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第二章 千変万化の魔獣
第二十六話 殺しの意志
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メロートルで帝国の兵士との交戦が始まり、両者が剣を交える。
女子供という組み合わせからか、ミーリィとポンの二人にはより刃が向く。襲い掛かってくる兵士の剣を鉄棍で弾き、その隙にポンが斬りつける。
彼女の背後に迫って剣を振り下ろす兵士に気づいたポンは、光の盾を生み出してそれを受け止める。兵士が状況を理解できずに戸惑った瞬間に光の盾を消して剣を空振らせ、隙だらけの頭に鉄棍を振り下ろして倒す。
「わたし達、結構相性いいかも!?」
ポンを一瞥してミーリィは言う。
「そんなこと言ってる暇があるならちゃんと戦え!」
どうでもいいことを言う彼女にポンは思わず怒鳴ってしまった。とはいえ、彼女は敵の攻撃をしっかりと捌いている。
「あ、危ないっ!」
倒れた仲間の隊員が三人の兵士に斬りつけられそうなところにミーリィが突っ込み、鉄棍の横薙ぎで三人を倒す。
「大丈——」
「ミーリィ!」
ポンが叫びながら近づいてくる。ミーリィが彼を見遣ると、彼の視線は彼女の前方に向いていることに気づき——
その瞬間、彼女の眼前で飛んできた砲弾が爆裂した。ポンの魔術によって直撃はしなかったものの、突然目の前で爆発と轟音が発生し、彼女は吹き飛ばされたかのように驚いて尻を激しく地面に打ち付ける。
「反逆者を殺せ————ッ!!」
その叫びと共に、別の大砲からも砲弾が発射される。砲弾は隊員を吹き飛ばすだけでなく、街を破壊し、その瓦礫の下敷きとなってしまった隊員もいる。ミーリィとポンは歯を食いしばってその光景をただ安全な場所から見ることしかできなかった。
砲弾の弾幕が止むと、兵士達は死亡を確認するように吹き飛ばされた隊員を何度も斬りつけたり、銃弾を撃ち込んだりした。それはただ死亡を確認する以上の何か——憎悪や、差別など——を感じさせるものであった。
その光景に耐えられなかったミーリィは鉄棍を構えて敵兵へと突っ込み——そこである光景が目に入って足を止めてしまった。
建物の壁が崩れたことで中が見えるようになっていたが、その建物の中には死体が積まれていた。この街の住民と思われるその死体は何の処理もされておらず、腐り、最早死ぬ前の面影を感じさせない。その周りには虫が集り、強烈な臭いが漂っている。
——罪の無い人が殺されて、こんな風になるまで苦しめられている。
それと同時に、彼女の脳裏に帝国の忌まわしき所業かいくつも過る。
その光景を、その事実を、その帝国の所業を受け、彼女の中にある感情が強く芽生える。そして彼女は——倒れた。
「ミーリィ!?」
突然倒れて気を失ったミーリィに、ポンは訳も分からず近寄って起こそうとする。何度体を揺すっても、声を掛けても、彼女は目を覚まそうとしない。
「まだ生き残りがいたか!」
——しまった!?
ポンに気づいた一人の兵士が彼に近寄って剣を振り下ろし——
「……………………?」
魔術も使わずに思わず縮こまってしまったが、彼は生きている。その状況を呑み込めずに顔を上げると——
「間一髪だったな、ポン・ゲロムス」
その言葉がミーリィが発したものでは無いということを何となく察した。しかし、そこに立っているのは、彼を守ったのは、紛れもなくミーリィであった。
彼女がポンを一瞥すると、兵士の首を掴んでいる手から冷気を相手の体内に送り、そのまま凍死させた。
「やはり、このやり方が手っ取り早い」
相手の体内に冷気を送って凍死させる——その方法があったとポンは感心した一方で、ミーリィは今まで——少なくともポンの前では——そのように冷気の魔術を使ったことが無かったので、今彼の目の前にいる存在への疑念が深まっていった。
二人に気づいた他の兵士が、彼らに近づいてくる。
「お得意の魔術を使え、幼き魔術師よ。お前と、その倒れている男だけ守ればいい」
ポンを見遣って彼女は言う。
「お、おう」
言われた通り、ポンは自分の周りに光の盾を生み出した。
兵士達は息を合わせ、同時に二人に駆け寄ってくる。その危機的状況に、しかし彼女は彼らを嘲笑うように微笑んだ。
ポンは迫ってくる兵士を眺め——そしておかしな光景が目に入った。ある兵士はその場で止まって変な踊りのような動きをし、別の兵士は逃げるように反対方向へ走っていった。そして、少し経つと兵士全員が倒れてしまった。
敵が倒れたのを確認してポンは魔術を解除する。
——何だ!? この尋常じゃない冷気は!?
