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懐炉

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006 記憶のランタン

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 少年の手元でくるくるキュルキュルと、棒に付いた何かが回っている。
「かざぐるまって言うんだよ」
 詩人は目をまるくしていた。雲も流れない穏やかな暮れの、なだらかに広がる草原で、止まらぬ速さのそれだけが異質に映る。
「おれ、風売り。ここに兄ちゃんの欲しいものはあるかな……」
 ひょいと降りて、椅子にしていた木箱を漁りはじめた。もう売り物じゃないからと渡されたかざぐるまを、詩人はやはりじっと見つめた。
「これは空を飛びますか」
 飛ばないよ! 風売りは笑う。

「いろいろね」
 売ってるんだ、と草むらにガラクタが転がり出す。詩人が生きるなかで出会わないものばかりだった。仕掛けのありそうな品も、重厚な装飾が施された品も、風売りの手元では軽々と扱われる。
 そのうち古びたランタンの中心に火がともると、あらゆるものから影がのびた。
 詩人はだまっていた。
 炎は煌々と揺れていた。
 ぼんやり映るが、やはり異質なものだった。

「これは空を飛びますか」
「飛ばないよ」
 すでに風売りは表情を隠さなかった。
「あのさ、なんで飛ぶと思うわけ? 羽なんて付いてないでしょ」
 そうですね、と詩人が。
「でもこの灯りが夜空に浮かんだら、綺麗だと思います」

 少年は少しの間だまっていた。
「まだ出会ったことのない美しさがあると思います」
 目蓋を閉じる。
 そうかもね、と少年が。
「風がなくても飛ばせると思う?」
「ええ。きっと」
 風羽根は四枚。
 思い出したようにくるりとまわった。


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