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続編
63 豊穣祭当日
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――――豊穣祭当日。
郊外から来た観光客や商人たちが朝から続々と王都内に入り、休日と言う事もあって王都に住む人たちも町に出て、いつも以上に通りは人で賑わっていた。
広場では多く屋台が出店し、商店通りでは食べ歩きできるものが売られ、人々は王都にしかない物珍しいものを見たり、買ったりして楽しんでいた。
だが多くの人が今日一番に楽しみにしているのは魔塔の魔女達による花火魔法だ。
夜空に燦然と輝く数多の光。
それは本来、今年一年の豊穣を大地の神に感謝して行われていたものだったが、今となっては人々が楽しむ一大イベントとなっている。
その為、人々は朝早くから王都へやってきて昼は街を、夜は花火を楽しむのが、もはや通例だった。
しかし、人が多くなればそれだけ揉め事や事件も起きてくるわけで、騎士達はいつも以上の人数配置で王都内を警備、巡回し、治安を守っていた。それは勿論、ドレイクも。
だが町中を一人で巡回中だったドレイクはある人物から声をかけられた。
◇◇
「おーいっ、ドレイク!」
呑気な声でドレイクを呼んだのは、祭りを楽しんでいるローレンツだった。その横には当然ターニャもいる。
「こんにちは、ドレイクさん。お疲れ様です」
ターニャはローレンツと違って礼儀正しく勤務中の騎士に労いの言葉をかけた。
そんな二人をドレイクは見る。
「ローレンツに嫁さんか」
ドレイクが言いながらローレンツの手元を見れば、その手には出店で買ったであろう食べ物をたくさん持っている。どうやら随分と楽しんでいるようだ。
「店はどうした。一番の活気時じゃないのか?」
「今は一時休憩中、俺達だって祭りを楽しみたいからな。でも夕方になったらまた店を開けるつもりだ。それにしても、お前が昼に出てるなんて珍しいな?」
元同僚であるローレンツはドレイクが珍しく日勤で出ている事を指して言い、ドレイクは内心少しギクッとする。
「別に珍しくないだろう。たまたまだ」
「へぇ~、たまたまねぇ。今までは誰にも誘われたくないって理由で豊穣祭は夜勤ばっかりをしてたのにぃ? 俺はてっきり、一緒に花火を見たい誰かがいるから日勤になったと思ったんだけど?」
ローレンツはにんまりっとした顔で言い、ドレイクは面倒くさい絡み方をされてうんざりした顔をする。が、ここで誤魔化しても鬱陶しく聞かれるだけなので、ドレイクは素直に答えた。
「まあ、そんなところだ」
「へぇ、じゃあ順調なのか?」
ローレンツに尋ねられてドレイクは少し黙る。
「……順調、じゃないが。まあ希望はあると言ったところだな」
ドレイクが答えれば、兄のような幼馴染は「よかったな」とバシッと背中を叩いた。
「わかったなら、さっさと祭りに戻れ。俺は仕事がある」
ドレイクはムスッとして言ったが、ローレンツにはいつもの事で。
「はいはい、わかったよ。じゃ、俺達は祭りを楽しんでくる。ターニャ、行こ。ドレイク、仕事頑張れよ。じゃあな~」
呑気な声でローレンツは言い、隣にいるターニャの手を引いて人混みの中に消えて行った。
……あいつ、この事が聞きたくて声を掛けてきたんじゃないだろうな?
お節介な幼馴染の後ろ姿を眺めながら思い、ふぅっと小さく息を吐いた。
それからコーディーからの手紙をふと思い出す。
……今日の二十時に王城の屋上で、か。どうせ色っぽい誘いじゃないんだろうが、どうして二十時なのか。花火魔法の開始時刻は十九時……まさか時間を間違えてるわけじゃないよな?
