魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙

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第八章 ダンジョンに種付けおじさん ~特別の損害~

エピローグ ルロイとアナ

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 レッジョの裁判所でもある
 ウェルス神殿にて裁判長
 フィオーレにより、
 タビ・フリードマン並びにゾーシャへの
 懲役刑の裁きが下った。
 司法当局が二人の身元を調べたところ、
 タビこそは数か月前に植物ゾンビによる
 騒動を起こしたドルップ商会を
 陰で操っていた宗教結社
 ノーヴォヴェルデの総帥であり、
 ゾーシャはその幹部であることが
 公に確認された。
 総帥であるタビの逮捕により、
 他の幹部も芋づる式に逮捕されていった。
 これによりレッジョを
 自らの教義で支配しようと
 目論んでいたノーヴォヴェルデは壊滅。
 そして、その翌日。

「あの……この間は、
 どうもありがとう……」

 アナは手料理のキッシュを
 バスケットに詰め込み、
 ルロイの事務所を訪ねていた。
 種付けおじさんこと
 タビ・フリードマンから
 救助され、あれから一週間も
 たっていないが
 アナはルロイの顔を見るのが
 随分久しぶりな気がする。
 あれから、わき腹をスパルトイに
 刺されたルロイは病院に運び込まれ、
 アナは後に駆け付けたアシュリーらと
 共に法廷での証人として出廷するなりで
 慌ただしい数日が過ぎ去っていった。
 気が付けば、アナはあれからじっくり
 ルロイと話していなのだった。

「あ……ごめんなさい。
 早くに来るべきでしたよね?」

 アナの顔を見るなりルロイは、
 難しい顔になりしばらく執務机で
 書類を書く姿勢のまま彫像のように
 固まっていた。
 挨拶が遅れたことへの不満、
 ではないだろうがアナとしては
 気まずい沈黙を自らにあると感じ
 頭を下げた。

「あ……いえ、こちらこそ、
 あの時は危ない目に合わせて
 本当になんと貴女に謝ったらいいか」

 恐縮しているアナの姿を見て、
 ルロイも呆けたように我に返り
 頭をがしがし掻きながら
 困ったように笑っている。
 アナの知るいつものルロイの顔が
 そこにある。
 思わずアナも自然と笑みを取り戻す。

「結果、無事でなんともないし、
 本当に何もされていないので」

 アナはあの日。
 ルロイと種付けおじさんの
 対決が終わり、
 ゾーシャたちを蹴散らし
 祭壇に駆け付けた
 アシュリー達によって救出された。
 アナは、アシュリーに
 叩き起こされるなり、

「大丈夫か、あのオッサンに何されたぁ!」

 と十回ほど襟首を縦に激しく
 揺さぶられ色々と
 誤解を解くのに時間が掛った気がする。

「テメェ、こんにゃろ!
 ついに強姦に殺人までやりやがって。
 ここでテメェの腐れマラ叩き潰して、
 そんで叩き斬ってからネズミの
 餌にしてやるぜぇ!!」

 アナはかすれ声で自分はなんともないと
 何度も言ったはずだが、頭に血が上った
 脳筋の耳には届かなかった模様である。
 血を流して倒れるルロイと
 縄で縛られ気を失ったアナを見て、
 アシュリーは種付けおじさんによって
 ルロイは殺され、
 アナは手籠めされたと
 勘違いしたらしい。
 なお、ウェルス証書を破ろうとした
 種付けおじさんが一番重症で、
 上半身から大量の血を流して
 気を失っていたのだが、
 後日法廷で証言するところによると
 アシュリーはまったく
 気が付かなかったらしい。

「ビビャアアアーーー!
 テメェの種付け工場本日でぇ、
 全壊ぶっ壊しぃい!!」

 アナは語気を強めて
 何もされていないと叫ぼうとしたが、
 更に戦闘で高揚し
 悪乗りしたギャリックの
 嗜虐的な雄叫びによって
 その切なる訴えはかき消されてしまった。
 その後、半殺し状態にあった
 種付けおじさんは
 アシュリーとギャリックの
 度を越したリンチにより
 全殺し状態にされるも、
 生命を司るスペルマの加護のもと
 紆余曲折を経て大復活を果たし
 めでたくお縄に付いたという。
 なお、裏切ったディエゴはというと、
 どさくさに紛れすでにその場から
 逃げ出した後だったという。
 改めて自らが気絶した後の経緯を
 アナから聞かされて、
 ルロイもまた愉快そうに笑ってみせる。
 まったく、あの人たちらしいなと。

「ロイ……傷はもう大丈夫なの?」

「ええ、幸い傷は浅かったみたいで
 仕事に支障はありません」

 心配そうなアナの声に、
 ルロイはわき腹の辺りをそっと撫でる。
 すでに傷口は縫ってあり、
 腹には包帯を巻いていつも通りの
 生活に戻っている。

「さっき、難しそうな顔してたから。
 てっきり、傷が痛むのかなって……」

 アナの言葉に、
 ルロイは再び困ったような
 ほろ苦い顔になる。

「僕なりの、せめてもの償いですかね……」

「え……?」

「随分昔、ちょうど僕が
 レッジョに来た時ですかね。
 とあるダンジョンの最奥で死の淵から
 救ってもらったことがあるんです。
 しかし、その恩人は僕を
 救ったせいで……」

「ロイ……」

 アナには、まだまだ知らないことが
 多すぎるルロイのことも、
 このレッジョのことも。
 目を伏せるアナを気遣うように
 ルロイは温かく微笑んでみせる。

「だから、嬉しかったんです。
 自分のせいで犠牲に
 なったかもしれない人が、
 確かに今健在でいてくれて。
 これが夢でなくて、
 本当によかったと……」

 やや上ずった声で
 安堵の念を吐き出すルロイを前に、
 アナもルロイの感情に
 感化されるように
 安心して笑って見せる。

「ええ、私ならちゃんとここにいるよ」

 いつか、自分にそのことをルロイが
 話してくれる日が来るのだろうか?
 そんな疑問と期待もすぐに
 アナの胸中で淡く消えた。
 ルロイが償いと言うのなら、
 自分は恩に報いるために
 まず何かをすれば良い。

「さぁ、冷めないうちにどうぞ」

「いつも助かります。
 こっちは冷めてますが
 一杯どうですか?」

 アナはバスケットのキッシュを取り出し、
 ルロイは冷めた紅茶を
 申し訳なさそうにアナに勧める。
 そう。きっと、
 人は終わらぬ限り
 明日を生き続けるのだから。
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