一瞬で凍ってしまいそうな冷気に、彼は愕然としつつ敵が倒れた理由に納得した——この寒さなら、死んでしまう。
体を震わせ、手で体をこする彼の姿を見て、彼女は辺りをこの街一帯を包んでいた冷気を咄嗟に消す。
「魔術など久方ぶりに行使したが、体は変われど感覚は変わらないものだな」
隣で不敵に微笑んでいる彼女に、ポンは敵意を感じさせる表情で尋ねる。
「……お前、誰だ?」
「ん、ああ。至極真っ当な質問だな。安心しろ、敵では無い」
彼女は微笑んだまま続ける。そこからはやはり、ミーリィの面影は感じられなかった。
「私は『シャール・ウェイス』——この女の、殺しの意志だ」
女子供という組み合わせからか、ミーリィとポンの二人にはより刃が向く。襲い掛かってくる兵士の剣を鉄棍で弾き、その隙にポンが斬りつける。
彼女の背後に迫って剣を振り下ろす兵士に気づいたポンは、光の盾を生み出してそれを受け止める。兵士が状況を理解できずに戸惑った瞬間に光の盾を消して剣を空振らせ、隙だらけの頭に鉄棍を振り下ろして倒す。
「わたし達、結構相性いいかも!?」
ポンを一瞥してミーリィは言う。
「そんなこと言ってる暇があるならちゃんと戦え!」
どうでもいいことを言う彼女にポンは思わず怒鳴ってしまった。とはいえ、彼女は敵の攻撃をしっかりと捌いている。
「あ、危ないっ!」
倒れた仲間の隊員が三人の兵士に斬りつけられそうなところにミーリィが突っ込み、鉄棍の横薙ぎで三人を倒す。
「大丈——」
「ミーリィ!」
ポンが叫びながら近づいてくる。ミーリィが彼を見遣ると、彼の視線は彼女の前方に向いていることに気づき——
その瞬間、彼女の眼前で飛んできた砲弾が爆裂した。ポンの魔術によって直撃はしなかったものの、突然目の前で爆発と轟音が発生し、彼女は吹き飛ばされたかのように驚いて尻を激しく地面に打ち付ける。
「反逆者を殺せ————ッ!!」
その叫びと共に、別の大砲からも砲弾が発射される。砲弾は隊員を吹き飛ばすだけでなく、街を破壊し、その瓦礫の下敷きとなってしまった隊員もいる。ミーリィとポンは歯を食いしばってその光景をただ安全な場所から見ることしかできなかった。
砲弾の弾幕が止むと、兵士達は死亡を確認するように吹き飛ばされた隊員を何度も斬りつけたり、銃弾を撃ち込んだりした。それはただ死亡を確認する以上の何か——憎悪や、差別など——を感じさせるものであった。
その光景に耐えられなかったミーリィは鉄棍を構えて敵兵へと突っ込み——そこである光景が目に入って足を止めてしまった。
建物の壁が崩れたことで中が見えるようになっていたが、その建物の中には死体が積まれていた。この街の住民と思われるその死体は何の処理もされておらず、腐り、最早死ぬ前の面影を感じさせない。その周りには虫が集り、強烈な臭いが漂っている。
——罪の無い人が殺されて、こんな風になるまで苦しめられている。
それと同時に、彼女の脳裏に帝国の忌まわしき所業かいくつも過る。
その光景を、その事実を、その帝国の所業を受け、彼女の中にある感情が強く芽生える。そして彼女は——倒れた。
「ミーリィ!?」
突然倒れて気を失ったミーリィに、ポンは訳も分からず近寄って起こそうとする。何度体を揺すっても、声を掛けても、彼女は目を覚まそうとしない。
「まだ生き残りがいたか!」
——しまった!?
ポンに気づいた一人の兵士が彼に近寄って剣を振り下ろし——
「……………………?」
魔術も使わずに思わず縮こまってしまったが、彼は生きている。その状況を呑み込めずに顔を上げると——
「間一髪だったな、ポン・ゲロムス」
その言葉がミーリィが発したものでは無いということを何となく察した。しかし、そこに立っているのは、彼を守ったのは、紛れもなくミーリィであった。
彼女がポンを一瞥すると、兵士の首を掴んでいる手から冷気を相手の体内に送り、そのまま凍死させた。
「やはり、このやり方が手っ取り早い」
相手の体内に冷気を送って凍死させる——その方法があったとポンは感心した一方で、ミーリィは今まで——少なくともポンの前では——そのように冷気の魔術を使ったことが無かったので、今彼の目の前にいる存在への疑念が深まっていった。
二人に気づいた他の兵士が、彼らに近づいてくる。
「お得意の魔術を使え、幼き魔術師よ。お前と、その倒れている男だけ守ればいい」
ポンを見遣って彼女は言う。
「お、おう」
言われた通り、ポンは自分の周りに光の盾を生み出した。
兵士達は息を合わせ、同時に二人に駆け寄ってくる。その危機的状況に、しかし彼女は彼らを嘲笑うように微笑んだ。
ポンは迫ってくる兵士を眺め——そしておかしな光景が目に入った。ある兵士はその場で止まって変な踊りのような動きをし、別の兵士は逃げるように反対方向へ走っていった。そして、少し経つと兵士全員が倒れてしまった。
敵が倒れたのを確認してポンは魔術を解除する。
——何だ!? この尋常じゃない冷気は!?
一瞬で凍ってしまいそうな冷気に、彼は愕然としつつ敵が倒れた理由に納得した——この寒さなら、死んでしまう。
体を震わせ、手で体をこする彼の姿を見て、彼女は辺りをこの街一帯を包んでいた冷気を咄嗟に消す。
「魔術など久方ぶりに行使したが、体は変われど感覚は変わらないものだな」
隣で不敵に微笑んでいる彼女に、ポンは敵意を感じさせる表情で尋ねる。
「……お前、誰だ?」
「ん、ああ。至極真っ当な質問だな。安心しろ、敵では無い」
彼女は微笑んだまま続ける。そこからはやはり、ミーリィの面影は感じられなかった。
「私は『シャール・ウェイス』——この女の、殺しの意志だ」
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