そう思いながらも、夜にはまたコーディーに会えると思うとドレイクの心は浮足立ってしまう。だが今はまだ仕事中。ドレイクは浮足立つ心を抑え、気を引き締めてまた巡回に戻った。
――――それから時間はあっと言う間に経ち、すっかり夕日も落ちて夕闇が辺りを包む頃。
すでに夜空には何発もの美しい花火魔法が打ちあがっていた。
ドンドンッと空に響く音と共にキラキラと輝く花火魔法。
そして同時に多くの人の歓声が王城まで聞こえてくる。
だが、毎年この声を聞くのがドレイクはたまらなく嫌だった。
豊穣祭は基本的に家族で楽しむもの。だから、家族のいないドレイクにとって家族や恋人同士で楽しんでいる声を聞くのは少し苦痛だった。
なので毎年の豊穣祭は夜勤に徹して、仕事で気を紛らわせていたのだが……今年も一人で打ちあがる花火を見るが、去年とは違い気持ちはソワソワしていた。
……あいつに会えるからって、俺もだらしがないな。
気が引き締まらない自分自身にドレイクは呆れながらも、やはり足は速く動こうとする。
……昨日の今日だ。あいつ、どんな顔をするか。
ドレイクは恥ずかしそうにするコーディーが浮かぶが、王城の入り口までやってくるとそこにはある人物がいた。
「ドレイク、待っていたわぁ」
ドレイクに声をかけたのはルーシーだった。
「ルーシー!」
「久しぶりねぇ、元気そうで何よりだわぁ。あ、それとお礼にくれたスモークチキン、とってもおいしかったわぁ。ありがとうねぇ」
ルーシーはドレイクを見上げて言った。
「美味しかったなら、また持ってこよう」
「あらぁ、嬉しいわぁ」
「それよりどうしてルーシーがここに? コーディーが寄越したのか?」
「ええ、そうよぉ。私は屋上までの道案内」
ルーシーはニコッと笑って言った。
そしてドレイクは王城には何度も足を運んだことがあるが、屋上までは行った事がなかったのでルーシーの言葉は素直にありがたかった。
……一応団長に聞いてはいたが、ルーシーがいるなら迷うことはなさそうだな。
「じゃ、とりあえず行きましょう。アタシに付いてきて」
「ああ」
ドレイクは返事をしてトコトコと歩くルーシーの後ろをついて歩く。
王城内を歩けば、花火の為か、明るさを極力落としており、数名の騎士が明かりを手に持って巡回に当たっているようだった。その中には勿論ドレイクの顔見知りもいて、ルーシーに連れられたドレイクを見て彼らは怪訝な表情を見せるが、ドレイクは会釈するだけで前を歩くルーシーに静かについて行った。
そして彼らも、ドレイクを連れているのが魔法研究所の有名な猫である事に気が付き、話しかけることはしなかった。
しかし人がいない廊下を通りかかった時、ドレイクはルーシーについに問いかけた。
「ルーシー、コーディーはどうして俺を王城の屋上に?」
「あらぁ、あの子、説明してないのぉ?」
「コーディーには王城の屋上に来るようにとしか」
「そうなのねぇ。まあ説明するより見た方が早いものねぇ」
「見た方が早い?」
なんの事かわからないドレイクはそのまま言葉を返した。でもルーシーは教えてはくれなかった。
「見ればわかるわ……。ドレイク、コーディーをお願いね」
ルーシーは頼むように言った。でもその言葉の真意がわからず、ドレイクは曖昧に「ああ」と答えた。
……見ればわかる、か。一体、どういう事なんだろうか。
わからないままドレイクはルーシーの後ろを歩き、静かな階段を昇ると遂に屋上の扉の前までやって来た。
「コーディーはこの先にいるわぁ。アタシはここまで」
ルーシーはそう言うとニコッと笑った。どうやらここから先は一人のようだ、とドレイクは察する。でも道案内をしてくれただけでも十分すぎた。
「助かった、ありがとう」
ドレイクはルーシーに素直にお礼を言った。そしてドレイクはドアノブに手をかける。
……この先にコーディーが。
ざわつき始める気持ちを抑えて、ドレイクはぐっと力を入れて重い扉を開いた。
そうすれば花火の轟音が体に響く。空が近いせいだ。
でも、その屋上の開かれた場所に一人、黒いローブを着た誰が立っていた。
その人物からいくつもの花火魔法が打ち上げられる。そして両手に大きな光の玉を作り出すとそっと暗い夜空に打ち放った。その光はひゅうっと空に飛び、光の筋が一本、高く伸びたかと思うと空の天井間近でドオォンッと振動する音の後、眩い光を花開かせる。
大きな花火が空いっぱいに広がり、同時に『ワァ!』と歓声が上がった。だが命短い煌めく光は、瞬く間に星屑のように空へと消えていき、辺りは暗くなる。
直後、街から大きな喝采が地鳴りのように響き、少ししてから街の鐘が鳴った。
花火の打ち上げ終了を報せる音だ。
すると次第に拍手は落ち着いて行き、それから少しして街はまた静かになった。けれどどこか楽しい雰囲気だけが残っている。きっと今頃街中では花火魔法について人々が色々と感想を言っているだろう。
そして、花火のために消されていた街の灯りがつき始めた。
その街からの灯りは王城の屋上にまで届き、黒いローブを着た人物のシルエットをほんのりと映し出す。
その人物をドレイクは見つめ、声をかけた。
「コーディー、なのか?」
ドレイクが名前を呼べば、その肩がぴくりと動いた。どうやらコーディーのようだ、とドレイクは思い、数メートル先にいるコーディーへと歩き出す。
……まさかコーディーが花火魔法を使っていたとはな。しかし……。
「コーディー、他の魔女様達はどこに?」
ドレイクは周りを見渡しながら尋ねた。
花火魔法は魔塔の魔女達が行っている、という話だったからだ。
……ここではない他の場所で花火魔法を打ち上げて居たのだろうか?
