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第一章 運命の人
1-18.彼の本当の目的Ⅳ
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確かにそうだ。女神のいるこの塔の警備は厚い筈だ。
ましてや、ジャスパーと密かに通じていた事が分かっているのだから、滞在期間中は尚更だろう。
アイリーンは納得して頷くと、彼は「じゃあちょっと手伝って」と引き千切ったベールをアイリーンに手渡した。
『俺とあんたは無関係じゃない。きっとそれが裏付けられる歴史が隠されている』『技術者はそれを解き明かしたくなる』
その言葉から、初めから攫う気で近付いたのだろう。とアイリーンは薄々勘付いてしまった。
「でも、私……石英樹海から出られない筈です」
ベールを結びつつ、ぽつりと言えば「んな訳ねぇだろ」とジャスパーは苦笑した。
「それを言ったら、四十年生きられる筈の俺が、この樹海に入った時点で朽ち果てる筈だからよ。先々代なんて、寿命の時は錆び付いて崩れ落ちたって言われている。骨なんか残っちゃいなかったそうだ。俺だってそうなっている筈。俺の年齢は覚えているか?」
「二十二歳……」
「正解。つまりあんたの寿命分は過ぎてる。おかしな話だろ?」
「……結果的に命に別状なかったので良かったものの、貴方は樹海に踏み入った事で自分の身が朽ち果てる事を考えませんでしたか? 本当に命を賭けてここまで来ているじゃないですか」
紛れもない事実を伝えると彼は軽く笑った。
「そりゃな。万が一の為に遺書は書いてきたけどな? それでも俺はきっと大丈夫だって思った。いや、大丈夫にさせなきゃいけねぇと思った」
どこにそんな自信があるのか。しかし、彼があまりに真っ直ぐ言うのだからと気圧されてしまう。
「どうして、そこまでして……」
ふと王位継承権の事を思い出した。
「リグ・ティーナは王位継承権が王子たちに等しくあるのですよね……その為に?」
率直に訊くと、彼は首を傾げた。
「いや? 事実俺は今の国王の息子で次男だ。けど公にされてない。公にされている次男が事実上の三男。正しい男兄弟は五人。錆の王子は短命だから王位継承権がない。生まれた時から公爵家の息子って事になっている」
つまり、存在そのものがなかった事にされているのだと。
物悲しい過去の気配にアイリーンは眉をひそめるが彼はあっけらかんとした調子だった。
「さっきも言ったが発端は自分の為だった。だけどな、あんたとやりとりしていたら、あんたも絶対に死なせちゃいけないって思ったんだよ。樹海を出た後は俺なりに責任取る気でいる。〝そうしなきゃいけない〟使命感を覚えただけ。俺は最初から、そのつもりで来た」
気取った様子もなく平坦に言われるが、今度はアイリーンが目を丸くしてしまった。
言われた言葉は酷くムズ痒い。けれど嫌な気持ちではない。むしろ温かい。
アイリーンは照れくさくなって俯いた。
*
それから幾許か。アイリーンとジャスパーは聖堂の前の石像の後ろで身をひそめていた。ジャスパーが〝楽勝〟と言った通り、全く難がなかった。
強いて言えば、塔を降りる時、ジャスパーにずっと背負われていたが、あまりの高さと不安定さに悲鳴をあげそうになった事くらいだろう。
その他といえば、確かに見回りをしている神官もいたが、塔を降りる時の恐怖に比べれば怖いものなど何もなかった。
ましてや、ジャスパーと密かに通じていた事が分かっているのだから、滞在期間中は尚更だろう。
アイリーンは納得して頷くと、彼は「じゃあちょっと手伝って」と引き千切ったベールをアイリーンに手渡した。
『俺とあんたは無関係じゃない。きっとそれが裏付けられる歴史が隠されている』『技術者はそれを解き明かしたくなる』
その言葉から、初めから攫う気で近付いたのだろう。とアイリーンは薄々勘付いてしまった。
「でも、私……石英樹海から出られない筈です」
ベールを結びつつ、ぽつりと言えば「んな訳ねぇだろ」とジャスパーは苦笑した。
「それを言ったら、四十年生きられる筈の俺が、この樹海に入った時点で朽ち果てる筈だからよ。先々代なんて、寿命の時は錆び付いて崩れ落ちたって言われている。骨なんか残っちゃいなかったそうだ。俺だってそうなっている筈。俺の年齢は覚えているか?」
「二十二歳……」
「正解。つまりあんたの寿命分は過ぎてる。おかしな話だろ?」
「……結果的に命に別状なかったので良かったものの、貴方は樹海に踏み入った事で自分の身が朽ち果てる事を考えませんでしたか? 本当に命を賭けてここまで来ているじゃないですか」
紛れもない事実を伝えると彼は軽く笑った。
「そりゃな。万が一の為に遺書は書いてきたけどな? それでも俺はきっと大丈夫だって思った。いや、大丈夫にさせなきゃいけねぇと思った」
どこにそんな自信があるのか。しかし、彼があまりに真っ直ぐ言うのだからと気圧されてしまう。
「どうして、そこまでして……」
ふと王位継承権の事を思い出した。
「リグ・ティーナは王位継承権が王子たちに等しくあるのですよね……その為に?」
率直に訊くと、彼は首を傾げた。
「いや? 事実俺は今の国王の息子で次男だ。けど公にされてない。公にされている次男が事実上の三男。正しい男兄弟は五人。錆の王子は短命だから王位継承権がない。生まれた時から公爵家の息子って事になっている」
つまり、存在そのものがなかった事にされているのだと。
物悲しい過去の気配にアイリーンは眉をひそめるが彼はあっけらかんとした調子だった。
「さっきも言ったが発端は自分の為だった。だけどな、あんたとやりとりしていたら、あんたも絶対に死なせちゃいけないって思ったんだよ。樹海を出た後は俺なりに責任取る気でいる。〝そうしなきゃいけない〟使命感を覚えただけ。俺は最初から、そのつもりで来た」
気取った様子もなく平坦に言われるが、今度はアイリーンが目を丸くしてしまった。
言われた言葉は酷くムズ痒い。けれど嫌な気持ちではない。むしろ温かい。
アイリーンは照れくさくなって俯いた。
*
それから幾許か。アイリーンとジャスパーは聖堂の前の石像の後ろで身をひそめていた。ジャスパーが〝楽勝〟と言った通り、全く難がなかった。
強いて言えば、塔を降りる時、ジャスパーにずっと背負われていたが、あまりの高さと不安定さに悲鳴をあげそうになった事くらいだろう。
その他といえば、確かに見回りをしている神官もいたが、塔を降りる時の恐怖に比べれば怖いものなど何もなかった。
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