書いて

懐炉

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008 見えない未来へ

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箱をもらった。手のひらに収まるくらいの立方体を。
しかし開けるところが無い。
慎重に角を押さえて観察してみる。蓋になりそうな継ぎ目は、どこにも無い。
質量については何ともいえず。あるような、ないような。どうにも持て余してしまうので、耳元で軽く振ってみた。

「はあ、振るのかい」

箱をくれた相手が何ともいえない顔をする。
「振ってはいけないものなのか」
「いいや?」
相手は一言、面白いと。顎に手をやり。
書き損じて一度は丸めたが、やはり重要なものであるからと丁寧に伸ばされたような皮膚の皺、節々。それらへの短い視線も相手には見られている。
 問われる。なぜ箱を振ったのか。答える。中身を知りかったから。
 問われる。箱の中身は重要だと思うか。答える。外から確かめられない限りは重要である。

「それで、何か音はしたかい」
「いいや」
 ふん、と相手が鼻を鳴らす。「つまらん生よ」

箱はかたち変わらず手中にあった。
「つまらない?」
くだらない、の間違いではないか。改めれば何とも脆く、握力どころか指先で潰えてしまいそうな箱である。
 沈黙がながれたが、今更取り上げられることはないようだった。
「いいかね若い者。そも、箱に意味を求める姿勢が愚かしく、面倒なものよ」
しかし面白いと、声をひそめ。
「軽率に振る舞い、思いも掛けないことを待つ」
「それこそが醍醐味じゃあないか」
「……おや、そうかい?」
「先程たしかに、箱は唄っていたと思うがね」
 もういちど耳をあててみる。


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