放課後、君の知らない顔

二酸化炭素を吸う人

文字の大きさ
8 / 12
恋人編

君が隣にいるって…

しおりを挟む
教室の窓際、いつもと同じ日差し。
でも、今日は何もかもが違って見える。
だって、僕たちはもう、恋人同士なんだから。
「.....陽翔」
小さく呼ばれて顔を上げると、隣の席に座った蓮が、教科書の影からこっちをちら、と見ていた。
表情はいつも通り。ちょっと冷めた目と、控えめな声。だけどーー
(....目が、前よりやわらかい)
それだけで心臓が跳ねる。
教室のざわめきも、先生の話も、一瞬遠くなった。
「…蓮」
〔....バカ。そういう顔、すんなって.....〕
ちらっと見た陽翔の表情が、ふわっと笑っていて、それだけで胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
〔そんな顔見たら、こっちが照れて、まともに前向けなくなる....〕
恋人になったのは、昨日の放課後。
お互いの気持ちをやっと伝え合えて、手を繋いで、名前を呼んで、抱きしめた。
....でも、今日になって、急に「日常」の中に戻ると、どう接すればいいのか分からなくなる。
「....ノート、写す?」
陽翔がふいに言った。
プリントの上に、丁寧な字で書かれたノートが差し出される。
「ありがと......」
そう言って連は受け取ったけど、手がほんの少し、触れたときにぴくっと動いたのを、陽翔は見逃さなかった。
(....やっぱ、まだ緊張してるの、僕だけじゃないんだ)
ちょっと安心する。
でもその後、蓮は照れくさそうに、そっとそっぽを向いた。
そうこれが今のふたり。
まだ名前も、学校ではちゃんと呼べない。
手を繋ぐのも、放課後の誰もいない階段くらい。
だけど。
それでも。
(....幸せだな、僕)
ほんの小さな変化でも、嬉しくて、胸がいっぱいになる。
休み時間に目が合えば、ふっと笑ってくれる。
蓮から小声で「またあとで」って言ってくれる。
それだけで。
それだけで、ずっと好きだった気持ちが、報われていくのを感じる。
一放課後。
昇降口でふたり並んで歩き出す。
「ねえ、ちょっと寄り道していかない?」
陽翔が言ったのは、川沿いの並木道。
春風がまだ少し冷たいけど、心はぽかぽかしてる。
「.....いいけど」
蓮の声は、相変わらず控えめ。でもその瞳は、どこか楽しそうだった。
歩きながら、ふたりの手が、そっと近づいていく。
でも、まだ自然には繋げなくて。
そんなふたりの空気が、くすぐったくて、幸せで、もどかしい。
〔....手、繋ぎたい〕
〔でも、向こうから来てくれないかな.....〕
(....繋いでいいかな。緊張させちゃうかな)
何度も心で逡巡する。
でも、ある瞬間、ふたりの指が、ほんの少し触れ合って、次の瞬間一ー
蓮が、そっと陽翔の小指を、絡めてきた。
びくっとする陽翔に、蓮が真っ赤な顔で呟く。
「....手、繋いでいいか.....?」
「.....うん」
手のひらが合わさる。
その温度が、こんなにも心を満たすものだったなんて。
陽翔は、握り返す手の中で、幸せがこぼれないようにそっと力を込めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

勇者パーティーを追放された「生きた宝箱」、無愛想な騎士団長に拾われて宝石のように愛でられる

たら昆布
BL
勇者パーティーを追放された魔法生物が騎士団長に拾われる話

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

処理中です...