男が希少種ってマ?

黒井白馬

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第1章 - 6歳の章

19. Side 東春美:外出警護任務

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 裕太様が初めて外出なさる。
 当初の予定通り、私達の隊は裕太様の警護を努めた。


『たいちょー。6時方向に二人、ゆっぴの残り香嗅ごうとしてるよー』

 裕太様と綾様の近くに隠れて張り付いている姫原から、無線で報告が入る。
 彼女は隠密行動が得意なので、余程のことでもない限り警護員と悟られることはない。
 ギャルっぽい態度は軽薄そのもので、バインバインの体型は決して運動任務に向いているとは思えないが、仕事はきっちりこなす女だ。

 見れは、彼女の報告どおり、20代中盤くらいの女性が二人、中腰になりながら裕太様の6m後ろを尾行していた。
 我々の警護網のギリギリ外にいる辺り、かなり勘の働く連中だ。
 行動的にも年齢的にも分別はあるみたいなので、直ちに排除する必要はないが、警戒は必要だろう。
 姫原に「了解」と返して、監視を強化する。


『16番カメラに一人、ずっとゆうたんを目で追っている女を発見。9時方向、距離8』

 偽装指揮車両の中に残った栗林から、無線で報告が入る。
 サイバー戦の専門家である彼女は、モールの監視カメラにアクセスして広範囲を警戒してくれている。
 オタク気質で根暗に見えるが、仕事への熱意と技術の高さは全警護員の中でもトップクラスだ。

 見れば、彼女の報告どおり、裕太様の真左8mのところに居る30代中盤の女性が、血走った目で裕太様を見つめていた。
 あのくらいの年齢になると、女性は妊娠願望が爆発する。
 それに伴って男性への渇望も極めて激しくなるので、暴走の可能性が高く、かなり危険な年齢層と言える。
 ……これは、何らかのアクションを取ってくるかもしれないな。
 栗林に「了解」と返して、すぐさま無線で裕太様に指示を出す。

「裕太様。周囲に見せつけるように大きく微笑んでください」
『うん』

 私の指示の意図を理解しているのか、それとも訳を聞くまでもない程こちらを信頼してくれているのか。
 恐らくは前者だろう。
 裕太様は綾様と並んで歩きながら、燦然と輝くような笑みを堂々と周囲に振りまいた。
 その効果は抜群。
 裕太様のことを血走った目で見ていた女性が、「ちっ」と舌打ちして去っていった。

 流石は裕太様。
 惚れ惚れするような笑顔だ。
 普通の男性なら、あのような笑みを公共の場で見せることはほぼ無い。
 そんな常識の裏を突いた撹乱行動だ。
 裕太様の堂々たる振る舞いのお陰で、相手に裕太様が女児であると勘違いさせることができた。
 こんなことを言うのは失礼かもしれないが、警護員として本当に仕事がしやすい。


 そうこうしていると、裕太様と綾様が衣料品店に入った。
 同僚たちに指示を出す。

「パターンA3。
 姫原と宮野は、客を装って裕太様と共に入店。
 戸田と天堂は、入り口付近で退路を確保。
 栗原は、引き続きモールの監視システムとネットのモニタリング。
 私は、2階から全体の監督と群衆の流動分析だ」
『ん』
『ゴホン』
『ぁぃ』
『んっんん』
『了解』

 偽装指揮車両の中にいる栗原以外の全員が、不自然にならないよう咳払いや小声の返事で了解を示す。
 栗原は普通に返事したが、カタカタというキーボードを叩く音は途絶えていない。
 彼女は監視カメラだけでなく、ネット掲示板やSNSの監視もしている。
 裕太様を男性だと見抜いた誰かが裕太様のことをネットに書き込んでいないか、常に見張っているのだ。

 店に入って僅か2分弱。
 姫原から小声の報告が入った。

『黒髪の店員』

 普段はチャラい話し方の姫原だが、任務中は事務的な口調になる。
 目を凝らして店内を見れば、裕太様と綾様を担当していた店員が、裕太様に怪しげな視線を向けていた。

『コード・イェロー』

 姫原のその一言で、一気に緊張感が高まる。
 コード・イェロー。
 その意味は、「男性疑惑」。
 つまり、黒髪の店員は裕太様を男性だと疑っている、ということ。

『コード・イェロー確認』

 同じく店内にいる宮野からも、姫原の報告を肯定する通信が入る。
 これでコード・イェローは確定となる。

『店員がゆうたんを試着室に連れて行こうとしてる!』

 店内にいて詳細な報告ができない姫原と宮野の代わりに、店内の監視カメラをモニタリングしている栗林が店内の詳細状況を報告してくる。
 これは一大事だ。
 このまま裕太様が店員の誘導に乗って試着室になど行こうものなら、「コード・イェロー」が「コード・レッド」になる。
 つまり、「性別露見男性バレ」という最悪の事態だ。
 すぐに裕太様に警告と指示を出さねば。

「店員に性別がバレている可能性があります。どうかそのままその場で着替えてください」

 正直、滅茶苦茶な指示だと自分でも思う。
 男性バレを避けるために公衆の面前で着替えさせるなど、本末転倒もいいところだろう。
 これでは、閃光弾で目をやられないよう先に目を潰しておけ、と言っているようなものだ。
 裕太様からすれば、理不尽極まりない指示である。

 だが──

『大丈夫です。面倒くさいんで、ここでいいです』

 無線からそんな裕太様の声が聞こえた。
 かと思うと、あろうことか、裕太様は本当にその場で服を脱ぎだしたのだ。

 ちょっ、裕太様!
 それは流石に大胆すぎますって!
 服の上から試着するだけでいんですって!
 ああ、愛らしいお腹が丸見えに!
 薄ピンクの乳首もかわいい!
 あ、ツルツルの脇見えた!
 ダメ! 半ズボンまで脱ぐのはダメ!
 あああああ!
 真っ白な太ももが!
 パンツがちょっと食い込んでる可愛いお尻がががが!

『うぇっ!?』
『…………っ!?』

 無線から、姫原の驚嘆と宮野の無言の悲鳴が聞こえる。
 あの姫原が任務中にあんな間抜けな声を出すなんて、初めてだ。
 宮野も、息が止まっているのが分かる。
 おかげで、私も正気に戻り……もとい落ち着くことができた。

『むっふぉぉぉぉぉゆうたんprpr!!』

 栗林め。
 車の中で人目がないからって、全力の奇声を上げる馬鹿がいるか。
 ……いたわ。
 幸い、私以外の無線は裕太様には聞こえないようになっているので、彼女たちの名誉は無事だ。

『え、ちょっ、どうなってんの?』
『状況報告を求めます!』

 店の外でブラつくフリをして退路を確保していた戸田と天堂から通信が入る。
 店外にいた二人は裕太様の着替えが見えていなかったらしく、酷く焦れている。
 哀れな……。
 あとで監視映像を見せてやろう。
 どうせ栗林が保存しているだろうし。

 あ、栗林には監視映像の私的利用はしないよう、釘を差しとかないと。
 普段の裕太様の生活映像ならともかく、着替えシーンは完全にアウトだ。
 個人用記録デバイスなんかにバックアップしようものなら、男性保護法違反で即逮捕である。
 私は、同僚を犯罪者にはしたくない。
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