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第五章 願い望んだ終わる夢
5-25.願い望んだ終わる夢Ⅲ
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その途端、背中に鈍い衝撃と同時に浮遊感を覚えた。僅かに後ろに目をやると、自分にはある筈もない、錆び付いた鉄の翼が映る。
「はは、お揃いだなアイリーン。俺も人間卒業しちまったみたいだな。これじゃ飛行二輪要らねぇな」
ジャスパーはアイリーンに纏わり付く大蛇に『退け』と示唆すると、スルスルとアイリーンから離れ消え失せた。
途端に轟音が聞こえる。再び巨大クリスタルの柱は次々と出現し、金切り声をあげるアイリーンは杖を突き付けジャスパーに飛びかかった。だが、彼は彼女から杖を強引に奪うと地上に投げ捨てる。
「ずっと一緒にいる。何があってももう離さない。どんな罰が与えられても、一緒に責任取ってやる。間違った事をすりゃ叱る時だってある。だけど、拒絶なんかしないし、いつも大切に思ってる」
愛してる。そう付け添えて抱き寄せるとアイリーンの瞳が僅かに揺れた。
『それじゃあ、君の願い叶えるよ』
夜の者が告げたと同時──頭上の空に幾重にも金の幾何学模様が走り、眩い光が溢れ落ちる。それはやがて夜と青い霧を掻き消して、石英樹海全体は眩い光に包まれた。
──その罪を赦そう。今こそ再生の祝福を。
ジャスパーが最後に聞いた声は夜の者たちと別のもの。
それは厳かであって優しい女性のものだった。
※
そこはまるで女神の部屋のよう、真っ白な世界だった。
夜の者に翅を食いちぎられて記憶が消し飛んだが、最後に一瞬見えたのが幻でなければジャスパーに会えただろう。
──ずっと一緒にいる。何があってももう離さない。どんな罰が与えられても、一緒に責任取ってやる。間違った事をすりゃ叱る時だってそりゃある。だけど、拒絶なんかしないし、いつも大切に思ってる。
彼の放ったその言葉は胸の奥で響く。
自分が自我を失っている間に何が起きたのか……。
そんな風に考えていれば赤髪の少女がスッ……と現れた。
「貴女は彼に……そして大いなる者に救われたわ」
そう告げた彼女が金の杖で白い石の床を叩くと、炎が揺らぐジア・ル・トーが映された。そこには夜の者たちと随分と人間離れしてしまったおぞましい姿に変わり果てた彼と自分の成れの果てがあった。
「大いなる者とは、エルン・ジーアの王族の遠い先祖。昼の者だけでなく夜の者たちをも統べる大精霊とでも言うのだろうか」
少し掠れた声に視線を向けると、灰色髪の小柄な少女が現れた。
祈りの間で亡骸を見たのもそうだが、記憶の中で二人に既視感は充分にあった。
「アデレードと、フローレンス……? どうして……」
唖然として訊くと、彼女らは「そう」「いかにも」とそれぞれ頷く。
「……どうしてと言われてもな。お前も含め我々は皆、馬鹿姫の魂から成り立った写しだからな。統合されて魂が一つになったのだから」
フローレンスは気難しい表情でそう伝えると、アデレードは頷いた。
「そう。何が起きたかは彼女が語る通りよ」
アデレードは映し出された光景に目を細める。
天から差し込む金の光。それは樹海全体をたちまち包み込み始めた。
やがて、光が弾けるように消え失せたと同時──空が白み始める。
その途端だった。
「……ありがとう」と別の涙声が聞こえて視線を向けると、霧のようにシャーロットが現れた。
「貴女は宿命に向き合い運命を変えた。そして私の過ちを終わらせてくれた……」
彼女は瞳いっぱいに涙を溜めて『ありがとう』とアイリーンに礼を言う。
「はは、お揃いだなアイリーン。俺も人間卒業しちまったみたいだな。これじゃ飛行二輪要らねぇな」
ジャスパーはアイリーンに纏わり付く大蛇に『退け』と示唆すると、スルスルとアイリーンから離れ消え失せた。
途端に轟音が聞こえる。再び巨大クリスタルの柱は次々と出現し、金切り声をあげるアイリーンは杖を突き付けジャスパーに飛びかかった。だが、彼は彼女から杖を強引に奪うと地上に投げ捨てる。
「ずっと一緒にいる。何があってももう離さない。どんな罰が与えられても、一緒に責任取ってやる。間違った事をすりゃ叱る時だってある。だけど、拒絶なんかしないし、いつも大切に思ってる」
愛してる。そう付け添えて抱き寄せるとアイリーンの瞳が僅かに揺れた。
『それじゃあ、君の願い叶えるよ』
夜の者が告げたと同時──頭上の空に幾重にも金の幾何学模様が走り、眩い光が溢れ落ちる。それはやがて夜と青い霧を掻き消して、石英樹海全体は眩い光に包まれた。
──その罪を赦そう。今こそ再生の祝福を。
ジャスパーが最後に聞いた声は夜の者たちと別のもの。
それは厳かであって優しい女性のものだった。
※
そこはまるで女神の部屋のよう、真っ白な世界だった。
夜の者に翅を食いちぎられて記憶が消し飛んだが、最後に一瞬見えたのが幻でなければジャスパーに会えただろう。
──ずっと一緒にいる。何があってももう離さない。どんな罰が与えられても、一緒に責任取ってやる。間違った事をすりゃ叱る時だってそりゃある。だけど、拒絶なんかしないし、いつも大切に思ってる。
彼の放ったその言葉は胸の奥で響く。
自分が自我を失っている間に何が起きたのか……。
そんな風に考えていれば赤髪の少女がスッ……と現れた。
「貴女は彼に……そして大いなる者に救われたわ」
そう告げた彼女が金の杖で白い石の床を叩くと、炎が揺らぐジア・ル・トーが映された。そこには夜の者たちと随分と人間離れしてしまったおぞましい姿に変わり果てた彼と自分の成れの果てがあった。
「大いなる者とは、エルン・ジーアの王族の遠い先祖。昼の者だけでなく夜の者たちをも統べる大精霊とでも言うのだろうか」
少し掠れた声に視線を向けると、灰色髪の小柄な少女が現れた。
祈りの間で亡骸を見たのもそうだが、記憶の中で二人に既視感は充分にあった。
「アデレードと、フローレンス……? どうして……」
唖然として訊くと、彼女らは「そう」「いかにも」とそれぞれ頷く。
「……どうしてと言われてもな。お前も含め我々は皆、馬鹿姫の魂から成り立った写しだからな。統合されて魂が一つになったのだから」
フローレンスは気難しい表情でそう伝えると、アデレードは頷いた。
「そう。何が起きたかは彼女が語る通りよ」
アデレードは映し出された光景に目を細める。
天から差し込む金の光。それは樹海全体をたちまち包み込み始めた。
やがて、光が弾けるように消え失せたと同時──空が白み始める。
その途端だった。
「……ありがとう」と別の涙声が聞こえて視線を向けると、霧のようにシャーロットが現れた。
「貴女は宿命に向き合い運命を変えた。そして私の過ちを終わらせてくれた……」
彼女は瞳いっぱいに涙を溜めて『ありがとう』とアイリーンに礼を言う。
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