相当数の花火魔法が打ち上がったのだ。恐らく他の場所で打ち上げたのだろう、とドレイクは結論づけた。
そしてコーディーは振り返らないまま、ドレイクに言った。
「姉さん達はここにはいないよ。ドレイク、そこで立ち止まって」
コーディーに言われ、ドレイクはピタリと足を止める。
コーディーまで、あと数歩の距離だと言うのに。
「コーディー?」
ドレイクがどうして、という意味合いも含めて名前を呼べば、コーディーはようやくゆっくりと振り向いた。
しかし、その姿にドレイクは驚愕することになる。
なぜなら、コーディーの姿がいつもと違ったからだ。
――――浅黒い肌に白い髪。そしていつも隠されていた前髪は上げられ、その額には三つ目の瞳が見開いていた。
「……ドレイク、これが僕なんだ」
******************
ついにコーディーの正体が!
そして残り十話です。
最後までお付き合いくださいませ(・ω・)ノ
しかしすっかり秋めいてきましたね。でも何を着ればいいのかわからない…秋は好きだけど、いつも悩みます(笑)
郊外から来た観光客や商人たちが朝から続々と王都内に入り、休日と言う事もあって王都に住む人たちも町に出て、いつも以上に通りは人で賑わっていた。
広場では多く屋台が出店し、商店通りでは食べ歩きできるものが売られ、人々は王都にしかない物珍しいものを見たり、買ったりして楽しんでいた。
だが多くの人が今日一番に楽しみにしているのは魔塔の魔女達による花火魔法だ。
夜空に燦然と輝く数多の光。
それは本来、今年一年の豊穣を大地の神に感謝して行われていたものだったが、今となっては人々が楽しむ一大イベントとなっている。
その為、人々は朝早くから王都へやってきて昼は街を、夜は花火を楽しむのが、もはや通例だった。
しかし、人が多くなればそれだけ揉め事や事件も起きてくるわけで、騎士達はいつも以上の人数配置で王都内を警備、巡回し、治安を守っていた。それは勿論、ドレイクも。
だが町中を一人で巡回中だったドレイクはある人物から声をかけられた。
◇◇
「おーいっ、ドレイク!」
呑気な声でドレイクを呼んだのは、祭りを楽しんでいるローレンツだった。その横には当然ターニャもいる。
「こんにちは、ドレイクさん。お疲れ様です」
ターニャはローレンツと違って礼儀正しく勤務中の騎士に労いの言葉をかけた。
そんな二人をドレイクは見る。
「ローレンツに嫁さんか」
ドレイクが言いながらローレンツの手元を見れば、その手には出店で買ったであろう食べ物をたくさん持っている。どうやら随分と楽しんでいるようだ。
「店はどうした。一番の活気時じゃないのか?」
「今は一時休憩中、俺達だって祭りを楽しみたいからな。でも夕方になったらまた店を開けるつもりだ。それにしても、お前が昼に出てるなんて珍しいな?」
元同僚であるローレンツはドレイクが珍しく日勤で出ている事を指して言い、ドレイクは内心少しギクッとする。
「別に珍しくないだろう。たまたまだ」
「へぇ~、たまたまねぇ。今までは誰にも誘われたくないって理由で豊穣祭は夜勤ばっかりをしてたのにぃ? 俺はてっきり、一緒に花火を見たい誰かがいるから日勤になったと思ったんだけど?」
ローレンツはにんまりっとした顔で言い、ドレイクは面倒くさい絡み方をされてうんざりした顔をする。が、ここで誤魔化しても鬱陶しく聞かれるだけなので、ドレイクは素直に答えた。
「まあ、そんなところだ」
「へぇ、じゃあ順調なのか?」
ローレンツに尋ねられてドレイクは少し黙る。
「……順調、じゃないが。まあ希望はあると言ったところだな」
ドレイクが答えれば、兄のような幼馴染は「よかったな」とバシッと背中を叩いた。
「わかったなら、さっさと祭りに戻れ。俺は仕事がある」
ドレイクはムスッとして言ったが、ローレンツにはいつもの事で。
「はいはい、わかったよ。じゃ、俺達は祭りを楽しんでくる。ターニャ、行こ。ドレイク、仕事頑張れよ。じゃあな~」
呑気な声でローレンツは言い、隣にいるターニャの手を引いて人混みの中に消えて行った。
……あいつ、この事が聞きたくて声を掛けてきたんじゃないだろうな?
