魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

文字の大きさ
68 / 86
第八章 ダンジョンに種付けおじさん ~特別の損害~

種付けおじさんの名は

しおりを挟む
「逃がさんで!」

 種付けおじさんも未だ
 炎の中でのたうつスパルトイを
 どうにかするため
 コントロールの効かない
 この二体を再びただの骸と
 植物の塊に戻し、
 祭壇から飛び降りルロイを追撃する。

「まだ、終わりじゃない……」

 今は時間稼ぎに逃げるのが上策だった。
 わき腹の傷口を抑えながら
 歯を食いしばって通路を逃げる。
 点火した枝を松明代わりにしつつ
 植物のカーテンに火をつけながら
 時間稼ぎをする。
 考えろ、
 何か見落としていることがあるはずだ。
 種付けおじさんの名前。
 プログレッシオの能力。
 あの時のディエゴの証言。
 ウェルスの使徒たるルロイの
 プロバティオにせよ発動させるには
 条件やタブーがある。
 プロバティオの例で言えば、
 公証する相手方の本名を知った上で、
 問いかけたい内容を何かに筆記し
 その文言をウェルスの御名において
 詠唱することでようやく発動できる。
 相手の本名と実際の過去に行った
 相手の行為が一致することで
 プロバティオは発動するとも言え、
 うっかり同姓同名の別人などに
 プロバティオを掛けてしまっても
 発動はしない。ちなみにタブーは
 質問したい相手に自分が嘘を答えると
 その人物へプロバティオを
 掛けられなくなる。
 では、種付けおじさんの
 プログレッシオの能力はどうか?
 あらかじめ種付けおじさんの
 テリトリーに誘き寄せられたとは言え、
 あれだけの能力を駆使するためには
 まだクリアしなければならない条件か、
 あるいは守らなければならない
 タブーがあるとみて良い。
 修行をする行者が肉食や
 酒を断ったりするのと同じである。
 あるいは、部族社会のシャーマンなり
 戦士が神と崇める動物の一部、
 それと似せた仮装をすることで
 守護霊なりトーテムなりの力を
 得るというシャーマニズムの例を
 持ち出して考えるのも何か
 ヒントがあるかもしれない。
 種付けおじさんの本名を巡る
 ディエゴの証言がもとから嘘であり
 プロバティオの能力を持つ、
 ルロイを罠にはめるための
 入れ知恵ならば、
 もはや手がかりはゼロ。
 いや、スペルマの使徒として
 種付けおじさんが
 プログレッシオの能力を
 発動するにあたり自らの名前を
 変えなければならないとしたら……
 そこまでルロイが考え至った刹那。
 ある推論が閃く。
 つまり、名は体を表す。
 そのことわざの逆も
 また然りなのではないか?

 瞬間、首筋に鋭く重い
 手刀の一撃が――――

「うぁ……」

 背後に回られていた上、
 まったく気配も動きも見えなかった。
 危うく気を失いそうになる。

「種付けおじさんたるわしの本気を
 舐めて貰ってはこまるで。
 本気にさせた兄ちゃんが悪いんや
 ……拘束せい」

 ルロイは力なく地面に突っ伏し、
 同時に地面から新しく爆ぜた誕生した
 スパルトイに手足を拘束される。

「まーったく、手こずらせてくれよるのう。
 しかしもう鬼ごっこは終わりや」

 種付けおじさんがしゃがみ込み
 ルロイに残忍な笑みを浮かべる。
 そして、またしても
 臭そうな地下足袋から
 ミツダケを一本出し甘く囁く。

「さあ、公証人の兄ちゃんも
 わしのマツタケなしでは
 生きれん体になるんや」

「そんな臭そうなマツタケは御免ですね」

 スパルトイに、組み敷かれ
 床に突っ伏していながらも
 ルロイは闘志をむき出しにして吠える。

「おうおう、今のうちに喚いておけや。
 で、他に何か言っておきたい事は
 あるんか?」

 今になって、
 何か決定的なものにルロイは気が付く。

「そうですね、何故あなたはその身に
 足袋しか付けていないのか
 聞いてもいいですか?」

「なんや、わしのイチモツから下が
 そんなに気になるんか?
 ウェルスの使徒は
 下らん事気にするの~
 まぁええわ……」

 気が付かれないよう、
 ゆっくりとペンと証書に手を伸ばす。

「生命と種付けの神
 スペルマの御名のもとに
 プログレッシオを使うにあたり
 防具など邪道なんやで。
 成長を司る力を扱うには
 ほぼ生まれた姿で
 あることがもっとも相応しいのや!
 足袋だけで充分。
 むしろこれこそわしの本質なんや!」

「足袋一丁の、その姿こそ
 スペルマの徒たる姿だと?」

「然りやで!!」

 種付けおじさんは勝利の笑顔を浮かべる。
 同時にルロイの中である疑問が氷解する。
 ルロイは最後の力を振り絞って
 声を震わせる。
 同時に最後の力を振り絞って
 スパルトイの拘束を撥ね退ける。

「種付けおじさんの名は!」

 永遠とも思える刹那、
 種付けおじさんから初めて
 口元から笑みを消した。

「タビ・フリードマン」

 ルロイは既に先ほど書いた証書の
 名前の部分だけを訂正して書き直した。

「真実を司りしウェルスの御名のもとに汝、
 タビ・フリードマンに問う。
 アシュリーとの契約を反故にした理由は
 ミツダケ高騰の特別の事情を
 予期できたからであるか?」

 種付けおじさんの顔が蒼白になる。
 部族社会の中には特定の動植物を
 部族の象徴として崇め、
 その力を得るため
 その動植物の仮面を付けたり、
 毛皮を纏ったりすることで
 トーテムの力をえるとする信仰がある。
 同じく、種付けおじさんの
 あの足袋しかつけない
 変態的ないでたちがもし、
 プログレッシオの能力を
 引き出す一つの条件であり、
 種付けおじさんの名も
 またもう一つの能力発動の
 条件だとしたら。
 先ほどの発言で、
 ルロイはそこまで推論を進めた。
 結果は――――

「どうしました、今度こそ
 黙っていれば肯定とみなしますよ」

「うぐぬ!わ……わしの名わあぁぁ!!」

 遂に、種付けおじさんが膝を地面に
 屈する。同時に、ウェルス証書が
 白く輝いた。

「そんな。わしの計画が……
 わ、わしは認めんで、こんなもん!!」

「やめろ!」

 よりにもよって錯乱した
 種付けおじさんこと
 タビ・フリードマンは、
 ルロイからウェルス証書を
 ひったくると引き裂こうと
 渾身の力を込めた。

「ぐぉらばぁ!」

 が、代わりに引き裂かれたのは
 タビの体だった。
 絶望的な絶叫とともに
 タビは鮮血を散らせ、
 白目をむきながら悶絶し
 そのまま仰向けにエビぞりになり
 失神した。
 真実の神の御名のもと著された
 ウェルス証書の内容は絶対。
 それを破ろうとすることは
 人の身に過ぎたる大逆。
 プロバティオの能力であり
 ペナルティでもある。
 天に唾すれば自分に掛かると言うが
 それを如実にしめした事例であろう。
 同時に、ルロイに覆いかぶさっていた
 スパルトイは枯れ果て土に還っていった。
 タビが気絶したことで、
 プログレッシオの能力自体が
 解除されたのだ。

「敗因を教えてあげますよ。土壇場で、
 勝利を確信し過ぎましたね……」

 自身の勝利を確かにこの目で見届け、
 ようやくこの場に駆け付けた仲間達の
 足音を聞きながらルロイは気を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...