱美の鼻の穴がおっ開かれ、顔面に朱が登った。たちまち臼のような巨大な顔面がゆで上がったタコのように真っ赤に染まり、蟀谷{こめかみ}にぶっ太い血管が浮き上がった。
朱美は他人から異を唱えられることが大嫌いだ。常に唯我独尊、独裁者でいることが当たり前となっている。
フーッ、フーッと鼻の穴から大きく息を吐き出し、ゴロゴロと洞窟の奥から響くような唸り声を上げた。
「そこをどけ……どかないと……」
朱美の唸り声に藍里は鋭く尋ねた。
「どうするつもり?」
藍里の問い掛けに朱美は答えず、スーッと大きく息を吸い込んだ。さらに息を吸い込み続け、制服の胸がみるみる膨らんだ。
わっ!
僕は次に起こる出来事に備え、無意識に両腕で自分の耳を押さえていた。
藍里は僕の様子に予感を覚えたのか、何度も僕と朱美を見返していた。
遂に朱美の口が開いた。
ゴーッという、ジェット機の爆音のような強烈な音が朱美のカッと開かれた口から解き放たれた。
実際、この時の朱美の叫び声はジャンボジェットのエンジン音より、はるかに巨大だったろう。
狭い保健室が朱美の叫び声にガタガタと振動し、窓ガラスが一枚残らず細かな破片となって飛び散った。天井に設置された照明もポンと大きな音を立てて弾け、ばらばらと落下した。
ハリケーンのような突風が巻き起こり、カーテンを引きちぎり、保健室の棚を一つ残らず倒してしまった。
朱美の叫び声に真正面に向かい合っていた藍里の髪の毛がブワッと逆立ち、まるで列車と衝突したように空中に浮かび上がった。おそらく朱美の叫び声は音速を超え、衝撃波として作用したのだろう。音速を超える空気の塊は、一種固体と同じ振る舞いをする。まさに列車か、トラックと衝突したような衝撃があったに違いない。
藍里は背後に飛び上がり、壁に叩きつけられてしまった。床にストンと落ちて、すらりとした全身が長々と伸びてしまった。
僕は叫んでいた。
「藍里! 大丈夫か?」
床にぐったりとなった藍里は、まったく答えなかった。気絶したのか?
僕は朱美の正面にいなかったのと、両耳を塞いでいたので被害は少ない。辛うじて気絶は免れたが、それでも朱美の叫び声に意識はぼうっとなり、クラクラと目の前が暗くなっていた。
朱美はぐいっと腕を伸ばし、僕の襟首をひっ掴んだ。
「来いっ、流可男。オイラがお前の風邪を治してやる!」
「い……嫌だあ……っ!」
僕は力なく悲鳴を上げていた。
凍り付くような恐怖に全身の力が抜け落ち、抵抗することも出来ず、僕は襟首を掴まれたままズルズルと朱美に引っ張られていった。
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