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世之介の変身
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どこまで真っ直ぐ伸びる道路を、世之介たちの二輪車が快調に飛ばしている。しかし、単調な景色が続く旅に、世之介はやや飽き飽きしてきた。
ぼんやりしていると、うとうとと眠くなってくる。
出し抜けに音楽が鳴り響き、世之介は驚いて回りを見回す。
♪Get your motor runnin!
♪Head aut on the highway!
歌詞は英語だった。少なくとも、そう聞こえる。内容はさっぱり判らないが、ひどく音量が大きく、怖ろしく粗っぽい歌い方であった。
「な、なんだっ!」
「目が覚めた?」
隣の茜が、含み笑いをして話し掛けて来た。
「二輪車で遠征するときは、今こうやって聞こえている音楽を鳴らすのが決まりなんだ!」
二輪車には、音楽を鳴らす装置が組み込まれているらしい。
世之介の聞いているのは『ステッペン・ウルフ』の『ワイルドに行こう!(Born to be wild)』であった。
だが、この曲が使用された「イージー・ライダー』という二十世紀の映画など、見たこともない世之介には、初めて聞く音楽である。
格乃進の側車で座っている光右衛門は顔を顰めていた。
「何だか、荒々しく、好ましくない楽曲ですなあ! 歌なら小唄や、端唄の類はないのですかな?」
「知らない、そんなの!」
茜は光右衛門のぼやきに呆れて叫び返した。
イッパチが調子に乗る。
「ご隠居様! 一つ、あっしが小粋なところを披露いたしましょうか? 何、こう見えても、あっしは寄席で前座を務めていたこともござんして、都々逸くらいならお手のものでさあ!」
「イッパチ、やめておけ!」
世之介はイッパチを制止した。世之介の言葉に、イッパチは「へえ」と首を竦めて見せる。
世之介も荒々しさは感じていたが、それほど好ましくないとは思わない。むしろ、今の世之介の気分にぴったりだと思った。〝伝説のガクラン〟を身につける以前なら、光右衛門に同意したろうが、今の世之介は、これくらい粗っぽい調子の歌のほうが、好ましかった。
我知らず、世之介は茜の流している音楽に合わせ、全身で拍子を取っている自分に気付く。
道路の右に、今まで見たことの無い建物が近づいてくる。番長星で見た建物は、毒々しい原色に塗られ、派手派手しい看板が掲げられた自己の存在を思い切り主張しているのが普通だったが、近づいてくる建物は無愛想な立方体で、やや灰色に近い白に塗られ、看板の類は何一つ見当たらない。
「なんだい、ありゃ?」
世之介が指先を上げて示すと、茜は首をかしげた。
「あれは〝工場〟よ」
「工場? 何を作っているんだ」
「知らない」
茜の答は素っ気ない。まるきり関心がなさそうだった。
しかし、二人の遣り取りに、光右衛門はひどく興味を持ったらしく、身を乗り出して話し掛けてきた。
「茜さん、後学のため、見学などできませんでしょうか?」
意外な光右衛門の言葉に、茜は首をねじ向け、唇を丸く窄めて見せた。
「そりゃ、まあ……。別に構わないけど」
世之介は二輪車の向きを、前方の〝工場〟へと変えた。さて、何が光右衛門の興味を引いたのだろうか。
ぼんやりしていると、うとうとと眠くなってくる。
出し抜けに音楽が鳴り響き、世之介は驚いて回りを見回す。
♪Get your motor runnin!
♪Head aut on the highway!
歌詞は英語だった。少なくとも、そう聞こえる。内容はさっぱり判らないが、ひどく音量が大きく、怖ろしく粗っぽい歌い方であった。
「な、なんだっ!」
「目が覚めた?」
隣の茜が、含み笑いをして話し掛けて来た。
「二輪車で遠征するときは、今こうやって聞こえている音楽を鳴らすのが決まりなんだ!」
二輪車には、音楽を鳴らす装置が組み込まれているらしい。
世之介の聞いているのは『ステッペン・ウルフ』の『ワイルドに行こう!(Born to be wild)』であった。
だが、この曲が使用された「イージー・ライダー』という二十世紀の映画など、見たこともない世之介には、初めて聞く音楽である。
格乃進の側車で座っている光右衛門は顔を顰めていた。
「何だか、荒々しく、好ましくない楽曲ですなあ! 歌なら小唄や、端唄の類はないのですかな?」
「知らない、そんなの!」
茜は光右衛門のぼやきに呆れて叫び返した。
イッパチが調子に乗る。
「ご隠居様! 一つ、あっしが小粋なところを披露いたしましょうか? 何、こう見えても、あっしは寄席で前座を務めていたこともござんして、都々逸くらいならお手のものでさあ!」
「イッパチ、やめておけ!」
世之介はイッパチを制止した。世之介の言葉に、イッパチは「へえ」と首を竦めて見せる。
世之介も荒々しさは感じていたが、それほど好ましくないとは思わない。むしろ、今の世之介の気分にぴったりだと思った。〝伝説のガクラン〟を身につける以前なら、光右衛門に同意したろうが、今の世之介は、これくらい粗っぽい調子の歌のほうが、好ましかった。
我知らず、世之介は茜の流している音楽に合わせ、全身で拍子を取っている自分に気付く。
道路の右に、今まで見たことの無い建物が近づいてくる。番長星で見た建物は、毒々しい原色に塗られ、派手派手しい看板が掲げられた自己の存在を思い切り主張しているのが普通だったが、近づいてくる建物は無愛想な立方体で、やや灰色に近い白に塗られ、看板の類は何一つ見当たらない。
「なんだい、ありゃ?」
世之介が指先を上げて示すと、茜は首をかしげた。
「あれは〝工場〟よ」
「工場? 何を作っているんだ」
「知らない」
茜の答は素っ気ない。まるきり関心がなさそうだった。
しかし、二人の遣り取りに、光右衛門はひどく興味を持ったらしく、身を乗り出して話し掛けてきた。
「茜さん、後学のため、見学などできませんでしょうか?」
意外な光右衛門の言葉に、茜は首をねじ向け、唇を丸く窄めて見せた。
「そりゃ、まあ……。別に構わないけど」
世之介は二輪車の向きを、前方の〝工場〟へと変えた。さて、何が光右衛門の興味を引いたのだろうか。
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