お節介な幼馴染の後ろ姿を眺めながら思い、ふぅっと小さく息を吐いた。
それからコーディーからの手紙をふと思い出す。
……今日の二十時に王城の屋上で、か。どうせ色っぽい誘いじゃないんだろうが、どうして二十時なのか。花火魔法の開始時刻は十九時……まさか時間を間違えてるわけじゃないよな?
そう思いながらも、夜にはまたコーディーに会えると思うとドレイクの心は浮足立ってしまう。だが今はまだ仕事中。ドレイクは浮足立つ心を抑え、気を引き締めてまた巡回に戻った。
――――それから時間はあっと言う間に経ち、すっかり夕日も落ちて夕闇が辺りを包む頃。
すでに夜空には何発もの美しい花火魔法が打ちあがっていた。
ドンドンッと空に響く音と共にキラキラと輝く花火魔法。
そして同時に多くの人の歓声が王城まで聞こえてくる。
だが、毎年この声を聞くのがドレイクはたまらなく嫌だった。
豊穣祭は基本的に家族で楽しむもの。だから、家族のいないドレイクにとって家族や恋人同士で楽しんでいる声を聞くのは少し苦痛だった。
なので毎年の豊穣祭は夜勤に徹して、仕事で気を紛らわせていたのだが……今年も一人で打ちあがる花火を見るが、去年とは違い気持ちはソワソワしていた。
……あいつに会えるからって、俺もだらしがないな。
気が引き締まらない自分自身にドレイクは呆れながらも、やはり足は速く動こうとする。
……昨日の今日だ。あいつ、どんな顔をするか。
ドレイクは恥ずかしそうにするコーディーが浮かぶが、王城の入り口までやってくるとそこにはある人物がいた。
「ドレイク、待っていたわぁ」
ドレイクに声をかけたのはルーシーだった。
「ルーシー!」
「久しぶりねぇ、元気そうで何よりだわぁ。あ、それとお礼にくれたスモークチキン、とってもおいしかったわぁ。ありがとうねぇ」
ルーシーはドレイクを見上げて言った。
「美味しかったなら、また持ってこよう」
「あらぁ、嬉しいわぁ」
「それよりどうしてルーシーがここに? コーディーが寄越したのか?」
「ええ、そうよぉ。私は屋上までの道案内」
ルーシーはニコッと笑って言った。
そしてドレイクは王城には何度も足を運んだことがあるが、屋上までは行った事がなかったのでルーシーの言葉は素直にありがたかった。
……一応団長に聞いてはいたが、ルーシーがいるなら迷うことはなさそうだな。
「じゃ、とりあえず行きましょう。アタシに付いてきて」
「ああ」
ドレイクは返事をしてトコトコと歩くルーシーの後ろをついて歩く。
王城内を歩けば、花火の為か、明るさを極力落としており、数名の騎士が明かりを手に持って巡回に当たっているようだった。その中には勿論ドレイクの顔見知りもいて、ルーシーに連れられたドレイクを見て彼らは怪訝な表情を見せるが、ドレイクは会釈するだけで前を歩くルーシーに静かについて行った。
そして彼らも、ドレイクを連れているのが魔法研究所の有名な猫である事に気が付き、話しかけることはしなかった。
しかし人がいない廊下を通りかかった時、ドレイクはルーシーについに問いかけた。
「ルーシー、コーディーはどうして俺を王城の屋上に?」
「あらぁ、あの子、説明してないのぉ?」
「コーディーには王城の屋上に来るようにとしか」
「そうなのねぇ。まあ説明するより見た方が早いものねぇ」
「見た方が早い?」
なんの事かわからないドレイクはそのまま言葉を返した。でもルーシーは教えてはくれなかった。
「見ればわかるわ……。ドレイク、コーディーをお願いね」
ルーシーは頼むように言った。でもその言葉の真意がわからず、ドレイクは曖昧に「ああ」と答えた。
……見ればわかる、か。一体、どういう事なんだろうか。
