放課後、君の知らない顔

二酸化炭素を吸う人

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馴れ初め編

届きそうで届かない

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放課後の屋上
風が少し強くなりはじめた夕方。陽翔は、いつものように屋上へ向かった。
蓮はすでにベンチに座り、空を見上げている。制服のシャツの裾が風に揺れていた。
陽翔はそっと歩いて、隣に腰を下ろす。
ふたりの間に、微かな沈黙。
だけど、居心地は悪くない。
むしろ、その静けさが、陽翔の胸をチクチクと刺激する。
(.....もう、こんなふうに誤魔化して笑ってるの、やめたい。あの夜、“好き“って言ったくんが、本心だったのか知りたい。本当のこと、ちゃんと.....聞きたい)
陽翔は、そっと口を開いた。
「ねえ、蓮くん」
蓮は、かすかに顔を向ける。
「....ん?」
「この間さ、風邪のとき....僕、ちょっとだけお見舞いに行ったの、覚えてる?」
連は視線をそらして、曖昧に笑う。
「まあ.....なんとなく、夢みたいだったけどな。」
陽の手が、ぎゅっと膝の上で握られた。
(....逃げようとしてる。でも.....僕、もう逃げないって決めたんだ)
「....あのとき、蓮くん、僕の手、掴んだよね。」
蓮の肩がぴくりと揺れる。
「それから、”陽翔”って呼んで、”好き”って....」
その言葉に、蓮は明確に反応した。顔を赤くし、目を伏せて、小さく呟く。
「....あー、あれか。あー.....あれな、熱でうなされてただけだろ。よくある夢の中の....ってやつ。」
〔嘘だ。ほんとは、全部覚えてる。お前の手の温度も、声も.....好きだって言ったとき、泣きそうだった自分も。でも一一怖い。それを”本気”にした瞬間、何かが壊れてしまいそうで〕
陽翔は静かに、言葉を選びながら話す。
「....そうだよね。蓮くんらしい。きっと、そういうふうに言うと思ってた。」
でもその声は、どこか寂しげだった。
(本当に、全部”なかったこと”にするんだね。
僕がこんなに、あの言葉を支えにしてたこと....蓮くんは、知らないんだ)
陽翔は、膝の上にあった手をゆっくり伸ばして、蓮の指先に触れた。
蓮は反射的に引っ込めてしまう。
「....つ、ごめん。」
陽翔が手を引っ込めると、蓮が慌てて声を出した。
「..違う、そうじゃない。ただ...オレ、そういうの慣れてなくて....」
〔バ力か、オレ。お前を傷つけたくないのに、また傷つけて....なんで、こんなに不器用なんだよ〕
陽翔は微笑む。
ほんの少しだけ無理をした笑顔だった。
「...うん。大丈夫。蓮くん、そういう人だもんね。」でも、目は笑っていなかった。

その夜・陽翔の部屋
パッドの上、制服のままうつぶせになった陽翔は、枕に顔を押し当てていた。
(.....バカだな、僕。期待なんて、しなきやよかった。“好き”って言われたとき、嬉しくて。
だから、つい....本気で、好きになってしまったんだ)
「でも、蓮くんにとっては、ただの夢の中の戯言でしかなかった。僕は一一都合よく受け取っただけ)
静かに、涙が枕に染みていく。

その夜・蓮の部屋
ベッドの上、暗がりの天井を見上げながら、蓮は拳を握っていた。
〔.....オレが、ビビらなきや。素直に”お前のこと、本当に好きだ“って、言えてたら…あいつ、あんな顔しなかった。陽翔を.....泣かせたかもしれない。
だけど、もう後戻りできない。
次、何か言ったら一ー全部が、崩れる。〕

心の奥に、痛みが残ったまま、ふたりはそれぞれの夜を過ごしていく。
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