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第十章 背信的悪意と英雄の条件 ~背信的悪意者~
告白
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レッジョも気が付けば、
冬の季節になっていた。
レッジョの冬は湿潤で小雨霧雨が多く、
しかし雪が降り積もることは少ない。
そは言っても寒いものは寒い。
熱いお茶が是非とも欲しい
時期だというのに、
この時期レッジョでは
コブリンとスライムどもが
どこからともなく大量に発生し
遠い異国から輸入してきた
茶葉を貯蔵した港の倉庫を
台無しにしてしまったらしい。
そのせいで、ルロイは
質量ともに劣る茶葉を
高値で買う羽目になり、
いつもより侘しいティータイムを
嗜んでいるのだった。
窓から外を覗けば、
どんよりとした曇天に街には
霧が立ち込め陰鬱であるにも関わらず、
そこを行き交う冒険者や憲兵の数は
多くレッジョの大通りは騒がしい、
だがこれはいつもの
冒険者同士の乱痴気騒ぎではない。
ダンジョンからあふれ出した、
あるいはほかの地域場所から
力場のように引き寄せられた
モンスターどもが
そこかしこで湧いている。
その鎮圧のため、
レッジョの各方々で冒険者や憲兵が
駆り出されているのだった。
新たに発生したモンスター討伐のため
街の区画をせわしなく
駆け回るブーツの音。
負傷して担架がわりの粗末な
木板に運ばれる負傷者のうめき声。
遂にアレが開くときが来たことに
ルロイはとうに気が付いていた。
「あれから、ちょうど十年か……」
ルロイはティーカップを机に置き
椅子から立ち上がると、
独り言ち窓際へ歩み寄る。
十年前も、初めてレッジョに来た時も
レッジョはこんな光景が広がっていた。
いや、今回はもっと酷い有り様に見える。
心なしか負傷者が運ばれる頻度が
増えているきがするのだった。
それは、ルロイにとっての
心境の変化なのか、
それともやはり十年前のアレが
作用したせいか。
だとすれば、やはり自分の責任だ。
ルロイは窓から遥かなる階を見上げる。
曇りがかった空と霧のせいで、
塔の頂上はもちろん、
遥かなる階全体が
薄ぼんやりと見えるのみであった。
それでも時折、
塔の頂上辺りから赤紫色の稲妻が迸り、
轟音と共にレッジョの町全体を
禍々しく照らしているのだった。
遥かなる階には、
異界に繋がっているという
その最上階から封印された
大いなる扉がある。
異界から周期的な力場の変動のせいか
概ね十年に一度、
扉は一挙に押し広がり、
モンスターの活動が恐ろしく活発になる。
扉から異界のモンスターが
レッジョに侵入することもあれば、
他のダンジョンから
あふれ出てくるケース、
もともと地の底で大人しくしていた
大人しいモンスターが狂暴化して
顕出するケース。そして、厄介なことに
この開かれた扉の磁場は強力なもので、
レッジョ周辺の山や森からわざわざ
その土地のモンスターが
引き寄せられてくる
ケースさえあるのだった。
また、赤紫色の雷鳴が轟いた。
ルロイは瞬きもせず、
その雷鳴の先にあるものに
挑むような眼差しで睨みつけていた。
ようやく、ここまで来た。
ルロイ・フェヘールには、
全てはこの日のために
準備していたある計画があった。
「どうしたの、ロイ?浮かない顔して。
これ、口に合わなかった……」
事務所の奥で、
書類の整理をしていたアナが
心配そうにルロイの顔を覗き込む。
今日は今日とてアナは、
お手製ビスケットを詰め込んだ
バスケットを持って来ている。
「いえ、そんなことはありせんよ。
アナ……貴女こそ、休憩しないと
体が持ちませんよ。
ささ、休んで休んで……」
気弱ながらルロイは笑みを浮かべて、
アナを椅子に座らせる。
アナはというと、戸惑いつつも
「お言葉に甘えて」
と座り込みルロイが紅茶を注ぐ様を見て
クスクスと笑いながら
安堵のため息を漏らす。
アナがこの事務所に来て半年は立つ。
