せっかく転生させるというのにこいつといったら

結 励琉

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第21話 天上界12日目 その1 天上界には下ネタという概念は存在しません

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「さっさと起きろ、このブタ野郎!」

 あの、モニア様、起こし方がおとといに戻っちゃったのですけど。
 昨日の朝の優しさはどこへ行ったのだろう。
 それに昨日はいきなり話を打ち切られたし。
 俺は疑問は放っておけない性分なので、やはりそこから話を始めたいところだ。

「モニア様、おはようございます。今日もどうぞよろしくお願いいたします」
「その殊勝さはかえって信頼できないんだけど。最初に言っておくけど、下ネタは禁止ですからね」
「あれ、下ネタっていう言葉をご存じということは、天上界は、下ネタという概念が存在しない退屈な世界じゃないんですね」
「天上界には下ネタという概念は存在しません。人間と話をするために、そういうものがあるってことだけ研修で教わっただけよ」

「参考までに、研修でどういう風に教わったんですか? 俺は紳士ですから、モニア様が教わったことがわかれば、それには触れないようにしますので」
「下ネタは、『下』というように、下半身に関する話ね。それでいいでしょ」
「とすると、足の指なんかの話もそうですね。モニア様も、タンスの角に足の小指をぶつけて痛くて飛び上がったりするんですか」
「神がそんなドジなことをするわけないでしょ」

「じゃあ、弁慶の泣き所って知ってます?」
「弁慶って誰のこと?」
「平安時代末期にいた武蔵坊弁慶っていう僧兵、えっと、僧兵というのはお坊さんなのに武士のように戦った人のことで、とにかく強い人だったんです。ただ、そんな弁慶にも、向こう臑という弱点があったというお話です」
「だから私は日本史Aしかやっていないから、平安時代の話なんて知らないわ」
「そうでしたね。でも、向こう臑もタンスの角にぶつけるととても痛いですよね」
「あなたタンスに何か恨みでもあるの?」

「いえ、タンスは角さえなければとても役に立つ家具なのですが。じゃあ、髀肉の嘆っていうことわざは知ってます?」
「ひにくのたん? 知らないわ」
「髀肉というのは腿の内側の肉のことで、中国の古いことわざで、長いこと戦場で馬に乗って駆け回ることがなかったので、腿に贅肉が付いてしまったことを嘆いたということが由来だそうです」
「だから私は日本史Aしかやっていないから、古い中国の話なんで知らないわ。それになんで嘆くのよ。戦場に出なくて済むならいいことじゃない」

 モニア様、日本史Aしかやっていないって、何にでも使える言い訳じゃないんですけど。
「戦いで手柄を上げて功名を立てる機会がなくて、退屈だということらしいです」
「なんて好戦的なの。そんな人間がたくさんいる世界はどうするか、考えなくてはならないわね」
「いや、俺の元いた世界はしばらく様子見って言ったじゃないですか。それにこれは大昔の話で、今はそんな人間はいな……残念ながらいなくもないですね」
 本当に地球はこれからどうなっていってしまうのだろう。

「なんか真面目に考えている風のところ恐縮だけど、足の指、脛、腿って、下から徐々に核心部分に迫ってきているのがバレバレよ」
「なんで次は腸内細菌の話をしようとしているのがわかったんですか?」
「腸内細菌?」
「ええ、腸内細菌が乱れると、トイレに行くタイミングがおかしくなったりしますよね」
 よし、うまいところに着地した。
 でも、俺、モニア様に何か聞こうと思っていたような。

 こいつ、なんでうまいこと言ったって顔をしているのかしら。
 下ネタから話がそれてよかったけど、実は私たち神もトイレには行くのだけれどね。
 そんなことにこいつに興味を持たれても困るから、それ以上は禁則事項よ。
 ちなみに禁則事項って言葉も研修で習ったわ。
 それ以上は触れられたくないときに使える、便利な言葉ね。

「で、中世ヨーロッパの家にはトイレはなかったって、どういうこと?」
「おまるで済ませていたらしいです」
「あのアヒルちゃんのやつ?」
「モニア様、なんでアヒルちゃんのおまるを知っているんですか。あれは子供のトイレトレーニング用だから、中世ヨーロッパにはなかったと思いますが」
「とにかくおまるだったのね。それで、おまるを使ったあとはどうしていたの? トイレに流していたの?」
「だからトイレ自体ないんですってば。それ以上は禁則事項です」
「なんであなたがそれを言うのよ」

「だって窓から放り投げていたなんて、レディーの前では言えませんよ」
 言ってるじゃないの。でも、想像したくない光景ね。
「じゃああなたは、転生先ではおまるを使うってことね」
「そこで、モニア様に伏してお願いがあるのですが」
 伏してお願いって、なんか殊勝過ぎて気持ち悪いわね。
 こいつが頭を下げるのは、初めて見たかもしれないわ。
「あまりいい予感はしないけど、一応聞いてあげるわ」

「せめて、トイレだけはちゃんと存在している世界に転生させていただきたいのですが。おまるを使うのは勘弁してください」
 また難しいこと言ってきたわね。
「あなた、転生モノは、ラノベやアニメでよく知っているって言ってたわね。中世ヨーロッパのトイレ事情なんて、先刻承知なんじゃなかったの」
「それが、トイレ描写のある作品ってあんまりないんです。あったとしても、ちゃんと個室のトイレがあることになっていたりします」

「確かに、ファンタジー作品でトイレ描写をしても面白くないかもしれないわね。でも、銃や大砲はないのに、トイレがあるって世界があるかどうかわからないわ」
「古代ローマには水洗トイレがあったそうですよ」
「だから私は日本史Aしかやっていないから……」
 あ、こいつ、またっていう目で私を見たわね。日本史Aは学ぶ時代の範囲が狭い分、ひとつひとつの内容が深いんだからね!

「というのはおいといて、なんで古代ローマにあったトイレが、中世ヨーロッパでなくなったのよ」
「わかりません。ていうか、神様が俺たちの世界の文明の発展度合いを、しっかりチェックしていればよかったんじゃないですか」
「私たちのせいだって言うの? 創造担当も人員が限られているので、よっぽどのことがない限り介入はできないわ」
「介入してくださいよ。というと、トイレのある世界は難しいですか。そこをなんとか、なんとかお願いします」
 あ、こいつ、いきなり土下座してきたわ。
 いやあの、土下座されても困るんですけど。
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