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第一章 勇者も魔王も老人ホーム
No.2
しおりを挟む~✳~✳~事務所にて~✳~✳
シアン「すみません!今日入居の方を迎えに来ました!」
事務員「はい。すでに入口でお待ちです。」
急いで入口に向かうとそこにはキレイに整った白髪に立派な角が生え、床まである黒く長いコートを着て⋯いるが杖をついたご老人がいた。
傍らには、同じく少し白髪で落ち着いた色のドレスを来ている年配の女性が男性を支えるようにして立っていた。
シアン「お待たせして申し訳ございません。担当させて頂くシアン・レインクレストと申します!」
年配女性「いえいえ。あらまぁ、元気なお嬢さんねぇ~」
魔王「⋯⋯ふん⋯⋯」
シアン(うっ⋯待たせすぎちゃったかな⋯怒ってるのかな⋯)
シアン「で、ではご案内します。奥様⋯?もご一緒にどうぞ。」
年配女性「ふふ、ありがとう。」
それ以上言葉を発することない魔王様⋯ヴァルグリムさんは奥様と共にゆっくり私の後ろを付いてくる。
エレベーターにのり部屋のある3階へあがる。
シアン「つきました。気をつけて降りてくださいね。」
年配女性「ありがとう。」
ヴァルグリム「⋯⋯⋯っ!!」
奥様に手を引かれエレベーターを降りたヴァルグリムさんは驚いたような声にならない声を出し一つのテーブルを見つめた。
そこには8代目勇者のセドリックさんが居たのだ。
優雅にお茶をすすりテレビを見る姿はどこにでも居る優しいおじいさん。
そしてそんなセドリックさんの所に奥様の手を振りほどき杖をつき少しふらつきながらヴァルグリムさんが向かっていった。
ヴァルグリム「き、き、貴様は!貴様は勇者セドリック!」
セドリック「うまい茶だのぅ。」
ヴァルグリム「おい!聞いてるのか貴様!」
セドリック「おや、どなたかな?」
ヴァルグリム「忘れたとは言わせんぞ!」
セドリック「なんじゃって?」
ヴァルグリム「忘れたとは言わせないぞ!!!」
シアン「ヴ、ヴァルグリムさん!お、落ち着いてください!」
慌ててヴァルグリムさんのところに駆けつけ止めに入る。
ヴァルグリム「黙っとれ小娘!」
シアン「ふぇ⋯」
あまりの迫力に思わず身をすくめてしまう。
セドリック「おや、リアンちゃんだったかな。ちょっとお手洗いに行けないかね」
シアン「あ、し、シアンです。お手洗いですね。」
ヴァルグリム「おい!話は終わってない!」
最後の言葉を言い終わるか否かの時に
セドリック「ちょっと茶を飲みすぎてのリアンちゃん」
シアン「ヴァルグリムさん、ごめんなさい。少しお待ちください。」
そして私セドリックさんをトイレまで誘導する。
一人では立位を保つことができない為便座への移動などを介助しなくてはならない。
もちろん190cmもある大柄の男性なんて小柄なシアン一人では難しい。
コールを押すと同じく日勤で勤務していたノクテリス・ズリムフォール。
この街に住む犬族の亜人で物静かであまり言葉を発しない謎めいた男性だ。
ノクテリス「おまたせしました。」
そう言うと、素早く介助をおこなっていく。
私がここにいてもすることも無いと思い一言断りを入れてホールに戻る。
そこには先程のテーブル席で奥様にまぁまぁと穏やかになだめられているヴァルグリムさんがいた。
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