短い付き合いかもしれないが、
いつかは来るであろうこのことを
なぜかルロイの側から切り出せずにいた。
アナが冷めた紅茶を飲み干し、
溜まった疲れを吐き出すかのように
リラックスして息を吐き出す。
ルロイは少し間をおいて口を開いた。
「アナ、実は大事な話があるんです」
「何ですか改まって?」
アナは、カップの底に残った
薄味の紅茶を見つめながら
何かに期待を込めた眼差しのまま
ルロイの言葉を待っていた。
「短い間でしたがお世話になりました。
貴女に事務所の庶務雑務を頼むは
今日限りにしたいのです」
あくまで感情を押し殺すように、
ルロイが冷徹に言い切る。
「いきなり、何を言っているの……?」
「本当に……済みません」
突然のことに悲痛な声を
上げるアナを前にしても
ルロイは僅かばかりも動揺せず、
代わりに苦痛が増したように
額にしわを寄せ深く目を閉じるのだった。
「もっと早くに言っておくべきでした。
僕はいずれ……いや、今この時をもって
遥かなる階へ、
行かなければならないんですよ。
それを今まで貴女に黙っていた事が、
唯一の僕にとっての後悔です」
「どうしても……?」
ルロイは決意のこもった目で
アナを見据えたまま、
無言でただ力強く頷くのみだった。
しばらくの無言の間、
ようやくアナがルロイの決意が
自分が出会うはるか以前
からであると悟り、
混乱した様にルロイの眼差しから、
目を背けた。
が、それも一瞬のことでアナは
生来の気丈さをすぐに取り戻し
ルロイの双眸をまた見つめ直した。
「でも、どうして……
せめて、その理由を……」
「こんな自分にも、
かつて夢があったんです」
「夢?」
「ええ、かつて僕が夢と
野望を抱き得たころの意地。
というより、後始末ですかね」
ルロイがほろ苦く語り間を置き、
アナの表情が変化した。
「もしかして、あの時ロイが
話してくれた恩人の……」
アナに心中を当てられたルロイは、
悲しみを漂わせ弱々しく微笑む。
「少し長い昔話になってしまいますが……」
改めて思い返せば長い話になる。
自分が今闘わんとする理由を語るには、
彼と共にここまで歩んできた
全てを話さねばなるまい。
冬の季節になっていた。
レッジョの冬は湿潤で小雨霧雨が多く、
しかし雪が降り積もることは少ない。
そは言っても寒いものは寒い。
熱いお茶が是非とも欲しい
時期だというのに、
この時期レッジョでは
コブリンとスライムどもが
どこからともなく大量に発生し
遠い異国から輸入してきた
茶葉を貯蔵した港の倉庫を
台無しにしてしまったらしい。
そのせいで、ルロイは
質量ともに劣る茶葉を
高値で買う羽目になり、
いつもより侘しいティータイムを
嗜んでいるのだった。
窓から外を覗けば、
どんよりとした曇天に街には
霧が立ち込め陰鬱であるにも関わらず、
そこを行き交う冒険者や憲兵の数は
多くレッジョの大通りは騒がしい、
だがこれはいつもの
冒険者同士の乱痴気騒ぎではない。
ダンジョンからあふれ出した、
あるいはほかの地域場所から
力場のように引き寄せられた
モンスターどもが
そこかしこで湧いている。
その鎮圧のため、
レッジョの各方々で冒険者や憲兵が
駆り出されているのだった。
新たに発生したモンスター討伐のため
街の区画をせわしなく
駆け回るブーツの音。
負傷して担架がわりの粗末な
木板に運ばれる負傷者のうめき声。
遂にアレが開くときが来たことに
ルロイはとうに気が付いていた。
「あれから、ちょうど十年か……」
ルロイはティーカップを机に置き
椅子から立ち上がると、
独り言ち窓際へ歩み寄る。
十年前も、初めてレッジョに来た時も
レッジョはこんな光景が広がっていた。
いや、今回はもっと酷い有り様に見える。
心なしか負傷者が運ばれる頻度が
増えているきがするのだった。
それは、ルロイにとっての
心境の変化なのか、
それともやはり十年前のアレが
作用したせいか。
だとすれば、やはり自分の責任だ。
ルロイは窓から遥かなる階を見上げる。
曇りがかった空と霧のせいで、
