勇者だって魔王だってホームに入るモン

もーそうK

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第一章 勇者も魔王も老人ホーム

No.3

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私の存在に気づいたヴァルグリムさんはまだ少し落ち着かないようで鼻息荒く私に尋ねてきた。

ヴァルグリム「あ、あの男は!?」
シアン「お、落ち着いてくださいませ、ヴァルグリムさん。」
ヴァルグリム「落ち着いていられるか!あやつにやられ我ら国がどれだけの被害を⋯」
奥様「あなた。」

ピシャリと奥様が静かにヴァルグリムさんを止めた。
あまりにも冷静な声に少し声を荒らげていたヴァルグリムさんが言葉に詰まる。

奥様「何十年も前の事ですよ。それに勇者セドリック様は我ら魔族が他種族と対話する機会を作ってくださり今の豊かな魔界になるよう導いてくれたお方。お忘れですか。」
ヴァルグリム「しかしだな⋯」
奥様「被害と申しますが、あれは最後まで勇者様達の話に聞く耳を持たず下のものに戦うことを命じ続けた貴方の責任です。
今更責任転嫁とはみっともないですよ。全く。」

呆れるようにそう言い放つ奥様。
今や伝説ともなった話だ。
かつてはいがみ合っていた各種族の対話の機会を設け、協定を結ぶきっかけを作った人物。
それが紛れもないセドリックさんなのだ。


ノクテリスに車椅子を押され、戻ってきたセドリックさん。
セドリックさんと目が合い沈黙が流れる。

セドリック「おや、そなたは魔王ヴァル⋯ヴァル⋯なんじゃったかの。あのときの魔王じゃな」
ヴァルグリム「お、覚えて」
セドリック「ヴァルグリムか」

すっと、いつも穏やかなセドリックさんの目に力が込められたのを見逃さなかった。
あぁ、これが勇者の目だ。
何年経っても変わらず力強く鋭く息を呑んでしまう。
そして名前を呼ばれた瞬間どこか嬉しそうに、まるで懐かしい旧友に会った時のように⋯まるで少年のような目の輝きをしたヴァルグリムさんがいた。

ヴァルグリム「覚えていたのか」
セドリック「かれこれもうどれくらいかの。」
そう懐かしむような二人の間の空気に今とてもすごい瞬間を目撃してるのでは?と思った。

サイラス「おーい、シアン。早く新しい入居の方を部屋へ案内⋯って何してるの」
シアン「サイラス先輩。見てください!感動の再開です!」
サイラス「感動ねぇ⋯」

セドリックの言葉以降二人は見つめ合ったまま言葉をかわさずだった。
そして、先に口を開いたのはセドリックさん。

セドリック「私のお茶をご存知ですかな?」
ヴァルグリム「は?茶だと?」
セドリック「あ~、ノラテリスさんや私のお茶はどこかね」
ノクテリス「⋯⋯あちらです」
ヴァルグリム「お、おいセドリック!」
セドリック「おや、どなたでしたかな?」
ヴァルグリム「っ⋯!」

介護をしているとよく見る光景だ。
この世界では魔法によって数多くの怪我を治すことも宮廷魔道士レベルであれば病気すら治すことも不可能ではない。
だが、怪我や病気が治り不老不死のように長く生きるものが増えてしまえば待っているのは各種族で溢れかえる世界。
数百年前にどの種族も当たり前に訪れる老いを、それに伴って現れる症状も止めてはならぬと定められていた。
そしてそれは勇者でも例外ではない。
今のこの他種族で笑い合う協定を結ぶきっかけを作った伝説の英雄も気づけば99歳。
まして人族の寿命は100歳ほどと言われている。
年老いて身体のあちこちに年相応になり、もちろん記憶力なども曖昧になり毎日のように顔を合わせる私ですら名前はうろ覚え。
はじめましての挨拶を交わさない日はない程なのだ。

シアン「⋯ヴァルグリムさん。」
ヴァルグリム「⋯なんだ」
シアン「お部屋へ案内します」
ヴァルグリム「⋯あぁ⋯」

奥様に背中を支えられるようにして共にお部屋へ向かった。
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