キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~

万卜人

文字の大きさ
80 / 103
第八章

加速

しおりを挟む
 と、僕の視線が、群衆の中にあり得ない顔を見つけた!
 複雑に結い上げた亜麻色の髪。ほっそりとした肢体の、女の子の顔が、僕をじーっと見詰めていた。
 藍里だ……!
 瞬間、周囲の騒然とした様子も、目の前で凄んでいる綿貫の存在も僕の脳裏からは消し飛んでいた。

──大丈夫、あなたは負けません──

 僕を見つめ続ける藍里の視線は、そう語りかけているようだった。だけでなく、実際に僕の心に訴えかけてくる。
 その時、急激に僕は危険を感じ取っていた。
 無意識に視線を動かすと、綿貫がだだだっ! と小走りに駆けてきて、右腕を大きく振りかぶり、固めた拳を僕に向かって突き出すところだった。

 わっ!

 瞬間、僕の全身は凍り付いた!
 打撃の予感に、反射的に目を閉じた。
 が、いつまでたっても、予想された苦痛は襲ってこない……。
 どうしたのだろうと、恐る恐る瞼を開けると、殴りかかった姿勢のまま、綿貫が静止していた。
 いや、静止してはいなかった。
 殴りかかる姿勢そのままに、ゆっくりと綿貫の拳が僕の顔を狙って近づいてくる。ただ、その動きが、信じられないほどゆっくりなのだ。

 気が付くと光の具合が妙だった。
 確か現在の時刻は昼前で、天気は晴れのはずだ。
 が、どういう訳か辺りは薄暗く、どこか夕暮れのように黄色っぽい感じだった。
 後で僕の視界が変化し、周囲の光が赤色方向へスペクトルがずれているせいだ、と判明するが、今の僕にはそんなことはどうでもよく、ただ危険を逃れることだけで頭がいっぱいだった。
 綿貫の拳は迫ってくる。このままでは僕の左頬は確実に綿貫の拳で、打ち据えられてしまうはずだ。
 僕は拳を避けるため、背筋を逸らした。
 そのために綿貫の拳は、僕の顔すれすれを通過していった。
 奇妙にも、僕の動きは綿貫と同じ、ゆっくりとしか動けなかった。だがゆっくりではあるが、実際には僕は綿貫の攻撃をぎりぎりで避けることが出来た!

「わあっ!」
 叫び声をあげ、綿貫は振りかぶった腕の動きにだだだっ! と蹈鞴を踏んで踏みとどまった。
 同時に周囲の動きが元に戻り、静寂が消し飛び「ぶっ殺せ!」「オタクを殺せ!」などの罵声が僕の耳に飛び込んできた。
「野郎……!」
 憎々しい視線で綿貫は僕を睨むと、今度は足を上げ、蹴りを入れてきた。
 すると綿貫の動きが急激に遅くなり、ほとんど静止しているのと同じくらいに変化した。同時に周囲の喧騒が、静寂に消えていった。

 そうか……。

 僕は納得した。
 なぜか危険に襲われると、僕の感覚は普通より何倍も加速して対応できるようになるらしい。静寂に囲まれるのは、音の周波数が低くなりすぎ、僕の聴覚では捉えることが出来なくなるからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...