わからないままドレイクはルーシーの後ろを歩き、静かな階段を昇ると遂に屋上の扉の前までやって来た。
「コーディーはこの先にいるわぁ。アタシはここまで」
ルーシーはそう言うとニコッと笑った。どうやらここから先は一人のようだ、とドレイクは察する。でも道案内をしてくれただけでも十分すぎた。
「助かった、ありがとう」
ドレイクはルーシーに素直にお礼を言った。そしてドレイクはドアノブに手をかける。
……この先にコーディーが。
ざわつき始める気持ちを抑えて、ドレイクはぐっと力を入れて重い扉を開いた。
そうすれば花火の轟音が体に響く。空が近いせいだ。
でも、その屋上の開かれた場所に一人、黒いローブを着た誰が立っていた。
その人物からいくつもの花火魔法が打ち上げられる。そして両手に大きな光の玉を作り出すとそっと暗い夜空に打ち放った。その光はひゅうっと空に飛び、光の筋が一本、高く伸びたかと思うと空の天井間近でドオォンッと振動する音の後、眩い光を花開かせる。
大きな花火が空いっぱいに広がり、同時に『ワァ!』と歓声が上がった。だが命短い煌めく光は、瞬く間に星屑のように空へと消えていき、辺りは暗くなる。
直後、街から大きな喝采が地鳴りのように響き、少ししてから街の鐘が鳴った。
花火の打ち上げ終了を報せる音だ。
すると次第に拍手は落ち着いて行き、それから少しして街はまた静かになった。けれどどこか楽しい雰囲気だけが残っている。きっと今頃街中では花火魔法について人々が色々と感想を言っているだろう。
そして、花火のために消されていた街の灯りがつき始めた。
その街からの灯りは王城の屋上にまで届き、黒いローブを着た人物のシルエットをほんのりと映し出す。
その人物をドレイクは見つめ、声をかけた。
「コーディー、なのか?」
ドレイクが名前を呼べば、その肩がぴくりと動いた。どうやらコーディーのようだ、とドレイクは思い、数メートル先にいるコーディーへと歩き出す。
……まさかコーディーが花火魔法を使っていたとはな。しかし……。
「コーディー、他の魔女様達はどこに?」
ドレイクは周りを見渡しながら尋ねた。
花火魔法は魔塔の魔女達が行っている、という話だったからだ。
……ここではない他の場所で花火魔法を打ち上げて居たのだろうか?
相当数の花火魔法が打ち上がったのだ。恐らく他の場所で打ち上げたのだろう、とドレイクは結論づけた。
そしてコーディーは振り返らないまま、ドレイクに言った。
「姉さん達はここにはいないよ。ドレイク、そこで立ち止まって」
コーディーに言われ、ドレイクはピタリと足を止める。
コーディーまで、あと数歩の距離だと言うのに。
「コーディー?」
ドレイクがどうして、という意味合いも含めて名前を呼べば、コーディーはようやくゆっくりと振り向いた。
しかし、その姿にドレイクは驚愕することになる。
なぜなら、コーディーの姿がいつもと違ったからだ。
――――浅黒い肌に白い髪。そしていつも隠されていた前髪は上げられ、その額には三つ目の瞳が見開いていた。
「……ドレイク、これが僕なんだ」
******************
ついにコーディーの正体が!
そして残り十話です。
最後までお付き合いくださいませ(・ω・)ノ
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・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
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