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第八章
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と、僕の視線が、群衆の中にあり得ない顔を見つけた!
複雑に結い上げた亜麻色の髪。ほっそりとした肢体の、女の子の顔が、僕をじーっと見詰めていた。
藍里だ……!
瞬間、周囲の騒然とした様子も、目の前で凄んでいる綿貫の存在も僕の脳裏からは消し飛んでいた。
──大丈夫、あなたは負けません──
僕を見つめ続ける藍里の視線は、そう語りかけているようだった。だけでなく、実際に僕の心に訴えかけてくる。
その時、急激に僕は危険を感じ取っていた。
無意識に視線を動かすと、綿貫がだだだっ! と小走りに駆けてきて、右腕を大きく振りかぶり、固めた拳を僕に向かって突き出すところだった。
わっ!
瞬間、僕の全身は凍り付いた!
打撃の予感に、反射的に目を閉じた。
が、いつまでたっても、予想された苦痛は襲ってこない……。
どうしたのだろうと、恐る恐る瞼を開けると、殴りかかった姿勢のまま、綿貫が静止していた。
いや、静止してはいなかった。
殴りかかる姿勢そのままに、ゆっくりと綿貫の拳が僕の顔を狙って近づいてくる。ただ、その動きが、信じられないほどゆっくりなのだ。
気が付くと光の具合が妙だった。
確か現在の時刻は昼前で、天気は晴れのはずだ。
が、どういう訳か辺りは薄暗く、どこか夕暮れのように黄色っぽい感じだった。
後で僕の視界が変化し、周囲の光が赤色方向へスペクトルがずれているせいだ、と判明するが、今の僕にはそんなことはどうでもよく、ただ危険を逃れることだけで頭がいっぱいだった。
綿貫の拳は迫ってくる。このままでは僕の左頬は確実に綿貫の拳で、打ち据えられてしまうはずだ。
僕は拳を避けるため、背筋を逸らした。
そのために綿貫の拳は、僕の顔すれすれを通過していった。
奇妙にも、僕の動きは綿貫と同じ、ゆっくりとしか動けなかった。だがゆっくりではあるが、実際には僕は綿貫の攻撃をぎりぎりで避けることが出来た!
「わあっ!」
叫び声をあげ、綿貫は振りかぶった腕の動きにだだだっ! と蹈鞴を踏んで踏みとどまった。
同時に周囲の動きが元に戻り、静寂が消し飛び「ぶっ殺せ!」「オタクを殺せ!」などの罵声が僕の耳に飛び込んできた。
「野郎……!」
憎々しい視線で綿貫は僕を睨むと、今度は足を上げ、蹴りを入れてきた。
すると綿貫の動きが急激に遅くなり、ほとんど静止しているのと同じくらいに変化した。同時に周囲の喧騒が、静寂に消えていった。
そうか……。
僕は納得した。
なぜか危険に襲われると、僕の感覚は普通より何倍も加速して対応できるようになるらしい。静寂に囲まれるのは、音の周波数が低くなりすぎ、僕の聴覚では捉えることが出来なくなるからだ。
複雑に結い上げた亜麻色の髪。ほっそりとした肢体の、女の子の顔が、僕をじーっと見詰めていた。
藍里だ……!
瞬間、周囲の騒然とした様子も、目の前で凄んでいる綿貫の存在も僕の脳裏からは消し飛んでいた。
──大丈夫、あなたは負けません──
僕を見つめ続ける藍里の視線は、そう語りかけているようだった。だけでなく、実際に僕の心に訴えかけてくる。
その時、急激に僕は危険を感じ取っていた。
無意識に視線を動かすと、綿貫がだだだっ! と小走りに駆けてきて、右腕を大きく振りかぶり、固めた拳を僕に向かって突き出すところだった。
わっ!
瞬間、僕の全身は凍り付いた!
打撃の予感に、反射的に目を閉じた。
が、いつまでたっても、予想された苦痛は襲ってこない……。
どうしたのだろうと、恐る恐る瞼を開けると、殴りかかった姿勢のまま、綿貫が静止していた。
いや、静止してはいなかった。
殴りかかる姿勢そのままに、ゆっくりと綿貫の拳が僕の顔を狙って近づいてくる。ただ、その動きが、信じられないほどゆっくりなのだ。
気が付くと光の具合が妙だった。
確か現在の時刻は昼前で、天気は晴れのはずだ。
が、どういう訳か辺りは薄暗く、どこか夕暮れのように黄色っぽい感じだった。
後で僕の視界が変化し、周囲の光が赤色方向へスペクトルがずれているせいだ、と判明するが、今の僕にはそんなことはどうでもよく、ただ危険を逃れることだけで頭がいっぱいだった。
綿貫の拳は迫ってくる。このままでは僕の左頬は確実に綿貫の拳で、打ち据えられてしまうはずだ。
僕は拳を避けるため、背筋を逸らした。
そのために綿貫の拳は、僕の顔すれすれを通過していった。
奇妙にも、僕の動きは綿貫と同じ、ゆっくりとしか動けなかった。だがゆっくりではあるが、実際には僕は綿貫の攻撃をぎりぎりで避けることが出来た!
「わあっ!」
叫び声をあげ、綿貫は振りかぶった腕の動きにだだだっ! と蹈鞴を踏んで踏みとどまった。
同時に周囲の動きが元に戻り、静寂が消し飛び「ぶっ殺せ!」「オタクを殺せ!」などの罵声が僕の耳に飛び込んできた。
「野郎……!」
憎々しい視線で綿貫は僕を睨むと、今度は足を上げ、蹴りを入れてきた。
すると綿貫の動きが急激に遅くなり、ほとんど静止しているのと同じくらいに変化した。同時に周囲の喧騒が、静寂に消えていった。
そうか……。
僕は納得した。
なぜか危険に襲われると、僕の感覚は普通より何倍も加速して対応できるようになるらしい。静寂に囲まれるのは、音の周波数が低くなりすぎ、僕の聴覚では捉えることが出来なくなるからだ。
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