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懐炉

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010 紅の記憶

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その光景は鮮烈に。
血走った眼をはしらせ、駆け抜ける残像、天へと槍を突き付け、旗を掲げる群像。
全ては高潔のために。
全ては栄光の世のために。
「頁が捲られ……」
瓦礫のした、傷ついた瞼を閉じかけ、祖が。
「なんです」聞き逃すまいと身を寄せれば、ふと微笑まれ「何が可笑しいのです」
しるしているのだと祖は云った。
すべては記されている。
「記憶とは、なにかを知っているか。どうすべきかを……」
「いえ、いいえ。どうすべきです、私は」
……私達は。
延焼が近づいている。

「記憶とは」

この先で成り立っている。
主が産まれ、掴まり立ち、剣を振るうように。
焼き付け、記し、語り継ぐ。思い描き、再現し、虚構となる。
恐れてはならぬ、枯れ地に落つ涙が跡形も無くなることを。
信じねばならぬ。
雨粒を頼りに蒔かれた種が発芽す日々を。
「いづれ、思い出さるる時の為」

頁が捲られることは無かった。
瓦礫の下が描かれることも。
私は思い出さねばならない。祖の教えと微笑みの意味を。


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