婚約破棄を申し込まれたので快諾したら、信じられないとばかりに逆ギレされました。

香取鞠里

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 いつまでこのような生活が続くのだろう。
 私はそんな内に秘めた想いとともに重いため息を吐き出す。
 その時、ドアがノックされて一瞬身を強張らせる。
 外を見ると、この屋敷の護衛のジルと私の侍女のマリーで、私は思わずホッとした。

「クレア様、お茶を一緒にどうですか?」
「じゃあいただこうかしら」

 マリーとジルとともにお茶を嗜む。
 唯一、私がホッとできる時間かもしれない。

 侯爵令嬢の私、クレアは、今、婚約者である公爵家の子息のマークと同棲している。
 昨年、私が十六歳のときに突如決まった婚約だったことから、正式に結婚する前にお互いを知るために始めたことだ。

 最初こそ、未来の旦那様と良好な仲を築いていきたいと思っていた。けれど、マークは違ったのだ。

 マークは最初こそ温和に私に接してくれていたが、信じられないことに、一緒に暮らし始めて3ヶ月が過ぎた頃から、私に嫌がらせをしてくるようになったのだ。

 私が何かをすれば「大したことないな」と鼻で笑い、来客があったときは「出来損ない」と蔑まれた。

 それだけでなく、すれ違い際に挨拶をしたときに故意にぶつかられたり、食事を終えて立ち上がったときに足を踏まれたりするのだ。

 まるで意味がわからなかった。

 一度、マークに「やめてほしい」と話を持ちかけたが、「どうしてそんなことを言うのだ」と非難めいた瞳で見られてしまった。

 けれど、立場上私から婚約破棄を言い渡すことはできず、まだ始まってもいない結婚生活、そしてその先に続く未来に、私は完全に失望していた。


「クレア様、大丈夫ですか?」

 そのとき、ジルに声をかけられてハッとする。
 つい、自分のつらい感情に目が向いてしまった。

「大丈夫よ。このお茶、とてもいい香りね。癒やされるわ」

「それは良かったです。このお茶は、ジルさんが選んでくれたんですよ」

 侍女のマリーが説明すると、ジルは少し照れくさそうに頭を掻く。

「ええ。少しでもクレア様の心を癒やすことができたのならこれ以上のものはありません」

 ジルが微笑んでクレアの方を見たとき、ドアの外が騒がしくなる。
 こちらに近づく足音に思わず身がこわばったのと同時、バンっという音とともにドアが開かれた。

 マークだ。
 思わず手が震えて、カップを置くときにガチャンと音が立ってしまった。

「マーク様!?」
「マーク様、どうされましたか!?」

 もう一人の屋敷の護衛とともに、マークがズカズカとクレアの部屋に入ってくる。

 驚くジルとマリーの言葉には何かを返すことなく、マークは私の前のテーブルに一枚の紙を叩きつけるようにして置いた。
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