塔の頂上はもちろん、
遥かなる階全体が
薄ぼんやりと見えるのみであった。
それでも時折、
塔の頂上辺りから赤紫色の稲妻が迸り、
轟音と共にレッジョの町全体を
禍々しく照らしているのだった。
遥かなる階には、
異界に繋がっているという
その最上階から封印された
大いなる扉がある。
異界から周期的な力場の変動のせいか
概ね十年に一度、
扉は一挙に押し広がり、
モンスターの活動が恐ろしく活発になる。
扉から異界のモンスターが
レッジョに侵入することもあれば、
他のダンジョンから
あふれ出てくるケース、
もともと地の底で大人しくしていた
大人しいモンスターが狂暴化して
顕出するケース。そして、厄介なことに
この開かれた扉の磁場は強力なもので、
レッジョ周辺の山や森からわざわざ
その土地のモンスターが
引き寄せられてくる
ケースさえあるのだった。
また、赤紫色の雷鳴が轟いた。
ルロイは瞬きもせず、
その雷鳴の先にあるものに
挑むような眼差しで睨みつけていた。
ようやく、ここまで来た。
ルロイ・フェヘールには、
全てはこの日のために
準備していたある計画があった。
「どうしたの、ロイ?浮かない顔して。
これ、口に合わなかった……」
事務所の奥で、
書類の整理をしていたアナが
心配そうにルロイの顔を覗き込む。
今日は今日とてアナは、
お手製ビスケットを詰め込んだ
バスケットを持って来ている。
「いえ、そんなことはありせんよ。
アナ……貴女こそ、休憩しないと
体が持ちませんよ。
ささ、休んで休んで……」
気弱ながらルロイは笑みを浮かべて、
アナを椅子に座らせる。
アナはというと、戸惑いつつも
「お言葉に甘えて」
と座り込みルロイが紅茶を注ぐ様を見て
クスクスと笑いながら
安堵のため息を漏らす。
アナがこの事務所に来て半年は立つ。
短い付き合いかもしれないが、
いつかは来るであろうこのことを
なぜかルロイの側から切り出せずにいた。
アナが冷めた紅茶を飲み干し、
溜まった疲れを吐き出すかのように
リラックスして息を吐き出す。
ルロイは少し間をおいて口を開いた。
「アナ、実は大事な話があるんです」
「何ですか改まって?」
アナは、カップの底に残った
薄味の紅茶を見つめながら
何かに期待を込めた眼差しのまま
ルロイの言葉を待っていた。
「短い間でしたがお世話になりました。
貴女に事務所の庶務雑務を頼むは
今日限りにしたいのです」
あくまで感情を押し殺すように、
ルロイが冷徹に言い切る。
「いきなり、何を言っているの……?」
「本当に……済みません」
突然のことに悲痛な声を
上げるアナを前にしても
ルロイは僅かばかりも動揺せず、
代わりに苦痛が増したように
額にしわを寄せ深く目を閉じるのだった。
「もっと早くに言っておくべきでした。
僕はいずれ……いや、今この時をもって
遥かなる階へ、
行かなければならないんですよ。
それを今まで貴女に黙っていた事が、
唯一の僕にとっての後悔です」
「どうしても……?」
ルロイは決意のこもった目で
アナを見据えたまま、
無言でただ力強く頷くのみだった。
しばらくの無言の間、
ようやくアナがルロイの決意が
自分が出会うはるか以前
からであると悟り、
混乱した様にルロイの眼差しから、
目を背けた。
が、それも一瞬のことでアナは
生来の気丈さをすぐに取り戻し
ルロイの双眸をまた見つめ直した。
「でも、どうして……
せめて、その理由を……」
「こんな自分にも、
かつて夢があったんです」
「夢?」
「ええ、かつて僕が夢と
野望を抱き得たころの意地。
というより、後始末ですかね」
ルロイがほろ苦く語り間を置き、
アナの表情が変化した。
「もしかして、あの時ロイが
話してくれた恩人の……」
アナに心中を当てられたルロイは、
悲しみを漂わせ弱々しく微笑む。
「少し長い昔話になってしまいますが……」
改めて思い返せば長い話になる。
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