2 / 4
2
しおりを挟む
「これにサインしろ」
「え……っと。これは?」
見ると、私はどうやらマークに婚約破棄を申し込まれているようだ。
「お前との婚約を破棄したいんだ」
「本当ですか!?」
今のは聞き間違いだろうか?
「ああ。一度で聞けよな」
どうやら、本当のようだ。
見る限り、公爵家の正式な婚約破棄の書面のようだ。
やっと……!
やっと、マークから開放される!!
結婚することなく、婚約破棄を今、ここでできるのならば、本望だ!!
嬉しい! 嬉しすぎる!!
歓喜で叫びそうになる気持ちをグッと堪えて、私は迷いなく書面にサインをした。
公爵家からの婚約破棄の申し出なら、少なくとも私たちに責任はない。
違約金なども払うことなくこの婚約を破棄するには、これ以上のチャンスはない!!
マークの気が変わらないうちにサインしてしまいたい。
けれど、私はあくまで婚約を破棄される側だ。あまりにも喜んでいては不自然に見えるだろうから、私はその気持ちはグッと奥に押し留めてサインを終える。
すると、どういうわけか、頭上からチッとマークが舌打ちする音が聞こえた。
「……は? 何でサインすんだよ」
同時に、苛立ったような低い声が降ってくる。
「マーク様がサインしろとおっしゃられたので……」
私は少し警戒気味にマークを見上げる。
嬉しい気持ちは表に出さないようにしていたが、隠しきれない喜びが滲んでしまっていただろうか。
「そうじゃない! お前は俺との婚約を破棄したいのか!? 俺と結婚できなくなってもいいのかって聞いてんだよ!!」
「う……っ」
その時、頭に血の上ったマークが私の胸ぐらをつかみ、無理矢理に立たせる。
「クレア様……っ!?」
すると、私の侍女のマリーが悲鳴のような声を上げる。
いつも、マークからの暴行や誹謗中傷はマリーのいないところで隠れて行われていたのだから、マークが威圧的なことを知っていても、ここまで私にすると思っていなかったのだろう。
「お前にとって、俺との婚約は、そんな簡単に破棄できるものだったのか!?」
「……はい。マーク様も私との婚約は破棄されたかったのですよね? どうしてそれほどまでにお怒りになるのですか?」
「ふざけるな! 俺は、お前を手に入れたくて、俺がどれほど努力したか……っ。お前を手に入れたくて、婚約することで侯爵家との関係が良くなるように持ちかけていたのに……っ」
「え……?」
マークの言葉に、思わず戸惑った。
そんなに私のことを手に入れたいと思っていると感じるような待遇をされたことがなかったからだ。
「それなのに、やっと婚約者になって一緒に住むことになっても、全くこちらになびきもしない。そりゃあ腹も立つだろ。押してダメなら引いてみろ的な感じになるだろ。それなのにお前は……」
こちらを見るマークの瞳はまるで狂気じみていて、内心引いた。
「え……っと。これは?」
見ると、私はどうやらマークに婚約破棄を申し込まれているようだ。
「お前との婚約を破棄したいんだ」
「本当ですか!?」
今のは聞き間違いだろうか?
「ああ。一度で聞けよな」
どうやら、本当のようだ。
見る限り、公爵家の正式な婚約破棄の書面のようだ。
やっと……!
やっと、マークから開放される!!
結婚することなく、婚約破棄を今、ここでできるのならば、本望だ!!
嬉しい! 嬉しすぎる!!
歓喜で叫びそうになる気持ちをグッと堪えて、私は迷いなく書面にサインをした。
公爵家からの婚約破棄の申し出なら、少なくとも私たちに責任はない。
違約金なども払うことなくこの婚約を破棄するには、これ以上のチャンスはない!!
マークの気が変わらないうちにサインしてしまいたい。
けれど、私はあくまで婚約を破棄される側だ。あまりにも喜んでいては不自然に見えるだろうから、私はその気持ちはグッと奥に押し留めてサインを終える。
すると、どういうわけか、頭上からチッとマークが舌打ちする音が聞こえた。
「……は? 何でサインすんだよ」
同時に、苛立ったような低い声が降ってくる。
「マーク様がサインしろとおっしゃられたので……」
私は少し警戒気味にマークを見上げる。
嬉しい気持ちは表に出さないようにしていたが、隠しきれない喜びが滲んでしまっていただろうか。
「そうじゃない! お前は俺との婚約を破棄したいのか!? 俺と結婚できなくなってもいいのかって聞いてんだよ!!」
「う……っ」
その時、頭に血の上ったマークが私の胸ぐらをつかみ、無理矢理に立たせる。
「クレア様……っ!?」
すると、私の侍女のマリーが悲鳴のような声を上げる。
いつも、マークからの暴行や誹謗中傷はマリーのいないところで隠れて行われていたのだから、マークが威圧的なことを知っていても、ここまで私にすると思っていなかったのだろう。
「お前にとって、俺との婚約は、そんな簡単に破棄できるものだったのか!?」
「……はい。マーク様も私との婚約は破棄されたかったのですよね? どうしてそれほどまでにお怒りになるのですか?」
「ふざけるな! 俺は、お前を手に入れたくて、俺がどれほど努力したか……っ。お前を手に入れたくて、婚約することで侯爵家との関係が良くなるように持ちかけていたのに……っ」
「え……?」
マークの言葉に、思わず戸惑った。
そんなに私のことを手に入れたいと思っていると感じるような待遇をされたことがなかったからだ。
「それなのに、やっと婚約者になって一緒に住むことになっても、全くこちらになびきもしない。そりゃあ腹も立つだろ。押してダメなら引いてみろ的な感じになるだろ。それなのにお前は……」
こちらを見るマークの瞳はまるで狂気じみていて、内心引いた。
61
あなたにおすすめの小説
王太子殿下の拗らせ婚約破棄は、婚約者に全部お見通しです
星乃朔夜
恋愛
王太子殿下が突然の“婚約破棄宣言”。
しかし公爵令嬢アリシアの返答は、殿下の想像の斜め上だった。
すれ違いからはじまる、恋に不器用な王太子と
すべてお見通しの婚約者の、甘くて可愛い一幕。
「君が大嫌いだ」といったあなたのその顔があまりに悲しそうなのは何故ですか?
