放課後、君の知らない顔

二酸化炭素を吸う人

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恋人編

君が隣にいるって…

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教室の窓際、いつもと同じ日差し。
でも、今日は何もかもが違って見える。
だって、僕たちはもう、恋人同士なんだから。
「.....陽翔」
小さく呼ばれて顔を上げると、隣の席に座った蓮が、教科書の影からこっちをちら、と見ていた。
表情はいつも通り。ちょっと冷めた目と、控えめな声。だけどーー
(....目が、前よりやわらかい)
それだけで心臓が跳ねる。
教室のざわめきも、先生の話も、一瞬遠くなった。
「…蓮」
〔....バカ。そういう顔、すんなって.....〕
ちらっと見た陽翔の表情が、ふわっと笑っていて、それだけで胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
〔そんな顔見たら、こっちが照れて、まともに前向けなくなる....〕
恋人になったのは、昨日の放課後。
お互いの気持ちをやっと伝え合えて、手を繋いで、名前を呼んで、抱きしめた。
....でも、今日になって、急に「日常」の中に戻ると、どう接すればいいのか分からなくなる。
「....ノート、写す?」
陽翔がふいに言った。
プリントの上に、丁寧な字で書かれたノートが差し出される。
「ありがと......」
そう言って連は受け取ったけど、手がほんの少し、触れたときにぴくっと動いたのを、陽翔は見逃さなかった。
(....やっぱ、まだ緊張してるの、僕だけじゃないんだ)
ちょっと安心する。
でもその後、蓮は照れくさそうに、そっとそっぽを向いた。
そうこれが今のふたり。
まだ名前も、学校ではちゃんと呼べない。
手を繋ぐのも、放課後の誰もいない階段くらい。
だけど。
それでも。
(....幸せだな、僕)
ほんの小さな変化でも、嬉しくて、胸がいっぱいになる。
休み時間に目が合えば、ふっと笑ってくれる。
蓮から小声で「またあとで」って言ってくれる。
それだけで。
それだけで、ずっと好きだった気持ちが、報われていくのを感じる。
一放課後。
昇降口でふたり並んで歩き出す。
「ねえ、ちょっと寄り道していかない?」
陽翔が言ったのは、川沿いの並木道。
春風がまだ少し冷たいけど、心はぽかぽかしてる。
「.....いいけど」
蓮の声は、相変わらず控えめ。でもその瞳は、どこか楽しそうだった。
歩きながら、ふたりの手が、そっと近づいていく。
でも、まだ自然には繋げなくて。
そんなふたりの空気が、くすぐったくて、幸せで、もどかしい。
〔....手、繋ぎたい〕
〔でも、向こうから来てくれないかな.....〕
(....繋いでいいかな。緊張させちゃうかな)
何度も心で逡巡する。
でも、ある瞬間、ふたりの指が、ほんの少し触れ合って、次の瞬間一ー
蓮が、そっと陽翔の小指を、絡めてきた。
びくっとする陽翔に、蓮が真っ赤な顔で呟く。
「....手、繋いでいいか.....?」
「.....うん」
手のひらが合わさる。
その温度が、こんなにも心を満たすものだったなんて。
陽翔は、握り返す手の中で、幸せがこぼれないようにそっと力を込めた。
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