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第二章 偽りの感情

2-10.苛烈告白Ⅰ

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 吹き抜けに吊された百合の花を逆さにしたようなシャンデリアは来た時も見たが、きっと掃除しづらいだろう。
 だが、塵一つ溜まっていない。また、階段に敷かれたマラカイトグリーンのカーペットもくすんでいない。

 ジャスパー本人は古びた屋敷と言ったが、隅々まで手入れが行き届いている事が目に見て分かる。

「あまり身構えなくて良いと思う。俺がどうにかするから心配するな」

 前を歩む彼に言われて、アイリーンは慌てて視線を戻した。

「いいか。何を言われても、アイリーンは自分が悪いだの絶対に言うなよ? それだけは約束してくれ。俺の計算じゃ明らかに俺とあんたが有利になる」

 ジャスパーは立ち止まるなり、後ろのアイリーンを見てニマリと笑む。

「約束できるな?」

 念を押すように言うのでアイリーンは自然と頷いた。

 しかし有利になるとは……。
 ジャスパーは何を企んでいるのだろう。それでもきっと、彼が手に持つ鞄の中に何か秘されているのだろうとは想像できた。

 言われたからには守る他ない。そして彼を信じる以外に道はない。アイリーンは意を固めて先を歩み始めたジャスパーの後を追った。

 それから間もなく。応接間に着くとジャスパーは叩扉もせずにドアを引く。

「またせたな」

 軽い調子で言って部屋に入る彼の後を付いて行けば、即座に鋭い視線がアイリーンに突き刺さった。

 案の定リーアムの恐ろしい形相だった。
 サーシャは顔色一つ変えずに普段通り。きっと彼女なら話せば分かるだろうとは思うが。リーアムは多分だめだ。アイリーンはまともに彼の顔を見られなかった。

 緊張の糸が再び固く結ばれる心地がする。
 恐怖、罪悪感が次々と胸の奥に疼きアイリーンは自然と俯いた。そうして、ジャスパーに促されて席に着いたと同時だった。

「……アイリーン様。貴女はこの男に何を吹き込まれて、そそのかされたのです。貴女は自分が何をしたのか分かっているのでしょうか」

 話を切り出したリーアムの声は氷のよう、刺すように冷たかった。

「それに、なぜ貴女はお顔を晒されているのですか。装束は? その装いは?」 

 切り込むように追求され、アイリーンは更に深く俯いた。

 今纏っている服は、ヴァラが用意したものだ。
 女神装束の白装束と違い、レースのふんだんにあしらわれた焦げ茶色のロングスカートに生成り色のブラウスを合わせている。着の身着のままやって来たので着替えがないのだ。折角出してくれた服に文句など言えやしない。

「これは……その……」

「何ですか? 簡潔に説明してください」

 噛みつくように言われるのでアイリーンが口籠もるが、間髪入れずに隣から呆れきった吐息が響く。

「……あんたさぁ、朝っぱらからよくもそんなに怒鳴り散らせるな。血圧は大丈夫か? 石英樹海は岩塩がよく採れるらしいからな。塩辛いものばかり食っているから血圧が高いんじゃねぇの?」

 ジャスパーは不愉快そうに鼻を鳴らすと、リーアムは更に目を尖らせた。

「元はといえば貴様の所為だろう。貴様がアイリーン様に汚い手でベタベタと触れなければこんな事にならなかった!」

「は? 何も知らずに想像だけで勝手に言うようじゃ、あんた相当のクソ野郎だな」

 ジャスパーは嫌味ったらしく唇を拉げて言う。元々言葉使いが悪いが、これまでの最上級な気がする。片眉を持ち上げて唇を拉げた表情も相まってやけに迫力があった。

 その態度に堪忍袋の緒が切れたのだろう。
 瞬く間に顔を赤くしたリーアムはテーブルを叩いて前のめりになった。
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