しがわか
恋愛
エリックと婚約発表をするはずだったその日、集まった招待客の前で言われたのは思いがけないセリフだった。
「君が大嫌いだった」
そういった彼の顔はなぜかとても悲しそうだった。
哀しみにくれて帰宅した私は妹に悲嘆を打ち明ける。
けれど妹はあの日から目を覚まさないままで——。
何故彼は私を拒絶したのか。
そして妹が目覚めない理由とは。
2つの答えが重なるとき、2人はまた1つになる。
絶縁状をお受け取りくださいませ旦那様。~離縁の果てに私を待っていたのは初恋の人に溺愛される幸せな異国ライフでした
松ノ木るな
恋愛
アリンガム侯爵家夫人ルシールは離婚手続きが進むさなかの夜、これから世話になる留学先の知人に手紙をしたためていた。
もう書き終えるかという頃、扉をノックする音が聞こえる。その訪ね人は、薄暗い取引で長年侯爵家に出入りしていた、美しい男性であった。
『婚約破棄はご自由に。──では、あなた方の“嘘”をすべて暴くまで、私は学園で優雅に過ごさせていただきます』
佐伯かなた
恋愛
卒業後の社交界の場で、フォーリア・レーズワースは一方的に婚約破棄を宣告された。
理由は伯爵令嬢リリシアを“旧西校舎の階段から突き落とした”という虚偽の罪。
すでに場は整えられ、誰もが彼女を断罪するために招かれ、驚いた姿を演じていた──最初から結果だけが決まっている出来レース。
家名にも傷がつき、貴族社会からは牽制を受けるが、フォーリアは怯むことなく、王国の中央都市に存在する全寮制のコンバシオ学園へ。
しかし、そこでは婚約破棄の噂すら曖昧にぼかされ、国外から来た生徒は興味を向けるだけで侮蔑の視線はない。
──情報が統制されている? 彼らは、何を隠したいの?
静かに観察する中で、フォーリアは気づく。
“婚約破棄を急いで既成事実にしたかった誰か”が必ずいると。
歪んだ陰謀の糸は、学園の中にも外にも伸びていた。
そしてフォーリアは決意する。
あなた方が“嘘”を事実にしたいのなら──私は“真実”で全てを焼き払う、と。
バカ二人のおかげで優秀な婿と結婚できるお話
下菊みこと
恋愛
バカ二人が自滅するだけ。ゴミを一気に処分できてスッキリするお話。
ルルシアは義妹と自分の婚約者が火遊びをして、子供が出来たと知る。ルルシアは二人の勘違いを正しつつも、二人のお望み通り婚約者のトレードはしてあげる。結果、本来より良い婿を手に入れることになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!
黒うさぎ
恋愛
公爵令嬢であるレイシアは、第一王子であるロイスの婚約者である。
しかし、ロイスはレイシアを邪険に扱うだけでなく、男爵令嬢であるメリーに入れ込んでいた。
レイシアにとって心安らぐのは、王城の庭園で第二王子であるリンドと語らう時間だけだった。
そんなある日、ついにロイスとの関係が終わりを迎える。
「レイシア、貴様との婚約を破棄する!」
第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
【短編】側室は婚約破棄の末、国外追放されることになりました。
五月ふう
恋愛
「私ね、サイラス王子の
婚約者になるの!
王妃様になってこの国を守るの!」
「それなら、俺は騎士になるよ!
そんで、ラーニャ守る!」
幼馴染のアイザイアは言った。
「そしたら、
二人で国を守れるね!」
10年前のあの日、
私はアイザイアと約束をした。
その時はまだ、
王子の婚約者になった私が
苦難にまみれた人生をたどるなんて
想像すらしていなかった。
「サイラス王子!!
ラーニャを隣国フロイドの王子に
人質というのは本当か?!」
「ああ、本当だよ。
アイザイア。
私はラーニャとの婚約を破棄する。
代わりにラーニャは
フロイド国王子リンドルに
人質にだす。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる