魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

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第六章 黒手の殺人鬼 ~許認可申請~

殺人現場と唯一の証拠

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 すでに日は沈みかけ、
 空は陰気な群青色に染まっていた。
 ルロイは急いで市庁舎の方角へ
 と走っている。
 もし、自分の突飛な推測が万に一つでも
 合ったっていたとするなら、
 止めることができるかもしれない。
 街角にはいまだに数人の憲兵たちが立ち、
 公示鳥がけたたましく飛び交い
 戒厳令は解除されてはいない様子だった。
 概ね暴動は鎮圧できたのか、
 怒号や悲鳴が聞こえることはなく、
 何人かの騒動に加わった冒険者たちが
 憲兵に取り囲まれ見せしめの様に
 道路の隅でお縄になって
 固まっているのだった。
 メインストリートを北上し、
 そろそろマイラーノ大橋が見えてくる
 頃合いになって、徐々に人だかりが
 増えルロイの行く手を阻むのだった。

「まさか……」

 メリーダ河の南岸に野次馬が
 たくさん詰めかけていた。
 ルロイが人だかりをかき分けて
 対岸の光景を見たときに
 嫌な予感は的中した。

「おい、見ろよあれ!」

「そんな……し、市庁舎が燃えてる!」

「マーノは参事会まで
 殺っちまったのかよ!」

 暗くなった群青色の空と河面が、
 燃え盛る炎によって
 勢いよく朱に染められてゆく。
 堅牢かつ荘厳なレッジョの
 行政の中枢である
 市庁舎が炎に包まれている。
 それは、夜の帳が降りかかった
 レッジョに突如として現れた
 不思議なほど雄大で
 絵画のように奇妙な光景であった。

「これからレッジョは
 どうなっちまうんだ!」

 メリーダ河の南岸に集まった
 有象無象の人々も、あまりの光景に
 固唾を飲んで見守るしかない様子でいた。

「くそっ、遅かったか……」

 ルロイは歯を食いしばり被っていた
 革帽を地面に叩きつける。
 程なくして騒ぎを聞きつけた
 憲兵たちが群衆を押しのけながら、
 マイラーノ大橋へなだれ込んでいった。
 各地での暴動が収まったかと思いきや、
 それらがことごとく陽動で本拠地を
 叩かれていることを悟ったらしい。
 各地に散った憲兵隊は大急ぎで
 踵を返して市庁舎を襲った賊の
 討伐に向かうのだった。
 こうなってはもう市庁舎に
 近づくどころではない。
 すべて無駄だったかと、
 無念の面持ちで革帽を拾い上げ
 ルロイは事務所へ戻ろうとした
 その時だった。

「――――あれは、ディエゴ?」

 ちょうどメリーダ河南岸の
 河沿いの道から
 裏路地へと逃げ惑う群衆の中に、
 ディエゴと思しき人影が、
 冒険者風の男たちの中に
 垣間見えた気がした。
 その全員が何か重い荷物を
 抱え込んでいるようであった。
 ルロイは無意識にその人影を追って
 裏路地へと全力で走り込んでいった。
 もっとも、裏路地の中に入るや
 その見覚えのある人影に
 追いつくどころか、
 見つけ出すことさえできず、
 ルロイは早くも手がかりを見失った。
 しかし、幸か不幸かルロイの耳は
 静まり返った裏路地の入り組んだ
 建物の間から微かな物音を拾っていた。
 石畳の上を複数人の駆け足が
 乱雑に叩く音。そして続いて――――

「なんだ、これは、金属がぶつかる音?
 いや、まさか……」

 不穏な音はすぐに止んでしまった。
 ルロイはケープを腕に巻き付け、
 護身用のチンクエデアを抜き出し、
 音がした方角へ慎重に足を運んでゆく。
 古びたレンガの建物の角を曲がった時、
 ようやく先ほど何があったのか
 ルロイは嫌でも理解する。

「これは……」

 瞬間、本能的に口と鼻を手で押さえる。
 角を曲がり切ったその先で、
 うっかりその中の一体を
 踏みつけてしまった。
 独特の鉄臭さと、
 暗がりの中で転がる胴体を
 鋭い手刀で貫かれたいくつもの死体、
 その中にひどく見覚えのある顔があった。

「あなたは――――」

 まさかこんな形で再開を遂げるなど
 夢にも思っていなかった。
 だが、その衝撃よりもルロイの視線は
 別のものへ釘付けにされていた。
 それは、すぐそばの犠牲者の死体から
 流れる血を啜ってより赤黒く
 その身を染めていた。
 後に、ルロイはこの時とった
 迅速な行動を思い起こすたび、
 我ながら信じがたい事だと思うのだった。
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