最後に君が笑ってくれたら、それでいい

香取鞠里

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 *

 夜の学校は、昼間とは別世界だった。  
 文化祭の残り火がまだ少し灯っていて、提灯の明かりが揺れていた。

 校舎の裏、物置の影。  
 悠斗くんはすでに待っていた。

「来てくれたんだな」

「うん……何?」

 彼は少し照れくさそうに頭を掻いた。

「実はさ、俺、来月から海外に行くんだ」

「……え?」

「親の仕事の都合で。アメリカの学校に編入する」

 頭が真っ白になった。

「だから……今日でおしまいな」

 おしまい。

 その言葉が、胸に突き刺さった。

「彼女とは?」

「別れた。今日の昼に」

「どうして……」

「俺、お前のこと、ずっと気になってた。  
 でも、彼女ができた時、お前が笑顔で祝福してくれたから……俺、踏み出せなかった」

 涙がまた溢れた。

「バカ……そんなの、知らなかったよ」

 悠斗くんは苦笑した。

「俺もバカだよ。  
 最後にちゃんと伝えたかったけど、タイミング逃して……」

 彼はポケットから小さな箱を出した。  
 開けると、中にシルバーのネックレス。  
 シンプルな星のペンダント。

「これ、お前にやる。  
 海外行っても、夜空見上げたら俺のこと思い出せよ」

 私は震える手で受け取った。

「ありがとう……」

「泣くなよ。笑え」

 私は必死で笑おうとした。  
 でも、涙で顔がぐちゃぐちゃだった。

 悠斗くんは優しく笑った。  
 少し寂しそうで、でもすごく優しかった。

「最後に君が笑ってくれたら、それでいい」

 その言葉が、胸に残った。

 彼は私の頭をくしゃっと撫でて、  
「じゃあな。元気でな」

 背中を向けて歩き出した。

 私は追いかけなかった。  
 追いかけたら、もっと辛くなると思ったから。

 最後に見た悠斗くんの笑顔は、  
 少しだけ寂しそうで、でもすごく優しかった。

 星のネックレスを握りしめて、私は呟いた。

「またね……悠斗くん」

 文化祭の夜は、静かに終わった。

(終)
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