放課後、君の知らない顔

二酸化炭素を吸う人

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恋人編

恋人らしく、なんてまだ言えないけど

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放課後、図書室の窓際。西日が柔らかく差し込む静かな空間。
ふたりきりのその場所で、蓮はそっと陽翔の隣に腰を下ろした。
カバンの中から文庫本を取り出す。が、連の目線はページには落ちない。
ちら、と横目で陽翔を盗み見る。背もたれにゆるく体を預けて、眠たそうに目を伏せる陽翔。
こうしてふたりきりになるの、何度目だろう。
付き合ってから何日経った?一週間?二週間?
〔付き合うって、言ったけど。あのあとちゃんと手を繋いだし、次の日も目が合ったら微笑んでくれ
〔でも、キスとか、そういうの.....まだだよな。告白の時、嬉しすぎてしちゃったけど、陽翔は、どう思ってるんだろ。俺、焦りすぎ?〕
膝の上で開いた本を指でなぞりながら、蓮は小さく息を吐く。
〔なんか、恋人って、もっとこう.....わかりやすぐ"恋人”してるもんだと思ってた。手、繋いだり、抱きしめたり、名前で呼び合ったり....〕
〔でも俺たちは、今までと変わらない“友達”みたいなのに、たまに見せる陽翔の顔が、ずるくて、優しくて.....〕
蓮の鼓動が跳ねる。ふと陽翔がこちらを向いていた。ぼんやりとした目で、でも、確かに蓮を見ていた。
「なあ、蓮」
「.....ん?」
「付き合って、変わった?」
「え......?」
〔陽翔のほうから、そう聞いてくるなんて〕
(僕だって、わかってる。蓮と付き合ってるのに、今の距離はちょっと曖味だってこと。手も繋いでないし、朝の”おはよう”もぎこちない)
(でも、どこまで踏み込んでいいのかわかんなくて、ビビってる。蓮のこと、大事すぎて.....変なことしたくないんだ)
「なんか、僕さ。蓮のこと、もっと近くに感じたいって思ってるのに、どうしたらいいかわかんないっていうか.....」
蓮は驚いたように陽翔を見つめた。その瞳が、すこし潤んで見えたのは気のせいじゃない。
「俺もだよ.....」
「え?」
「俺も、陽翔のこと、好きで、そばにいたいって思ってるのに.....なにしていいのかわかんなくて、変に気を使って......」
「.....そっか」
陽翔が少し笑った。心の底から、あたたかいものが込み上げてきたように。
「じゃあさ、手、繋いでみる?」
「えっ....い、いま?」
「うん、いま」
蓮の手元で文庫本がばたんと閉じられた。陽翔がそっと手を差し出す。
震えるように蓮がその手を取り、重ねる。
ぴたりと繋がったふたりの手は、少し汗ばんで、でもどこまでも心地よかった。
(やっと、触れられた。このぬくもりが、蓮のものでつために震えてくれてて。ああ、ほんとに、好きだ…)
〔これだけで、こんなに胸がいっぱいになるなんて。手、繋ぐだけで泣きそうになるくらい嬉しいって、恋人ってすごいな〕
陽翔が、囁くように言った。
「蓮、今日うち来る?課題、しない?」
「.....うん。行く」 
その”うん”の中に、少しだけ勇気と、ほんのりと甘い期待がにじんでいた。
ふたりの手は、そのまま最後の放送が鳴るまで、解けることはなかった。
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